【ドラマシナリオ】あの時の自分
- 2019.05.14
- 映像系(10分~30分)
京平(N)「自分が生きている意味。それを必死に考えることが、この世に自分を縛り付ける手段だった。きっと僕が生まれてきたことには意味がある。そう考えていなければ、僕はとっくに自分で自分の存在を消していたと思う……」
京平「や、止めてよ!」
将司「おい、中田、田代、抑えておけよ」
京平「止めてってば!」
将司「せーの!」
将司(10)が三島京平(10)のズボンを脱がす。
京平「ズボン、返してよ!」
将司「あはははは! 三島、お前は今日、パンツで体育に出ろ。いいか? サボるんじゃねえぞ! それで体育に出れば、ズボンは返してやる」
将司たちが笑いながら、立ち去っていく。
京平「うっ、ううう……」
チャイムの音。
大勢の、クスクスと笑う声が聞こえる。
先生「よーし、みんな、体育の授業始めるぞ。……って、おい、三島、お前、なんて格好してるんだ!」
クラスの全員がドッと笑う。
京平「……ジャージ、忘れました」
先生「だからって、ズボン脱ぐことないだろ」
将司「三島は変態だから!」
また、クラスの全員がドッと笑う。
先生「三島。そういうのは、家の中だけでやろうな」
また、クラス中が笑う。
京平(N)「何度も死のうと思った。きっと死ねば、この地獄から解放される。何度もそう思った。……でも、僕は自分が、何のために生まれてきたのかを知りたかった。その答えをずっと探していた」
母親「……恭平、あなた、イジメられてるの?」
京平「……え?」
母親「家のポストにこんな手紙が入ってたのよ」
京平(N)「そういって、お母さんが見せてくれたのは、僕が学校でイジメられていることや、先生も見てみぬふりをしていることが書かれた手紙だった。丸い字か見て、恐らく、女の子が書いたものだと思う」
父親「転校させよう」
母親「あなた、それより、校長先生とか教育委員会とかに言ったらどう?」
父親「どうせ、揉み消されるに決まってる。下手をすると、恭平の今後に影響するようなことをされるかもしれないし」
母親「でも、私、悔しいわ」
父親「俺もそうだけど……恭平はどうしたい?」
京平(N)「悔しくないと言えば嘘になる。でも、それよりも僕は、転校できるなら、それでいいと思った。復讐よりも、新しい生活の方に心が傾いていた」
坂下耕三(53)と京平が廊下を歩く。
耕三「やあ、君が三島恭平くんだね」
京平「よろしくお願いいたします」
耕三「前の学校では、大変だったみたいだね」
京平「……」
耕三「厳しいことを言うが、場所を変えたところで、状況は変わらないと思う」
京平「……」
耕三「人間と言うのはな、弱い者を探すセンサーが優れている。……いや、人間だけではなく、生物は皆そうだ。弱肉強食というのが、世の中の真理だからな」
京平「……また、ここでも僕はイジメられる」
耕三「そうだ。だから、自分の身を守る為には、自分が強くなるしかない。強くなれば、狙われなくなる」
京平「でも、僕は……」
耕三「だから、空手をやってみないか?」
京平「え?」
耕三「はっはっは! まあ、これは部活の勧誘だ。今まで部活をやってこなかったみたいだし、どうだ? 気晴らしに空手、やってみないか?」
京平(N)「別に空手じゃなくてもよかった。単に打ち込めるものが欲しかっただけだったと思う。何かに夢中になれば、僕が何のために生まれてきたのか、わかるような気がした」
京平「はっ!」
京平が正拳を繰り出し、ヒットする。
審判「一本! 勝者、白!」
ワッと歓声が上がる。
耕三「よくやったな、三島」
京平「まだ、三回戦、勝っただけですけどね」
京平(N)「驚くことに、空手は僕に合っていたようだった。空手を始めて三年。空手部の中では上位の方になるくらい、上達していた。そして、中学に入る頃にはもうイジメられることはなかった」
男子生徒「おい、三島。先に部室行ってるぞ」
京平「うん」
京平が歩いていると、声が聞こえてくる。
忠司「宮下、お前、上納金はどうしたんだよ?」
実「……えっと、その、お小遣い、もうなくて」
忠司「なら、親の財布から取るとか、あるだろ」
実「できないよ、そんなの」
忠司「お前、罰として全裸で家まで帰れ」
京平「やっぱり、中学でもいるんだね。こういう人って」
忠司「ああ? なんだ、てめえ!」
京平「君を見てると、嫌なことを思い出すんだ。ここから立ち去ってくれないかな」
忠司「ふざけんなっ! あがっ!」
京平が忠司の顔を殴る。
忠司「痛え、なにすんだよ!」
京平「言ったでしょ。消えて」
忠司「うわあああー」
泣きながら走っていく忠司。
京平「大丈夫?」
実「あ、ありがとう……」
京平(N)「実くんは、まるで昔の僕を見ているようだった。毎日のようにイジメられ、自殺を考えていると泣きながら僕に話してくれた。それからは何かと実くんと話すようになっていった」
実「京平さん、お待たせしました」
京平「あのさ、実くん。その、さん付け止めてくれないかな。あと、毎日、お弁当とかパンとか買って来なくていいよ」
