【声劇台本】山ガール

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■概要
人数:2人
時間:10分程度

■ジャンル
ボイスドラマ、現代劇

■キャスト
雨宮 さくら(29) 会社員
川岸 七海(29) さくらの親友

■台本

さくら(N)「山ガール。登山を趣味としている女の子のことを、世間ではそう呼ぶそうだ。私は昔から山が好きで、一年に数回は山に登る。つまり、私も世間から見たら山ガールということになるのだろう」

  さくらと七海が山を登る。

七海「ねえ、さくら、疲れたー。休憩しようよ」
さくら「え? また? さっきもしたじゃない」
七海「体力が限界なんだから仕方ないじゃない」
さくら「仕方ないなぁ」

  2人が立ち止まり、座り込む。
  さくらが水筒を開けて、中のお茶を注いで七海に渡す。

さくら「はい。お茶」
七海「ありがとう!」

  七海がゴクゴクと飲む。

七海「ぷはー! 上手い!」
さくら「七海、おっさんくさいよ」
七海「うっさいなー。いいの。ここにはさくらしかいないんだから」
さくら「そんなんだから、結婚できないんだよ」
七海「今まで彼氏ができたことない、さくらに言われたくないなー」
さくら「……ねえ、七海。この話題、止めない?」
七海「……そうね。お互い、傷口を広げるだけだし」
さくら「それはそうと、急にどうしたの? 登山に連れてってくれって。今まで誘っても、あんな苦行に行く理由がわからないって来たためしなかったのに」
七海「ねえ、さくら。山ガールって言葉、知ってる?」
さくら「……登山する女の子のことでしょ?」
七海「そう。……でね、今、ブームらしいんだよね」
さくら「ん? 登山が?」
七海「いや、山ガールが」
さくら「は? どういうこと?」
七海「だーかーら、男子の中で、山ガールの人気が高いって意味」
さくら「……そんな理由だったか」
七海「当たり前でしょ、じゃなかったら、こんな苦行、進んでやらないって」
さくら「あっそ。じゃあ、もう休憩終わり。さ、行くよ」
七海「ええー! まだ全然、体力回復してないよ」
さくら「いいから、行くよ」
七海「鬼―!」

  2人が再び歩き始める。

七海「はあ……はあ……はあ……」
さくら「ほら、そんなんじゃ、頂上に着く前に日が暮れちゃうよ」
七海「いいの。私の目的は登山することで、頂上に行くことじゃないから」
さくら「うーん。登山は頂上を目指すことだと思うんだけど……」
七海「登山している山ガールという肩書があればいいだけだから、いいの」
さくら「登山を舐め腐ってるね」
七海「私は山ガールになって、三十路になるまでに結婚してやるんだから」
さくら「……まあ、どうでもいいけど、それなら私とじゃなくて、誰か、男の人と一緒にこないと意味ないんじゃない?」
七海「何言ってるのよ。今の私は登山の初心者。山ガールには程遠いわ」
さくら「たしかに素人感丸出しね」
七海「だから、さくらに山ガールのいろはを習って、立派な山ガールになってから、男をゲットするのよ」
さくら「なら、ペース上げるよ。登山家なら、これくらいの山、サクサク上らないと」
七海「だーかーらー、私は登山家じゃくて、山ガールを目指してるの!」
さくら「違いがわからないんだけど……」
七海「考えてみて。男がへばっている中、女の方がサクサクと登っていく様を見せつけて、モテると思う」
さくら「まあ、引かれて終わりだね」
七海「でしょ?」
さくら「じゃあ、どうすればいいのよ?」
七海「うーん、こういうときは、疲れたよー、ねえ、休もうよーって言って甘えるとか?」
さくら「……今のあんたじゃん。それだと山ガールになれないんじゃないの?」
七海「あ、そっか。じゃあ、どうすれば正解なんだろうね? 山ガールって深いわ……」
さくら「ねえ、七海。どうして、山ガールが男の人に人気なんだろうね?」
七海「きっとあれじゃない? 一緒の目的を持った男女は恋が芽生えやすいとか」
さくら「だったら、別に登山じゃなくてよくない? 他のスポーツとかでも一緒でしょ?」
七海「たしかに……。あ、じゃあさ、高いところだと、怖くてドキドキするじゃない。それが恋と混同してとか?」
さくら「吊り橋効果ってやつ? それなら、頂上に登らないとだね」
七海「うっ! 自爆だったか」

  2人が歩き続ける。

七海「はあ……はあ……はあ……」
さくら「……ねえ、七海。少し、休もっか?」
七海「大丈夫……。頂上、行くんだから……」
さくら「さっきと違って、随分、気合入ったわね」
七海「私ね……。お嫁さんになるのが夢なの」
さくら「へえ、随分、乙女な夢ね」
七海「結婚して、寿退社して、旦那に食わせてもらって、毎日、自由気ままに暮らすの」
さくら「前言撤回するわ」
七海「だから、私……。それを叶えるためなら、どんな苦しいことでも、乗り切ってみせる!」
さくら「山ガールとしても、友達としても、最低だと思うけど、その執念だけは認めるわ」
七海「ありがとう!」
さくら「……親指立てて、キメ顔してるけど、褒めてないからね」
七海「ほらほら、早く歩かないと、置いていくわよー」

  七海が歩くスピードを上げる。

さくら「はいはい。それじゃ、ペース上げるね」
七海「あ、ごめんなさい。調子づきました」

  2人がさらに歩いて行く。

さくら「お疲れ様! 頂上に到着したよ」

  ドサッと座り込む七海。

七海「やったー!」
さくら「ふふ。ねえ、どう? 頂上に着いた感想は?」
七海「うーん。そうだね。やっぱり、達成感がすごいかな。あと……頂上から見える景色って綺麗だね」
さくら「でしょ? この瞬間が最高だから、私は登山が好きなんだ」
七海「うん。さくらがハマる理由、わかる気がする。私も、登山、好きになれそうかも」
さくら「そっか。それなら、七海も立派な山ガールなのかもね」
七海「やったー! これで彼氏ゲットできる!」
さくら「あのさー、七海」
七海「ん?」
さくら「私、山ガールだよね?」
七海「あんたが違ったら、誰が山ガールなのよ」
さくら「……知ってると思うけど、私、今まで彼氏いたことないよ?」
七海「さくら……。私、今日で山ガール引退するわ」
さくら「うん。そう言うと思った」

終わり

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