■概要
主要人数:6人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、童話、コメディ
■キャスト
太郎
乙姫
母親
亀
子供1
子供2
その他
■台本
ナレーション「昔々、あるところに浦島太郎という若者がおったそうな。太郎は近所でも有名な、それはそれは親不孝者であった。毎日家でゴロゴロゴロゴロ。そんな太郎に、ついに母親の怒りが降り注いだのでした」
母親「太郎! いい加減に働いたらどうなの!」
太郎「ふふふ。いいかい、母さん。今、トレンドの言葉は、働いたら負け、なんだよ」
母親「それ、もうだいぶ古い言葉じゃない。いまだに使ってるのあんただけだよ。それにあんた、負け続けの人生なんだから、今更負けの一つや二つ増えたところでどうってことないでしょ」
太郎「……それが母親のセリフなの?」
母親「とにかく、あんたもいい年なんだから、いい加減、自立してもらわないと困るのよ」
太郎「ええー。そんなこと急に言われても困るよ。心構えっていうの? 覚悟がないと、社会には出ていけないんだ」
母親「(どすのきいた感じで)いいから、働いて来いや」
太郎「は、はい……」
海のさざ波の音。
砂浜を歩く太郎。
太郎「あーあ。働くって言ってもなー。何していいかわかんねーし」
子供1「うーん! うーん! 動かないよー」
子供2「せーので、いくよ。せーの!」
太郎「ん? なんだ?」
子供1「えい! ……ダメだ。やっぱり動かない」
子供2「どうしよっか……」
太郎が子供たちに近づいていく。
太郎「なにやってんだ、お前ら」
子供1「あ、太郎兄ちゃん。外出てるなんて珍しいね」
太郎「まあ、ちょっと用事があってな。で、お前らのほうは何してるんだ?」
子供2「このおっきな亀がね、暑さで目を回してるみたいだから、海に返してあげようと思って」
太郎「おお……。たしかにでかい亀だな」
子供1「ねえ、太郎兄ちゃんも手伝ってよ」
太郎「いくら出せる?」
子供2「ええー! 金取るの?」
太郎「当たり前だ。大人はな、タダで働くわけにはいかないんだよ」
子供1「じゃあ、この前お団子おごった分で手伝ってよ」
太郎「悪いな。その分はもう時効になっちまった」
子供2「じゃあ、この酢昆布で手を打たない?」
太郎「……本当は金がいいんだけど、しゃーない。それで手を打とう」
子供2「はい」
太郎「サンキュー。(食べて)おおう、やっぱ酢昆布うめえ!」
子供1「さ、食べたんだから、ちゃんと働いてよね」
太郎「……母ちゃんみたいなこと言うなよ」
子供2「じゃあ、いくよー。せーの」
太郎「おいせ!」
子供1「おいせ!」
亀が動き出していく。
子供2「おいせ!」
太郎「おいせ!」
亀を海まで移動させる。
子供1「やったー! 海についた」
子供2「これで亀さん、海に帰れるね」
太郎「いやー、いいことすると清々しい気分になるよな」
亀「……はっ! 私は一体……」
太郎「おわあ! 亀がしゃべった!」
子供1「すっごーい! しゃべったしゃべった」
亀「……どうやら、私は浜辺で日向ぼっこをしてて、いつの間にか眠ってしまって、動けないほど干からびていたようですね」
太郎「人のこと言えねえけど、お前、残念な奴だな」
亀「ありがとうございます。危うく、天に召されるところでした」
子供2「今度は気を付けてね」
亀「そうだ! 助けていただいたお礼に、みなさまを竜宮城へご案内します」
子供1「竜宮城?」
亀「海底にある、とても立派なお城です」
子供2「すっげー! 見てみたい!」
子供1「行きたい、行きたい!」
太郎「ちょっと待てお前ら」
子供1「なに?」
太郎「いいか、こういう美味い話には、裏があるものだ。まずは俺が行って、様子を見てくる。安全だってわかったら、お前らも来い」
子供1「うん、わかった」
子供2「気を付けてね、太郎兄ちゃん」
太郎「よし、亀、行くぞ」
