【シナリオブログ】勲章の痕⑤
- 2018.07.28
- シナリオ本編
○ 病院・集中治療室
人工呼吸器を付けて、ベッドで寝ている瀬羅。
○ 同・集中治療室前
椅子に座って俯いている瑞樹。
その隣に黙って座っている仙石。
扉の前に立っている石尾。
瑞樹「……私のせいです」
石尾「最終的に許可を出したのは俺だ」
瑞樹「……」
石尾「お前はもう帰れ」
瑞樹「そんなっ!」
石尾「あと、三時間後には出勤だろ。少し、休んでおけ」
瑞樹「大丈夫です」
石尾「瀬羅がこんな状態だ。お前まで倒れたら、どうするんだ」
瑞樹「……」
ゆっくりと立ち上がり、廊下を歩いていく瑞樹。
それについて行く仙石。
瑞樹「……隠しててごめんなさい」
仙石「消防士だってこと? 少し驚いたのは確かだけど……どうして、黙ってたの?」
瑞樹「引く人が多くて。それに、勤務時間も他の人とは違うし。……すれ違いも多くなっちゃうんだ。この職種って」
仙石「僕は気にしないよ。……だから、これからも……」
瑞樹「……今は、何も考えられないよ」
仙石「……」
仙石が立ち止まり、瑞樹が歩き去っていく後姿をジッと見つめる。
○ 三下消防署・訓練所
瑞樹が必死にロープを腕だけで登る。
○ 同(夕方)
瑞樹が訓練場の端を走っている。
○ 同・事務室
窓から瑞樹が走っているのを見ている石尾。
石尾「……」
○ デパート裏・ゴミ置き
ゴミから炎と煙が上がっている。
石尾や瑞樹たちが消火活動をしている。
その様子を多くの野次馬が見ている。
その中には芝崎もいる。
芝崎「(つまらなそうに)……」
○ 場街外れ・アパート
三階あたりから炎と煙が上がっている。
石尾や瑞樹が消火活動をしている。
その様子を見ている大勢の野次馬たち。
その中に柴崎もいる。
女性が瑞樹の腕に縋り付く。
女性「部屋に、旦那が残っているんです! 助けてください!」
瑞樹「……全力で、消火活動をしてますので」
瑞樹が女性の腕を振りほどく。
石尾「……」
女性「(口元を抑えて)うう……」
芝崎がそれを見て、舌打ちする。
芝崎「なんなんだよ! なんで、そんな顔すんだよ……。(顔を歪めて)あいつのせいか」
○ 三下消防署・事務所
報告書を書いている瑞樹。
疲れた表情をしている。
そこに石尾がやってきて、瑞樹の机の上に数十枚の写真を置く。
石尾「警察では、放火と断定して捜査を始めたそうだ。その中に、気になった奴はいないか?」
瑞樹がチラリと写真を見る。
そこには火事を見物している大勢の野次馬が写っている。
瑞樹「……」
石尾「うちの管轄内の火事が多いからな。犯人はこの中にいる可能性が高い」
写真を次々に見ていく瑞樹。
その中で、芝崎の姿を見て、目を見開く。
勢いよく、他の写真も見比べ始める。
石尾「どうした?」
瑞樹「(指差して)この人……。私のファンだって言っていた人です」
石尾「なるほど。どの火事場にも写ってるな」
瑞樹「すいません。私のせいで……」
石尾「馬鹿。考え過ぎだ。とにかく、このことを警察に伝えておく……」
そのとき、放送がかかる。
アナウンス「救急指令。石尾救急隊、出動。火災事故。ショッピングモール内、ホワイトスノーから出火した模様……」
瑞樹が目を見開いて、立ち上がる。
○ ショッピングモール外観
黒い煙が吹き出している。
○ 同・入り口付近
多くの消防車と救急車が止まっている。
客が次々と出てきて、救急隊員に保護されていく。
○ ショッピングモール内
いたるところから炎が巻き上がっている。
必死に消火活動をしている瑞樹たち。
