誰かのために

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■概要
人数:5人以上
時間:15分

■ジャンル
舞台・実写ドラマ、漫画原作、現代、シリアス

■キャスト
鍋谷 夢月(なべたに むつき) 17歳 高校生
凌空(りく) 17歳 高校生 夢月のクラスメイト
男子生徒1~2 17歳 高校生夢月のクラスメイト
教師 35~40歳
母親 40歳

■台本

〇家の中
家の中にはボロボロの家具ばかり。
そして、テーブルの上には1000円の値札が付いたイヤリングが置かれている。
そして、母親に夢月(6)が叩かれている。

母親「余計なことして!」
夢月「ごめんなさい! お母さんにプレゼントしたくて!」
母親「だからって、盗みなんて!」

思い切り頬を叩く母親。

夢月「ごめんなさい! ごめんなさい! もうしないから……」

場面転換。
〇小学校の教室
夢月(8)が教室の教壇のところに立たされている。

教師「……鍋谷。なんでこんなことしたんだ?」
夢月「みんなが喜ぶと思って……」
教師「はあ……。そういうのをなんて言うか知ってるか? 余計なお世話って言うんだ」
夢月「ごめんなさい。もうしません……」

場面転換。
〇小学校の教室※前シーンとは違う教室
教室の中央には壊れたオブジェクトがある。
夢月(10)は多くの生徒に囲まれていて、泣いている。

男の子「おい、鍋! なんてことしてくれたんだよ」
夢月「ごめんなさい」
男の子「お前、もう何もすんなよ。迷惑だ」
夢月「ごめんなさい。もうしません……」

夢月が17歳の時の声。

夢月(N)「このとき、私は思い知った。私はもう何もしないこと。それだけが私がみんなのためにできることだと」

場面転換。
〇高校の図書室
夢月が一人、椅子に座って本を読んでいる。

夢月「……」

そこに凌空がやってくる。

凌空「あ、いたいた。鍋谷、こんなところで何やってるんだよ?」
夢月「……本、読んでる」
凌空「いや、そりゃ、見ればわかるって」
夢月「なら、聞かないで」
凌空「そうじゃなくて、なんで学校祭の準備に参加しないんだって話」
夢月「……みんなのため」
凌空「へ?」
夢月「私は手を出さない方がいいから」
凌空「そんなことないって。ああいうのってさ、準備も面白いんだよ。みんなでワイワイやってさ。ほら、お祭りは準備が本番、なんて言葉もあるだろ?」
夢月「それなら、尚更、私は参加しない」
凌空「どうしてだよ?」
夢月「……みんな、私がいないことに気づいてないでしょ? そういうこと」
凌空「でも、俺は気づいたぞ?」
夢月「じゃあ、気づかないフリして」
凌空「あのなぁ」

場面転換。
〇高校の廊下
多くの生徒が歩いている。
凌空が男子生徒の2、3人と話しながら歩いている。
廊下の壁には『留学生募集』のポスターが貼ってある。

男子生徒1「やっぱり、美咲(みさき)先生が一番っしょ」
男子生徒2「いやいや、高坂(こうさか)さんも捨てがたい」
男子生徒1「マニアックだな。……凌空は?」
凌空「俺? えーと、俺は……」

そのとき、前から夢月が歩いてくるのが見える。

夢月「……」

夢月と目が合う凌空。
凌空がにこりと笑い、夢月に手を振る。
だが、夢月は顔を伏せて歩き、すれ違う。

男子生徒1「誰? 今の?」
男子生徒2「おいおい。クラスメイトの顔を忘れるなよ。鍋……浜だっけ?」

凌空が振り返り、夢月の背中を見る。

凌空「……鍋谷だよ」

場面転換。
〇通学路
夕方。通学路を歩く夢月。

夢月「……」

そこに凌空が走り寄ってきて、肩をポンと叩く。

凌空「よっ!」
夢月「……」
凌空「あれ? 無視?」
夢月「なに?」
凌空「塩対応だなぁ。一緒に帰ろうぜ」
夢月「いや」
凌空「……お前さぁ。いつも人を避けてるだろ? 友達だって、わざと作ってないんじゃないのか?」
夢月「……それがなに?」
凌空「なんで、そんなことしてるんだよ?」
夢月「みんなのためだから」
凌空「どういうことだよ?」
夢月「……もう、私に話しかけないで」
凌空「……どうしてだよ? ん?」