亀「……はい」
水の中。
太郎「こういうこと言うと野暮かもしれねーけど、水の中でも息ができるし、話せるんだな」
亀「あの……どうして子供たちを置いてきたのでしょうか? お礼なので、悪いことは考えていませんよ?」
太郎「騙す奴はみんな、そう言うんだ。とにかく、俺一人なんだから、三人分のもてなしをしろよ」
亀「はあ……」
太郎「あ、見えてきた! あれか? すげーでかいし、綺麗だな!」
亀「はい、あれが乙姫様のお城、竜宮城です」
場面転換。
乙姫「よくぞ、お越しくださいました、浦島様。私、この城の主、乙姫……」
太郎「結婚してください!」
乙姫「え? 嫌です」
太郎「秒でフラれた!」
乙姫「話は亀から聞かせていただきました。どうぞ、ゆっくりしていってくださいね」
太郎「はーい!」
場面転換。
太郎が料理をがっついている。
太郎「うめえ、こんな美味いもの初めて食った」
乙姫「お代わりもありますからね」
太郎「はーい!」
場面転換。
きらびやかな音楽が流れている。
太郎「おおー! 魚たちの踊りって新鮮だなぁ。綺麗だー。あ、乙姫様、一番前の鯛、後で食べたい」
乙姫「そういう生々しい発言は避けていただけると……」
場面転換。
ゴロゴロしている太郎。
太郎「いやぁ、竜宮城は天国だなぁ」
乙姫「あ、あの……浦島様、ここに来て、もう一か月。そろそろ帰ったほうが……」
太郎「いいのいいの。俺、ここに一生住むことにしたから」
乙姫「さすがにそれは困ります……」
太郎「ええ! だって、ゆっくりしてけって言ったじゃん」
乙姫「ゆっくりとは言いましたが、一生とは言ってませんよ」
太郎「いやだ! 絶対に帰らないぞ!」
乙姫「困りましたね……。それでは、竜宮城の秘宝、玉手箱をお譲りしますから、帰っていただけませんか?」
太郎「秘宝か……。売ったら金になるかな。よし、それならいいよ」
乙姫「さあ、みなさん。やっと浦島様がお帰りになりますよ。さっさと地上にお返しして」
鯛「わーい!」
ヒラメ「やっと帰るのかよ!」
亀「みなさん、本当にすみませんでした。こんな方を連れてきてしまって……」
場面転換。
砂浜。海のさざ波。
亀「浦島様、地上へ着きましたよ」
太郎「お、早いな。……って、あれ? ここどこだ? 俺がいたところに帰してくれよ」
亀「いえ、ここが浦島様がいた浜辺です」
太郎「どういうことだ?」
亀「地上と竜宮城では時間の流れが違うのです。竜宮城での一日は、地上で10年になります」
太郎「じゃあ、一か月いたってことは300年経ったってことか?」
亀「はい」
太郎「ええ! ヤバくない? 俺、どうすんの?」
亀「そう言われましても……」
太郎「やっぱ、竜宮城に帰る」
亀「それは無理です。ああ、そうだ。乙姫様から伝言です。困ったら玉手箱を開けてみてください、とのことです。あと、これ、鏡です」
太郎「……鏡?」
亀「それでは、これで失礼します」
亀が海へ帰っていく。
太郎「さて、どうするか。玉手箱は売るつもりだったんだけどなぁ。あ、もしかしたらお金が入ってるのかも! よし、開けてみるか!」
開けた瞬間、ボンという音が響く。
太郎「うわ! 変な煙が出てきた! ……って、ん? なんか、一気に髪と髭が伸びたぞ。それに白い……。どうなってるんだ? げっ! 俺、ジジイになってる!」
海のさざ波。
太郎「やべえ、どうしよう。ただでさえ、働くの難しかったのに、こんな年だと、誰も雇ってくれねえ……って待てよ! この年なら、年金もらえんじゃん! やったー! これで働かずに国から金もらえるぞ! 乙姫様、グッジョブ! さっそく、役所へゴーだ!」
場面転換。
役所。
女性「えっと……年金制度なんてものは、既に廃止されましたが」
太郎「なん……だと?」
ナレーション「こうして、おじいさんになった太郎は生活保護を受けて、そこそこに暮らしましたとさ。めでたしめでたし?」
終わり