◆補足
この作品はオリジナル小説『僕は結婚したくない』のボイスドラマとなっております。
小説の方を読んでいただけると、より楽しんでいただけます。
<僕は結婚したくないのページへ>
■概要
人数:2人
時間:10分程度
■ジャンル
ボイスドラマ、現代劇、学園、コメディ
■キャスト
千金良イノリ
青手木シオ
■台本
朝。スズメが鳴く声。
シオ「(やや小声で)……おはようございます」
イノリ「……(寝息)」
シオ「(やや小声で)イノリさん、朝です。起きてください」
イノリ「……う、うーん」
シオ「わかりました。それでは……」
イノリ「はっ! 殺気? うわああー! 青手木(あおてぎ)、何やってるんだ!」
シオ「目覚めのキスです」
イノリ「いや、なに、当然のような顔をして寝ぼけたことを言っているんだ」
シオ「眠った人を起こすのは、キスが一番だと書籍に書いてありましたから」
イノリ「……どんな本だよ。まさか、いかがわしい本か?」
シオ「いえ、全年齢向けの書籍です」
イノリ「本当か? なんて本だよ?」
シオ「白雪姫です」
イノリ「……ああ、うん。確かに全年齢向けだな。聞いてくれ、青手木。そういうのはおとぎ話だけでしか成り立たないんだ。それに、そういうのは、男が女の子にするもんなんだ」
シオ「そうですか。では……」
イノリ「……目をつぶって、何をしてるんだ?」
シオ「イノリさんが、私にキスをしてくれるって話ですよね?」
イノリ「聞いてほしかったのは、そっちじゃない」
シオ「起きたのでしたら、朝食にしましょう。もう出来てますので」
イノリ「……そっか。作っちゃったか。それを一口、口の中に入れてくれれば一発で起きたんだけどな。って、いうか、色々突っ込みが多くて、一番重要な突っ込みが遅くなっちゃったよ!」
シオ「なんでしょう?」
イノリ「なぜ、当然のように、僕の部屋の中にいる?」
シオ「……?」
イノリ「いや、なんのことって顔をするな! どうやって家に入ってきた!? ドアの鍵は壊すなって、前に言ったはずだけど?」
シオ「はい。ドアは壊してません。今回は窓です」
イノリ「えーっと、何か説明すればいいのかな。あのな、青手木。ドアも窓も壁も天井も床も壊さないでほしいんだ」
シオ「ですが、それだとイノリさんの部屋に入れません」
イノリ「お前は、怪盗かなにかなのか? 僕の部屋に入ることを前提に考えるなよ」
シオ「合鍵を貰えれば、問題は解決するのですが……」
イノリ「解決どころか、大問題が発生しちまうよ……。とにかく、青手木。朝は起こしに来てくれなくて大丈夫だ」
シオ「ですが、それだとイノリさんの寝顔が見れません」
イノリ「お願い、見ないで……」
シオ「可愛かったです」
イノリ「やめてー!」
間が開いて。
イノリ「少し距離を取ろう」
シオ「距離を……? なぜでしょう?」
イノリ「それは、ほら、僕と青手木は、もう婚約者じゃないだろ?」
シオ「はい。恋人同士です」
イノリ「いや、違うよ。友達から始めようって話になっただろ? これ以上、月見里(やまなし)さんに誤解されたら、終わりなんだよ……」
シオ「……カヤさんとも友達、ですよね?」
イノリ「傷口をえぐらないで! うう……そうなんだよな。青手木との関係をなんとかするまで、付き合う話はなかったことになったんだよなぁ……うう、月見里さん……」
シオ「大丈夫です。私がいます」
イノリ「フラれたテイで話を進めるな!」
間が開いて。
イノリ「とにかく、少し距離を取ろう」
シオ「距離を……? なぜでしょう?」
イノリ「話をループさせるな。えっと、そうだな……。そうだ、ほら、今、ソーシャルディスタンスをしないといけないだろ?」
シオ「……?」
イノリ「お前、本当に世間に疎いのな。あれだよ、世界的に病気が流行ってるから、相手に病気をうつさないように、距離を取るんだよ。……うん、我ながら、いい理由を思いついたものだ」
シオ「なるほどです。うつさないように、ですか……。確かにイノリさんにうつしたらと考えると死んでお詫びしなくてはなりません」
イノリ「いや、そこまで重い話じゃないよ? 怖いから、止めてね、ホントに。それに、僕がお前にうつす可能性もあるし」
※次のシオのセリフはパロディなので、パロディがNGの場合は()のセリフで。
シオ「私は一向に構いません(私は問題ありませんが)」
イノリ「お前は中国拳法の達人か!(真顔で言われると怖いから……)」
シオ「ではどうしましょう。イノリさんを家に監禁すればいいんですか?」
イノリ「お前は極端すぎるよ。朝に……っていうか、しばらくは僕の部屋に入らないくらいでいいんだ」
シオ「……そう、ですか」
イノリ「そんな、悲しそうな顔をしないでくれ。なんか、良心が痛む……」
イノリ(N)「このセリフが前フリだったかのように、僕はその日、インフルエンザにかかってしまった。でも、まあ、青手木にうつしてもマズいし、距離を置く話をしておいてよかったな」
イノリ「……にしても、体が苦しいせいか、妙に寂しく感じるな。さっきまで、月見里さんと窓越しで話をしてたから、尚更だよ。……それにしても月見里さん、すごく心配してくれたよな。看病させてって言ってきかなかったもんなぁ。ああいうの、ちょっと嬉しかったりしたりして。……うう、やっぱり、寂しいな」
そのとき、チャイムが鳴る。
イノリ「ん? 僕の部屋に来る人で、チャイムを鳴らすなんて……誰だ?」
ドアを開ける音。
シオ「こんばんは」
イノリ「なっ! 青手木、お前、なんで!」
シオ「ドアも窓も壁も天井も床も壊すなと言われたので」
イノリ「あ、ああ。そうだったな。青手木が普通の行動することを新鮮に感じてしまったけど、これが普通なんだよな……って、そうじゃなくて!」
シオ「……?」
イノリ「お前、なんで来たんだよ。距離を取るって話だっただろ?」
シオ「距離を取る理由は、私がイノリさんに病気をうつしてしまう可能性があったからですよね? イノリさんの方が病気になったので、私からイノリさんにうつす可能性はなくなりました」
イノリ「いやいや。僕から青手木にうつすことになるだろ」
※次のシオのセリフはパロディなので、パロディがNGの場合は()のセリフで。
シオ「構わないと言ったはずです(問題ないと言ったはずです)」
イノリ「……青手木」
シオ「それに、イノリさんを看病するという口実で、一緒にいられますから」
イノリ「……口実かよ」
シオ「……もし、私にうつったとしたら、今度はイノリさんが私を看病してくれますか?」
イノリ「……うつったらな」
シオ「ふふ。一粒で二度おいしいですね」
イノリ「なんかのCMみたいだな」
シオ「それでは、お邪魔いたします」
イノリ「お前には負けたよ……」
イノリ(N)「結局、この後、青手木にうつることはなかった。しかし、次の日、月見里さんがズルいと大騒ぎし、数日間、青手木と月見里さんが僕の部屋に泊まり込むことになったのだが……それはまた、別のお話だ」
終わり