凌空が杖をついている老人を見つける。
重そうな荷物を持ち、信号待ちをしている。

凌空「……」

凌空が老人に走り寄る。

凌空「荷物、重そうですね。信号渡るまで持ちますよ」
老人「余計なお世話だ! ワシを老人扱いするでない!」

老人が杖で凌空を叩く。

凌空「ちょっ! 俺はじいさんのために……」
老人「誰がじいさんだ!」

その様子をジッと見ていた夢月。
その夢月のところに凌空が戻ってくる。

凌空「ははは。ひどい目にあった」
夢月「……余計なお世話だったね」
凌空「うーん。そうみたいだな」
夢月「……いつも、あんなことしてるの?」
凌空「え? まあ、見かければな」
夢月「なんで?」
凌空「なんでって……。困ってる人を助けるのに理由いるか?」
夢月「さっきみたいに余計なお世話でも?」
凌空「違うかもしれないだろ?」
夢月「……」
凌空「困ってる人に手を差し伸べる。俺はそれに救われたからさ。俺もそうしたいってだけだ」
夢月「救われた?」
凌空「あー、うん。実は俺、小学生の頃はいじめられっ子だったんだ」
夢月「……そうなの?」
凌空「ああ。今、考えると引くくらいのイジメ、くらってたよ。けどさ、ある人が俺に手を差し伸べてくれた」
夢月「……」
凌空「それからかな。俺も困ってる人に手を差し伸べようって決めたんだ」
夢月「自分がイジメられてるのに?」
凌空「ははは。そうだな。けど、人を助けるようになってからかな。いつの間にか、いじめられなくなったよ」
夢月「……強いね」
凌空「俺が?」
夢月「私はそうは考えること、できなかった」
凌空「強さでいうなら、俺はお前の方が強いと思う」
夢月「え?」
凌空「鍋谷に何があったかはわからない。けど、お前はみんなのために、自分を殺した。……自分が関わらないのがみんなのためって思って、引いてるんだろ?」
夢月「……」
凌空「けど、俺はそれは間違ってると思う」
夢月「え?」
凌空「お前が救われてないだろ」
夢月「いいんだよ、私は」
凌空「俺は嫌だ」
夢月「なんで? 関係ないでしょ?」
凌空「言っただろ? 俺は困ってる人に手を差し伸べたいって」
夢月「……」

場面転換。
〇教室内(昼)
夢月に話しかける凌空。

場面転換。
〇通学路(夕方)
夢月と凌空が並んで歩いている。

場面転換。
〇学校のグラウンド
生徒たちがフォークダンスをしている。

場面転換。
〇学校の図書館
図書室で本を読む夢月のところに凌空がやってくる。

場面転換。
〇学校のグラウンド
凌空と夢月がフォークダンスしている。
凌空は笑顔で、夢月は伏し目がちで照れている。

場面転換。
〇学校の廊下
廊下を歩く男子生徒1と2。

男子生徒1「なあ、凌空って、鍋谷と付き合ってると思う?」
男子生徒2「いや、無いでしょ。あんな地味なやつ、あいつと釣り合わねーって」
男子生徒1「そうだよなー。けど、なんであんなに構うんだろ?」
男子生徒2「ボランティアなんじゃね?」
男子生徒1「あー、なるほど。あいつ、そういう優しいところあるからな」
男子生徒2「鍋谷は凌空の優しさを利用してんだよ」

廊下の陰でその言葉を聞いている夢月。

場面転換。
〇同
階段下で泣く夢月。

場面転換。
〇学校の教室
教室を出て行こうとする夢月に話しかける凌空。
だが、夢月は無視して出ていく。

凌空「……」

場面転換。
〇学校の図書室
本を読んでいる夢月。
そこに凌空がやってくる。
夢月は隠れるようにして、図書館から出ていく。

場面転換。
〇学校の廊下(夕方)
廊下を歩く凌空。

凌空「……鍋谷のやつ、どうしたんだろ?」

そこに教師が走ってくる。

教師「いたいた。探したぞ」
凌空「あれ? 先生、どうしたんですか?」
教師「いいニュースだ」

場面転換。
〇教室
凌空がクラスメイトに囲まれている。

男子生徒1「凌空はスゲーな。留学なんて」
男子生徒2「ずっと夢だったもんな」
凌空「……ああ、まあな」
男子生徒1「いいなぁ。俺もいきてーよ、外国に留学」
凌空「はははは……」

その様子をジッと見ている夢月。

場面転換。
〇廊下
廊下を歩いている夢月。
教室のドアを開けようとすると、中に凌空一人がいるのが見え、ドアを開けるのを止めて、覗き見る。

凌空「……いいなぁ、か」

凌空の手が震えている。

凌空「……俺だって、不安なんだけどな」

凌空の様子をジッと見ている夢月。

場面転換。
〇教室(朝)
凌空の机の上に、お守りと紙が置いてある。
それを男子生徒1と男子生徒2が見ている。

男子生徒1「なんだこれ?」
男子生徒2「お守り?」

そこに凌空が入ってくる。

凌空「おーす。……って、どうした?」
男子生徒1「これ」

男子生徒1が机の上のお守りを指差す。
凌空が拾い上げ、一緒に置いてある紙を開く。
そこには『頑張って』と書かれている。

凌空「……」
男子生徒1「なんだそりゃ? 頑張れって、なんだ? 凌空は頑張ってるだろ」
男子生徒2「誰か知らんが、余計なお世話だよな。お前が頑張れって話」
男子生徒1「あははははは」

場面転換。
〇廊下
廊下でその話を聞いている夢月。
泣きながら駆け出す。

場面転換。
〇階段下
階段下で泣いている夢月。
そこに凌空がやってくる。

凌空「いた」
夢月「……」
凌空「これ、鍋谷だろ?」
夢月「……ごめん。余計なお世話だったよね」

凌空が夢月を抱きしめる。

夢月「っ!?」
凌空「ありがとな。すげー元気出た」

夢月の目からポロポロと涙が出る。

凌空「お前に手を差し伸べるどころか、逆にお前に手を差し伸べられちまったな」

夢月が顔を上げ、首を横に振る。

夢月「……ううん。凌空くんが私に手を差し伸べてくれたんだよ」
凌空「そっか」

凌空が笑顔を浮かべる。

場面転換。
〇図書室
一人本を読む夢月。

スマホに着信がある。
開くとメールが届いている。
そこには凌空がピースしている写真が添付されている。
夢月がにこりと微笑んで、メールの返信を打ち始める。

夢月(N)「私は知ることができた。みんなのためにならなくても、誰か一人のためになにかできることが幸せなんだと。私は凌空くんのようにたくさんの人を助けることはできない。だけど、凌空くん一人なら、手を差し伸べることができる」

メールを送信して、メール画面を閉じる。
待ち受け画面には凌空と夢月が並んで写っている写真が映し出されている。

終わり。

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