■概要
人数:4人~6人(女性:3人 男性:1人)
時間:10分程度
■ジャンル
ボイスドラマ、学園、日常、コメディ
■キャスト
千早 高校生
霞 高校生。千早の友人
啓子 高校生。千早の友人
鬼平 教師
その他
■台本
ピッというテレビのチャンネルを変える音。
男性「はい……。断り切れなくて、借金を」
ピッとテレビのチャンネルを変える音。
女性「ブラック会社だったんです。でも、わかってても辞めれなくて……」
ピッとテレビのチャンネルを変える音。
アナウンサー「という海外の圧力に負け、日本は規制を緩和し、経済に大打撃が……」
千早(N)「いけない! このままじゃ日本が危ない! 今こそ、立ち上がるときだー!」
学校のチャイム。
千早がバンと机を叩く。
千早「というわけで、NINを発足したいとおもいます!」
霞「……」
啓子「……」
霞「でさ、帰りに寄っていかない?」
啓子「うん。いいよ」
千早「無視しないでよっ!」
場面転換。
霞「……で? 何を立ち上げるって?」
千早「NINだよ」
啓子「なにかの、格闘団体?」
霞「へー、面白そうじゃん。たまには、ちーも良いこと考えるな」
千早「違うよ!」
啓子「それなら、どんな団体?」
千早「ふっふっふー! それはね、『ノーと、言える、日本へ』。略して、N、I、N!」
霞「……」
啓子「……」
千早「リアクション薄いっ!」
霞「うーん。まあ、言いたいことはわかるけど、名前を聞いただけじゃ、どんな活動をするのかピンと来ないなぁ」
千早「それはね! ずばり! ノーと言えるようにするんだよ!」
啓子「ノーと言える?」
千早「そう! 今の日本は断れない人が多い! 断れない人は結局、利用されてボロボロにされて、人生が終わっちゃうの!」
霞「大げさだけど、正しいっちゃ正しいか」
千早「でしょ! でしょ!」
啓子「でも、ノーと言えるようにするって、どうやってするの?」
千早「つまり、私たちがノーと言える先陣を切るの!」
霞「あー、やっぱり私たちも入ってるのか」
千早「私たちがノーと言っているのを見れば、きっとみんなだって、ノーと言いやすくなるよ。それが全国に広がれば、きっと日本はノーと言える国になれる!」
啓子「意外と、草の根活動なんだね」
霞「ちーにしては珍しいな。いつも派手好きなのに」
千早「大きな野望も一歩から! 令和の私はコツコツやってきます!」
霞「おおー、成長したな。背はちっとも伸びないけど」
千早「放っておいて! ふふん。もうすぐ私は17になるんだもんねー。そうしたら、かーちゃんだって抜いてみせるもん」
霞「その呼び方はやめれ。……それになんで、17になったら背が伸びると思い込んでるのか不明だけどな」
啓子「あー、去年も言ってたよね。高校に入ったらギュンと背が伸びるって」
霞「まあ、伸びたっちゃ、伸びたよな。一センチ。一年で」
千早「うがー! うるさーい! それに話が逸れてるー!」
啓子「ごめんごめん。……で、ノーと言えるのを先陣切るんだっけ?」
千早「うん、そう」
霞「今日帰りにケイとマケドに寄るつもりなんだけど、ちーも行かないか?」
千早「わーい! いくー!」
霞「隣の斉藤さんの家で、子犬が産まれたんだってよ。今度、もふりに行こうぜ」
千早「うん! 絶対いく!」
霞「三回回って、ワンって言ったらポテチやるから、やってみろ」
千早「くる、くる、くる、ワン!」
霞「……ノーって言えてねーじゃねーか」
千早「ぎゃー! しまったぁ! この策士め!」
啓子「それじゃ、霞ちゃん、帰ろうっか」
千早「見捨てるの早いよ!」
