【声劇台本】テレワーク
- 2020.05.22
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:2人
時間:10分程度
■ジャンル
ボイスドラマ、現代劇
■キャスト
矢井田 藍子(26)
海藤 拓也(29)
■台本
キーボードを打ち込む音。
藍子「(打ち終わって)ふー。なんとか2章、書き終わったぁ……」
そこに電話のコール音が鳴る。
藍子「(取って)はい」
以降、電話でのやり取り。
拓也「どうも、海藤です」
藍子「あ、ちょうど今、こちらから電話しようかと思ってたんです」
拓也「ということは……進んだってことですか?」
藍子「ええ。2章が終わりました」
拓也「よかったぁ! このペースならなんとか間に合いそうですね」
藍子「頑張ります」
拓也「もし、行き詰ったらいつでも連絡くださいね。本当にいつでも大丈夫ですから」
藍子「いえ、そんな、悪いですよ。週に一回、ミーティングの時間を取ってもらえるだけで十分ですから」
拓也「……そうですか。また、先生とは朝まで話し合いしたいですよ」
藍子「はは……。でも、こんな時期ですから」
拓也「そ、そうですよね……」
藍子「それじゃ、この後、すぐにメールで送りますね」
拓也「わかりました。よろしくお願いします」
藍子「それじゃ、失礼します」
拓也「あ、あの、矢井田さん! 僕、あの話、諦めてませんから」
藍子「ごめんなさい。今は執筆に集中したいんです……」
拓也「す、すいません。そうですよね」
藍子「あの……私、海藤さんには感謝してますから」
拓也「……仕事ですから。あと、今回、デビューが決まったのは、矢井田さんの頑張りがあったからです。僕は関係ありませんから、自信もってください」
藍子「ありがとうございます」
拓也「では、原稿、待ってます」
藍子「はい。すぐに送ります。それじゃ」
電話を切る藍子。
藍子「……そろそろ、限界かなぁ。ううん、ここで諦めちゃダメだよね。せっかく掴んだチャンスだもん。……私、頑張るからね、お姉ちゃん」
カタカタとキーボードを打つ音。
ぴたりと、音が止む。
藍子「……ダメだ、上手く繋がらない……。もう少し細かいメモ、残ってないかな? もう一回、フォルダ内を探して……」
電話のコール音が鳴る。
藍子「はい、矢井田です」
拓也「海藤です」
藍子「すいません! あと、もう少し待っていただけませんか? もう少しで、いい案が浮かびそうなんです」
拓也「その件なのですが、トリックの部分の、康太が電車に乗るところを、車に変えませんか? そうすれば、4章の祥子の移動が……」
藍子「ごめんなさい! 最初に作ったプロットの内容で行きたいんです」
拓也「で、でも、それだと」
藍子「お願いします! 極力、変えたくないんです」
拓也「……わかりました。でも、矢井田さん、変わりましたね。前なら、僕の意見も聞いてくれて……二人三脚で作っていってる感じがしましたけど……」
藍子「……」
拓也「あの、矢井田さん……いや、響子さん、僕は」
藍子「海藤さん! ごめんなさい。終わったら全部、話します……」
拓也「え?」
藍子「だから、今は作品に集中させてもらえませんか?」
拓也「……わかりました。でも、一人で抱え込まないでくださいね。何か困ったことがあれば何でも相談してください」
藍子「ありがとうございます」
電話を切る藍子。
藍子「……海藤さん、良い人だね。お姉ちゃんが好きになるのもわかるよ。だからこそ、絶対に完成させるからね」
カタカタとキーボードを叩く音。
そして、勢いよく、エンターを叩く。
藍子「やったぁ! 完成したぁ! さっそく、連絡しなくっちゃ」
藍子が電話をかける。
拓也「はい、海藤です」
藍子「完成しました!」
拓也「本当ですか! おめでとうございます」
藍子(N)「こうして、小説が完成し、発売された」
拓也「矢井田さん、好評で、増版が決まりました!」
藍子「本当ですか!」
拓也「それで、次回作の件ですが……」
藍子「あの、海藤さん、お話があるんです」
拓也「はい……。なんですか?」
藍子「私、藍子です」
拓也「……え?」
藍子「黙っていてごめんなさい」
拓也「……どういう……ことですか?」
藍子「姉の響子は、3ヶ月前に事故で……」
拓也「そんな!」
藍子「……海藤さんには話そうか迷ったんですけど……どうしても、姉の小説を出したかったから……」
拓也「……」
藍子「デビューは姉の夢でしたから」
拓也「……うう、響子さんは、ずっと嬉しそうに語ってました。いつか、絶対にデビューするんだって」
藍子「姉の名前で、姉が作ったプロットで完成させたかったんです」
拓也「……」
藍子「人と会わないようにする、この時期なら、姉の名前で小説を完成できるんじゃないかって。……姉と声も似てるし」
拓也「……そうだったんですか」
藍子「最後に、姉からの伝言です。もし、デビューできたら、海藤さんのプロポーズを受けます」
拓也「う、うう……」
藍子「今まで、本当にありがとうございました。海藤さんのおかげで、完成させることができました。それじゃ、さよなら」
電話を切る藍子。
藍子(N)「こうして、私のテレワークと、芽生えた淡い恋は終わりを遂げたのだった」
終わり
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