実「何言ってるんですか。京平さんは僕の恩人です。これくらいはさせてください」
京平「お金とか大丈夫なの?」
実「はい。平気です」
京平「最近、明るくなったね。もう、イジメられたりしてない?」
実「これも、全部、京平さんのおかげです。あれから、僕、たくさん友達もできたんですよ」
京平「そっか。よかったね」
実「ありがとうございます!」
京平(N)「純粋に嬉しかった。僕が人を助けているという事実が。それはまるで、あのときの僕を助けているような感覚だった」
実「京平さんも、イジメられてたんですか!?」
京平「うん。それで転校もしてるんだ」
実「それで、復讐はしたんですか?」
京平「え? 復讐?」
実「そこまで強くなったなら、イジメられて分の仕返し、しましょうよ」
京平「いや、それは……」
実「駄目ですよ。そういうクズを野放しにしたら。きっと、また違う人をイジメてますよ」
京平「そんなことないよ……」
京平(N)「正直、あいつがイジメを止めてるとは思えなかった。でも、もう関わりたくないというのが本音だった。だけど、実くんの熱意に負けて、僕はあいつに会いにいくことになる」
将司「あそこの店に行って万引きして来い」
男の子「そ、そんなの無理だよ」
将司「じゃあ、明日までに五万持ってこい」
男の子「それも無理だよ……」
将司「ああ? どっちも無理なんて通ると思ってんのか?」
実「ね? 言った通りでしょ。クズは変わらないんですよ」
京平「……そうだね」
将司「あ? なんだてめえって……お前、三島じゃねーか? 久しぶりだな、負け犬」
京平「……」
将司「俺にイジメられなくなって、寂しくなったか? いいぜ、また、遊んでやるよ。手始めに、手間賃として一万寄越せ」
実「こんなクズ、放置してたらダメですよ」
京平「そうだね」
時間経過。
将司「ご、ごめんなさい! もうやめて下さい」
京平「僕がそう言ったとき、どうしたっけ?」
将司「ひいぃ!」
京平が将司をボコボコにする。
京平(N)「そのときの僕は、どこか爽快感があった。それは、達成感だったのかもしれない」
実「きっと、京平さんはイジメられっ子を助ける為に生まれてきたんですよ」
京平(N)「僕が生まれてきた理由。ずっと、知りたかった、僕がこの世に存在し続ける理由。ようやく、それがわかった。そのときは、そんな気がしていた」
実「次は、三組の幸田って人からの依頼です。去年からずっと嫌がらせされてたみたいですよ」
京平「わかった。明日の放課後に、裏の林に呼んでおいて」
実「はい! わかりました!」
京平(N)「僕は空手部を退部になり、何度か停学にもなった。それでも、僕は、僕の目的のために正義の拳を振っていた。助けた人たちからは救世主なんて、呼ばれて、僕は有頂天になっていた」
忠司「はい。……明日には必ず」
実「その言葉、聞き飽きたよ。明日、ダメだったらわかってるよね?」
忠司「う、うう……。はい」
実「まあ、僕は明日、お前が持ってこない方が面白いからいいんだけどね」
忠司「……」
実「なにしてんだよ。さっさと行けよ」
忠司「は、はい」
忠司が走っていく。
そこに京平がやってくる。
京平「実くん、今の人って……」
実「ああ、京平さん。あいつ……じゃなかった、忠司くんとは友達になったんですよ」
京平「……なんか、泣いてたみたいだけど?」
実「なんか、悩みがあるみたいで相談に乗ってたんですよ。それより、これから焼肉食べにいきませんか?」
京平「いや、パス。今月、小遣いピンチだから」
実「何言ってるんですか! 僕が驕りますよ」
京平「悪いって。何度も」
実「お願いしますよ。これは僕の恩返しなんですから。それとも、僕と行くのは嫌ですか?」
京平「そういうわけじゃないけど……」
ニュースキャスター「それでは次のニュースです。四方木東中等学校、一年生の新田忠司さんが、家で首を吊っているところが発見され、病院に搬送後、死亡が確認されました。新田さんは遺書を残しており、同級生からいじめを受けていたと書かれており……」
京平がズカズカと歩いてくる。
京平「実くん、どういうこと?」
実「いや、まさか、あいつが自殺するなんて」
京平「どういうこと? 説明して」
実「僕は、あいつにされたことをしただけだ」
京平(N)「実くんは、あの忠司って人に逆らったら、僕にボコボコにすると脅していたらしい。月々、二万円を慰謝料として請求していた。また、同様に、僕が制裁を加えていた、いじめっ子たちに関しても、同じようなことをしていることがわかった」
風が吹く屋上。
京平(N)「僕がやってきたことは何だったんだろうか。単に、いじめっ子といじめられっ子を入れ替えていただけに過ぎなかった。こんなことが僕の生まれてきた意味だったんだろうか。……いや、もうそんなことはどうでもいい。僕は、もう疲れたんだ……」
終わり
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