【シナリオブログ】無人島にある秩序④

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智也(N)「次の日、星野が撮った動画を持って警察のところに行ってみたが、被害届が出ていないという理由で追い返されてしまった。被害者のあいつらも、火を使ったということもあり、届けなかったようだ」

観光協会事務所。
智也と美香が机に向かって、パソコンを操作している。
美香「これでよかったのかもしれませんね」
智也「……警察に追い返されたことか?」
美香「有志会の人たちの気持ち、わかる気がします」
智也「……」
美香「私だって、好きなアニメの聖地がにわか共に穢されたら、同じことしそうです」
智也「……何を言ってるのかわからないが、何となく気持ちはわかった。……けど、個人的な気持ちだけで、他人を傷つけてもいいのか?」
美香「あくまで、ターゲットは穢した人間のみですからね。他の人には手を出しませんよ。有志会の人たちみたいに」
智也「……街の人たちはどうなる? せっかく、景気が良くなったのに、変な奴らのせいで、客足が途絶えるんだぞ?」
美香「街のためなら、個人の心情は無視するってことですか?」
智也「いや……そうとまでは言ってないけど」
美香のタイピング音だけが部屋に響く。
智也「……お前は、有志会を捕まえるの、嫌なのか?」
美香「そんなことないですよ」
智也「え?」
美香「だって、あの島に思い入れないですし」
智也「……いい話だったのに、台無しだよ」
和弘が部屋に入って来る。
和弘「お疲れ様ー。……お前ら、昨日、島の方に行ってたんだってな。今度からは行く前に報告してくれよー」
和弘が自席の椅子に座る。
智也「すいません。課長、外出されてたみたですから、事後でいいかなって思いまして」
和弘「ま、メールの一本でもいいから、入れておいてくれ。……で? 進捗、あったんだって?」
智也「え? あ、はい。一応、有志会メンバーの三人の画像を入手しました」
和弘「それはお手柄だったな。……じゃあ、その画像を使って、調査を開始するのか?」
智也「はい。ただ、さすがに張り紙はできませんので、この写真を元に聞き込みをしようかと思います。たぶん、特定するのはそんなに難しくはないと思います」
和弘「うーん。聞き込みかぁ……」
智也「何か、懸念点があるんですか?」
和弘「確かに、特定は可能だと思う。だが、聞き込みをするってことは、有志会のメンバーが街の人たちにバレるというわけだ」
智也「まあ、そうでしょうね」
和弘「あいつらは、自分の理念でやったことだが、街の人たちにとっては、景気に邪魔をした奴らってことになる」
智也「……」
和弘「この街にはいられなくなるだろうな」
美香「それを覚悟でやってるんじゃないですかね」
和弘「仮にそうだったとしても、それを我々が先導するような形になるのはなぁ。世間体もある。……何とか、現行犯で捕まえて説得というようにできないか?」
智也「星野も言ってますが、有志会のメンバーは強い信念を持ってやってます。恐らく、説得には応じないかと……」
和弘「……しかし、憶測だけで決めてしまうのも、どうかと思うぞ。ここは、一度、説得してみて、駄目だったら警察に届ける、ということでどうだ?」
智也「……課長がそう言うなら」
和弘「すまんな。が、代わりと言っては何だが、私も島に行って指揮を執ることにした」
智也「え? 急にどうしたんですか?」
和弘「……実は少し困ったことになってな」
智也「困ったこと……ですか?」
和弘「イギリスの親善大使が視察に来ることになった」
智也「視察? どこにですか?」
和弘「友ヶ島に決まってるだろう」
智也「でも、どうして、大使が島なんかに?」
和弘「大使は日本のアニメが好きらしくてな。友ヶ島の噂を聞いて、是非、見てみたいということになったらしい」
美香「親近感が沸く大使ですね」
智也「いや、今はそんな話じゃないから」
和弘「日本としても、イギリスとのパイプ強化は是非とも成し遂げておきたいというのがあるからな。こちらに聞くまでもなく、すぐに日程が決められたようだ」
智也「政治的な案件ってことですか……」
和弘「だから、有志会のことは、何としてでも止めないとならない。下手を打って、大使の心証を悪くすれば、最悪、国からの圧力がかかって、友ヶ島は渡航禁止になる恐れだって出てくる」
智也「……大使が来るのはいつですか?」
和弘「三日後だ」

智也(N)「事は国の外交に関わる、重大な案件ということで、警察の協力を提案したが、課長に却下されてしまった。市としては、あまり事を大きくしたくないという思惑があるようだ。結局、市の職員数名を借り、総勢、十名ほどで作戦を遂行することになったのだった」

友ヶ島内。
砲台跡地を歩く、智也、和弘、美香。
美香「……(ため息)」
和弘「へえ……。随分と、綺麗になってきてるじゃないか」
智也「そうですか? 結構、ゴミとか落ちてますけど」
和弘「……ゴミ問題はどうしようもないな。まあ、本来であれば、あまり、こういう場所は観光地にするべきではないんだがな」
美香「……」
智也「課長。観光協会って立場を忘れないでくださいね」
和弘「おっと、そうだった。どうも、身びいきしてしまうな」
智也「この島に、何か思い入れが?」
和弘「うちのじいさんがな、戦争で、ここに派兵されていたんだよ。子供のころによく、話を聞いたもんだ。懐かしいな」
美香「……」
智也「星野。いつまでふてくされてるんだよ」
美香「……一生恨みますので、そのつもりで」
智也「仕方ないだろ。緊急なんだし、人手も足りてないんだから」
美香「私だって、緊急でした。年に二回しかないんですよ、コミケ」
智也「次のに行けばいいだろ」
美香「そういう問題じゃないんです!」
和弘「おいおい。二人とも、喧嘩はそのくらいにしておけ。そろそろ、作戦に移るぞ」
智也「星野。ちゃんと、把握してるだろうな?」
美香「もちです」
智也「……言ってみろ」
美香「まず、市役所員の人たちが騒ぎを起こして、それを私たちが隠れて見てます」
智也「うん。それで?」
美香「有志会のメンバーが襲ってきたところを、智っちさんが捕まえる」
智也「二人で、だ!」
美香「……か弱い女の子に、そんな物騒なこと、させるんですか?」
智也「そのために、アレを持たせてるんだろ」
美香「そうでした。一度使ってみたいと思ってたので、楽しみです」
和弘「じゃあ、二人とも、常に無線での報告を忘れないようにな」
和弘が行ってしまう。
美香「結局、課長は島には来ましたけど、仕事らしい仕事はしないんですね」
智也「……無線切ってから言え」
美香「切ってないから、言ってるんです」
智也「(ため息)ホント、お前は凄いな」
そのとき、無線が入る。
和弘の声「二人とも、早く位置につけ!」
智也「……ほら、星野。あっちの木の陰に隠れてろ。居眠りすんなよ」
智也と美香が別々の方向へ歩いていく。

智也(N)「炎天下の中、一日、待ってみたが有志会のメンバーは現れることはなかった。他のメンバーも、島を監視して回っていたが、どこにも現れなかったと報告された。その日は、星野だけは帰し、俺たちは島でテントを立てて寝ることになった。残り二日。なんとしてでも、有志会のメンバーを捕まえないとならない」