死して二人を繋ぐもの

死して二人を繋ぐもの

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■ジャンル
アニメ用、時代劇ファンタジー、シリアス

  • 教会

  忍装束姿の天羽隼人(10)と、同じく忍び装束姿の華月遥(10)が、神父の前に立っている。

神父「天羽隼人」

隼人「はい」

神父「華月遥」

遥「はい」

神父「二人は健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、相手を殺めることを誓いますか?」

隼人「誓います」

遥「誓います」

神父「よろしい。それでは誓いの儀式を」

  隼人と遥は親指を噛み、血を出した後、お互いの親指をくっつける。

神父「これで二人は死で繋がる、『忍び洗い』となりました。18歳までに達成しなさい」

隼人「はい!」

遥「はい!」

  • 村の外観

  江戸時代の村。

  農業を営む人々や道で野菜などを売っている人、遊んでいる子供たち。

  • 野原

  村人の格好で寝ころんでいる隼人(17)。

  晴天の空には鳥が優雅に飛んでいる。

隼人「今日も平和だねぇ」

  そこにクナイが三本飛んでくる。

  余裕で、手で弾く隼人。

遥「はあああああ!」

  上から刀を隼人に突き立てようと滑空してくる忍び装束の遥。

隼人「はあ……」

  寝返りを打つことで、その攻撃を躱す隼人。

遥「ちっ!」

  地面から刀を抜き、ハヤトに切りかかるが、転がって躱す隼人。

遥「はあ……はあ……はあ……」

隼人「終わったか? なら、帰れよ。せっかく人がいい気分で寝てるんだからさ」

遥「ま、まだよ。これからが本番なんだから」

隼人「本番ねぇ……」

  遥が胸の前で両手で印を結ぶ。

隼人「おいおい。こんなところで火遁か? 山火事になるぞ」

遥「……」

  印を変える遥。

隼人「お前、風遁は苦手だろ。紙だって切れないんだからさ」

遥「……お色気の術」

  遥が装束の肩の部分を下げて、肩を露出する。

隼人「ぶほっ!」

  鼻血を噴き出して倒れる隼人。

隼人「む、無念……」

  それを見下ろす遥。

遥「……馬鹿」

  床の上で寝ている隼人が目を覚ます。

隼人「……」

遥の声「起きた? 起きたなら、手伝ってよ」

  視線を移すと、遥が台所で料理している。

隼人「ああ」

  隼人が立ち上がり、遥の横に並ぶ。

  大根を見事な包丁さばきで皮を剥く隼人。

隼人「なあ、なんで止め刺さなかったんだ?」

遥「あのねぇ。鼻血拭いて気絶してた相手を殺して、一人前の忍びに認められるわけないでしょ」

隼人「そうかぁ? 色気はくノ一の武器の一つだ。十分認められるだろ。なんなら、もう少し露出してくれてもいいんだぞ」

遥「ばーか。あんたは、ちゃんと私の忍術で殺すんだから」

隼人「遥は忍者になりたいのか?」

遥「……当たり前じゃない」

隼人「今は徳川泰平の世だぞ? 忍者になってどうすんだよ。平和な時代、俺たちみたいな奴は逆に邪魔になる気がするけどな」

遥「平和な世だからこそよ。平和は得ることよりも維持する方が難しいんだから」

隼人「立派な考えだけどさ。俺は俺と大切な人の平和を守るために命を賭けたい。見ず知らずの民のために命は捨てられねえよ」

遥「なんであんたみたいな奴が、天性の才をもってるんだか。真面目に修行してれば、歴代のどの忍びだって抜けたのに」

隼人「興味ねえよ。誰が一番だろうと。俺は守れるだけの力があれば、それでいい」

遥「なに、自分勝手なこと言ってるのよ。弱い者を守るのが強い者の使命よ」

隼人「にしても、ホント、ジジイたちはエグイことしてくれるよな」

遥「なにが?」

隼人「普通に考えてみろよ。10歳の頃から一緒に暮らしてる相手を殺せって、頭おかしいだろ。情が湧くに決まってるじゃねーか」

遥「まあ、そういう風習だからね。鉄の心でどんな任務もこなす忍者を作るには、この方法が一番って聞いたことがあるわよ」

隼人「くっだらねー。大切な人を殺して、何が忍びだよ。こんなの間違ってる」

遥「ちょっと、隼人。外でそんな発言してないでしょうね? 怒られるの、私なんだから」

隼人「……遥は、本当にそれでいいのか?」

遥「なにがよ?」

隼人「くノ一になったら、自分の人生なんてなくなるようなもんだ。任務漬けの毎日。……命令があれば、どんな相手だろうが、体を使って惑わす。下手をすれば子を産めなんて言われることだってあるんだぞ?」

遥「仕方ないじゃない。それが忍びなんだから」

隼人「俺は嫌だ」

遥「……隼人?」

隼人「お前が、望んでもいないのに誰かに抱かれるなんて、嫌だ」

遥「ちょ、なに言ってるのよ」

  隼人が遥を抱きしめる。

遥「は、隼人?」

隼人「俺は遥が好きだ。お前には幸せになってほしい」

遥「(微笑んで)大丈夫だよ」

隼人「え?」

  隼人が遥の顔を見る。

遥「私は隼人の手に掛かって死ぬ。だから、くノ一にはならない。それに、好きな人の手で死ねるなんて、幸せだよ」

隼人「……遥」

遥「隼人が歴代で一番の忍びになれば、あの世でも自慢できるしね。忍び洗いの相手が、あの伝説の隼人だ、ってね」

隼人「……」

遥「ほら、放して。ご飯食べるわよ。私、お腹減っちゃった」

隼人「ああ……」

  遥を離す隼人。

  • 同(夜)

  並んで寝ている隼人と遥。

  隼人の目は開いていて、窓から月を見ている。

  むくりと起き上がる隼人。

  血だらけの隼人を呆然と見ている遥。

遥「……どうして?」

隼人「言っただろ? お前には幸せになって欲しいって」

遥「だからって……」

隼人「本当はさ、里を全滅させて、俺とお前の二人で過ごすっていうのを狙ってたんだけどさ。……さすが忍者の里だ。一人だと落すのがやっとだった。あーあ、お前の言う通り、ちゃんと修行しておくんだった」

遥「嫌! どうして!? 私、隼人のためだったら、死ねたのに」

隼人「はは……。俺も同じ気持ちさ」

遥「お願い、死なないで……」

隼人「すまねえ。その願いは叶えれそうにない」

遥「隼人……」

隼人「頼む。お前だけは……幸せになってくれ」

遥「ダメだよ。隼人がいないと、私、幸せに何てなれない」

隼人「大丈夫さ。お前なら……きっと」

遥「……」

隼人「忍び洗いは、相手の命をもって人生を洗う……。俺の命で、お前の人生を洗うんだ」

遥「……隼人」

遥(N)「こうして私は隼人のおかげで自由になれた。でも、私は一つだけ、隼人のお願いを破った。……いや、隼人が死んだ時点で、叶えることは無理だった。……そして、それから二十年後。忍びの里潰しの忍者が現れ、忍びは衰退の一途を辿ることになったのだった」

終わり

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