煙の中から人影がふらつきながら歩いてきて、瑞樹がかけよる。
煙の中から出て来た女性が瑞樹の腕を掴み、顔を上げる。
出てきたのはホワイト・スノーの店員。
店員「雨宮さん! 社長が、まだ店内に!」
瑞樹が目を見開く。
瑞樹「課長! この人、お願いします」
瑞樹が煙の中へ突っ込んでいく。
石尾「待て、雨宮!」
○ white snow内
瑞樹が店内のドアを開いて入ってくる。
煙が充満し、奥から激しい炎が上がっている。
躊躇することなく、突き進んでいく瑞樹。
○ 同・応接室
瑞樹が部屋に入ってくる。
瑞樹「隆則さん!?」
煙が充満している中、辺りを見渡す瑞樹。
床に倒れている仙石を見つける。
瑞樹「隆則さん!」
駆け寄ると、うっすらと目を開く。
仙石「瑞樹……さん?」
瑞樹「歩ける? 肩に捕まって」
仙石に肩を貸して、立たせると、仙石が抱えていた書類が落ちる。
それには瑞樹がモニターとしての経過の写真が貼られている。
瑞樹「これって……」
仙石「瑞樹さんと出会えたきっかけだったから……。どうしても手放せなくて」
瑞樹が書類を拾い、歩き始める。
仙石「瑞樹さん。一つだけ教えて欲しいことがある(咳き込む)」
瑞樹「しゃべらないで。煙吸い込むから」
仙石「……どうして、消防士をやってるんだい?」
瑞樹「……」
仙石を気に掛けながらも、ゆっくり、確実に前に進んでいく瑞樹。
瑞樹「近所に、とっても仲がいい友達が住んでたの」
仙石「……」
瑞樹「学校に行くのも、帰るのも一緒で、いつもその子と遊んでたんだ。……ある日ね、その子の家が火事になったの」
仙石「火事に?」
瑞樹「(頷いて)放火だった。その子の部屋は二階で、気付いた時には一階は火の海だったみたい。消防士の人たちは家に入るに入れなくて……」
仙石「……」
瑞樹「窓からね。……その子が助けてって、叫んでたんだ。……それを、私、ずっと見上げてた。何にもできないで……見てることしか……できなかった」
仙石「瑞樹さん……」
瑞樹「だからね。私は……助けられる消防士になりたかった。あの子みたいな子は出したくないって、出さないって決めてたの」
仙石「……辛いこと思い出させて、ごめん」
首を横に振る瑞樹。
仙石「でもさ。僕は思うんだ。きっと、その子は望んでないじゃないかって」
瑞樹「え?」
仙石「仲が良かったんだよね? その瑞樹さんが、人を助ける為に、怪我したり、死んだりしたら、きっとその子は悲しむんじゃないかな?」
瑞樹「……」
仙石「その子が望んでいるのは、瑞樹さんが人を助けることじゃなくて、瑞樹さん自身の幸せだと思うよ」
瑞樹「……」
そのとき、他の消防隊員が駆け付ける。
隊員「雨宮隊員、見つけました! 保護者対象と一緒です」
瑞樹「頼みます。私は他に中に人がいないかを見てきます」
瑞樹が隊員に仙石を任せ、戻っていく。
○ カフェ
瑞樹と仙石が向かい合って座っている。
瑞樹「え? 結婚を前提に?」
仙石「あれ? そんなに意外だった?」
瑞樹「いや、その……あんなことがあったばかりだったから」
仙石「だからだよ。あのときも言ったけど、瑞樹さんは自分を犠牲にするんじゃなくて、幸せになることを考えた方がいい。そして、その役目は僕がしたいって思っただけさ」
瑞樹「でも、そんな急に……」
仙石「答えはすぐじゃなくていい。……でも、受け入れてくれる場合、一つだけ条件っていうか、希望がある。……瑞樹さんには消防士は辞めてもらいたい」
瑞樹「……」
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