霞「まったく。ちーは、どうしたいんだ?」
千早「まずは校内を回ってみよう」
放課後のガヤ。
千早「ふふふーん」
千早、霞、啓子が歩いている。
男子生徒「あ、高坂さん、ちょっとこれ持つの手伝ってくれない?」
千早「嫌っ!」
千早、霞、啓子が歩いている。
女子生徒「千早ちゃん、そっちに行くなら、ついでに部室の鍵を職員室に返してくれない?」
千早「無理!」
千早、霞、啓子が歩いている。
用務員「君たち、あんまり遅くまで学校に残ってちゃダメだぞ。用がないなら帰りなさい」
千早「ぶぶー! 帰りませーん!」
霞「……な、なあ、これって」
啓子「うん。単に我がまま言ってるだけだね」
千早「あっはっはっは! これできっと、みんなも私に続いてノーって言いやすくなったよね」
霞「いや、そうは思えんけど……」
啓子「ねえ、ちーちゃん。こういうのは、断らないといけないときに断るのがいいって話だよね? 全部が全部、拒否するのは違うと思うな」
千早「んー? どゆこと?」
霞「ほら、あれだよ。人間には退いたらいけないときがあるだろ? そんなときに逃げずに相手と戦って、自分の意思を通すってやつだよ」
啓子「……ちょっと違うかな」
千早「難しいなぁ」
啓子「えっと、つまりね。やりたくないことを無理やり押し付けられることってあるでしょ? 例えば、掃除当番変わってとか、お昼ご飯買ってこい、とか。そういうのを、ちゃんと自分の意思を伝えて、断るって言うのがいいんじゃないかな」
千早「……自分がやりたくないこと」
ツカツカと三人に歩み寄る足音。
鬼平「おい! 高坂!」
霞「げっ! 鬼平」
鬼平「お前、まだ春休みの宿題出してないだろ! いつになったら、出すんだ!」
千早「はうっ! あわわわわ……」
鬼平「いいか? 今月中にはちゃんと終わらせて提出するんだ! いいな!」
千早がゴクリと生唾を飲む。
千早「わ、わ、私! やりません!」
鬼平「あん?」
霞「ばっ! ちー、空気読めって!」
千早「私、宿題やりたくありません! だから、宿題やるのは断ります!」
鬼平「ほほう。なかなか面白いこと言ってくれるじゃねーか。よし、三人共、生活指導室まで一緒に来い」
霞「私たちも!」
鬼平「当たり前だ!」
啓子「そんな……」
場面転換。
カラスの鳴く声。
霞「うう……。なんで、私までこってりしぼられないといけないんだよ」
啓子「先生、マジ切れだったね……」
千早「ふふふふーん! 断るって清々しいね。これぞ、ノーと言える日本!」
霞「……あいつのメンタルすげーな」
そのとき、犬がキューンと鳴きながらすり寄ってくる。
千早「あ、わんちゃんだ! 可愛い―」
啓子「ちーちゃんに、すごいすり寄ってくるね」
霞「ちー、お前、何か持ってるんじゃないのか?」
千早「あ、今日のお弁当に骨付きのお肉が入ってたから、その骨かな?」
千早が鞄から骨を出す。
すると犬がキャンキャンと吠える。
千早「これをあげるから、もふもふさせてね」
霞「待て、ちー」
千早「なに?」
霞「この子は野良だ。うかつに骨をあげたら、つきまとわれるぞ。見ろ、あそこに野良犬には餌をあげないでくださいって張り紙がある」
千早「ええー! 骨、あげちゃダメなの? でも、ほら、この子、すごい欲しがってるよ?」
啓子「ちーちゃん、ノーと言える日本だよ」
千早「うっ!」
霞「そうだ。ほら、放っておいていくぞ」
千早「う、うう……」
子犬がキューンと鳴く。
千早「NIN、解っ、散っ!」
千早が子犬に骨をあげる。
霞「……今日、怒られたのなんだったんだろうな」
啓子「……そうだね」
終わり