【声劇台本】最愛の父へ
- 2020.10.24
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:5人
時間:10分程度
■ジャンル
ボイスドラマ、シリアス
■キャスト
イーサン(子供)
イーサン
レナード
課長
子供
■台本
中庭で子供たちが遊んでいる。
子供「イーサン、早く来いよー」
イーサン(子供)「待ってー」
子供たちの無邪気な笑い声。
レナード「みんな。準備が出来たよ。手を洗って、みんなで夕食にしよう」
子供たち「はーい!」
イーサン(N)「孤児院での生活はとても貧しかったが、俺にとってそこで過ごした時間は何事にも代えがたい大切な宝物だ」
イーサン(子供)「……」
レナード「ん? どうしたんだい、イーサン」
イーサン(子供)「僕ね、お父さんのこと、だーい好きだよ」
レナード「ありがとう、イーサン」
イーサン(子供)「ねえ、お父さんも僕のこと好き?」
レナード「ああ。もちろんだよ」
イーサン(子供)「みんなよりも、僕が一番好き?」
レナード「うーん。ごめんな。お父さんにとっては、全員が大切なんだ。全員が一番なんだよ」
イーサン(子供)「それでいいよ。だって、僕もみんなのこと、大好きだもん」
レナード「そうか。そう言ってくれて、私も嬉しいよ。お父さんはね、どんなことがあっても、みんなのことを守ってみせるよ。……どんなことがあってもね」
イーサン「みんなのことが大好きで、みんなと一緒に楽しく過ごす。そんな毎日が当たり前で、ずっと続いていく。それが当然だと思っていた」
子供が走ってくる。
子供「イーサン、大変だ! ミーナが帰ってきてない!」
イーサン「え? いつものところにいるんじゃないの?」
子供「いなかった。みんなで他の場所も探してるけど……」
イーサン「そんな……」
レナードがやってくる。
レナード「ああ、ようやく見つけた。二人とも、他のみんなを見なかったかい? 夕食の準備ができたんだがいないんだ。せっかくの御馳走が冷えてしまう前に、みんなを呼んできてくれないかい?」
子供「お父さん! ミーナがいなくなった! また、人さらいかもしれない! だから、みんなで探してるんだけど……」
レナード「そ、そんな……ミーナが……」
イーサン(子供)「まだ、さらわれたかわからないよ! 僕が探してくる!」
レナード「……いや、お前たちも狙われたら大変だ。行くんじゃない……」
イーサン(子供)「でも、ミーナが」
レナード「う、うう……。ごめんよ。お父さんがしっかりしてなかったから……」
イーサン(子供)「お父さんのせいじゃないよ! ミーナはきっと、道にでも迷ってるんだ! 僕、探してくる!」
イーサン(子供)が走っていく。
イーサン(N)「結局、ミーナを見つけることはできなかった。そして、二度とミーナが孤児院に戻ってくることもなかった……。この事件をきっかけに俺は警察になろうと決めた。そして、必ず犯人を捕まえると誓った」
警察署。
電話が鳴り響く。
イーサンが電話を取る。
イーサン「はい、刑事課。……え? 本当ですか? わかりました、すぐ行きます!」
電話を切り、課長の方へ行くイーサン。
イーサン「課長、ようやく人身売買の犯罪グループの情報を掴みました」
課長「そうか……。ついに、お前の執念の捜査が身を結んだな」
イーサン「はい」
課長「だが、油断するなよ。一瞬のミスがすべてを台無しにするからな」
イーサン「はい、わかりました。では、行ってきます」
課長「イーサン」
イーサン「……はい?」
課長「お前……南区の孤児院の出身だったな」
イーサン「ええ、レナード孤児院です」
課長「いいか、イーサン。警察は捕まえることが仕事だ。裁くのは俺たちの仕事じゃないぞ」
イーサン「……俺がいた孤児院からも多くの被害者が出ました。正直に言うと、俺は復讐の為に警察になったようなものです。ですが……不思議と犯人のことは憎いと思ってないんです。ただ、捕まえたい。そう思うだけです」
課長「……そうか。なら、私から言うことはなにもない。……行ってこい」
イーサン「はい。あの……課長」
課長「ん?」
イーサン「今まで……その……ありがとうございました」
課長「ああ」
イーサンが走り出す。
ドアをノックする音。
レナード「どうぞ。開いてるよ」
ガチャリとドアが開く音。
レナード「おお、イーサンか」
イーサン「……ご無沙汰してます」
レナード「来るなら、連絡の一つでもくれればよかったのに。あいにく、おもてなしできるほどのものが残ってないんだ」
イーサン「孤児院……閉めるんだってね」
レナード「ああ。私も年を取ったよ。もう、子供を育てられる体力はない」
イーサン「……俺はここでの生活が好きだった。ここで過ごした時間は俺にとって、幸せそのものだった」
レナード「そう言ってもらえると、私も嬉しいよ。私としてはお前たちに何一つ贅沢をさせられず、心苦しかったからね」
イーサン「俺たちにとっては、ここで生きていけるだけで充分、贅沢だったよ。父さんには感謝してもしきれない」
レナード「はは。買いかぶり過ぎだ。私ほど情けない院長はいないさ」
イーサン「そんなことはないよ。国からの援助金もなく、あれだけの人数の子供を育て上げたんだ。すごいことだよ」
レナード「……」
イーサン「父さんは俺たちに何一つ贅沢させられなかったって言ってたけど、数か月に一度はご馳走を出してくれた。……あれは、本当に美味しかったよ」
レナード「……」
イーサン「御馳走は美味しかったけど、俺たちの周りで誰かがいなくなってたから、どちらかというと悲しいという感情の方が強かったけどね」
レナード「……辿り着いたんだな」
イーサン「組織の人を締め上げたら、全部話してくれたよ……」
レナード「なあ、覚えているかい? お前が、私に自分のことが一番好きかと尋ねてきたことがあったんだ」
イーサン「忘れないさ。そのとき、父さんは、全員が大切だって答えた」
レナード「本心だった。本気でそう思っていた。大切なお前たちをなんとか守りたいと、そればかり考えていたよ」
イーサン「たとえ、誰かを犠牲にしたとしても」
レナード「それが最善だと思っていた。たくさんの子供たちを救うためにわずかの子供たちを犠牲にする」
イーサン「全ては俺たちのため」
レナード「いや、これは私が自分勝手な考えでやったことだ」
イーサン「俺にとって、あなたは最高の父親だ。その思いは今も変わらない」
レナード「裏ではおぞましいことをしていたんだぞ。決して許されないことだ」
イーサン「わかってる。でも、それでも、あなたは大切な人で、今でもあなたのことを慕っている。……だからこそ、だ」
イーサンが銃を構える。
レナード「お前が責任を感じる必要はない」
イーサン「俺は……俺たちはみんな、どこかで気づいていたと思う。誰かがいなくなる日は少しだけ、いつもより豪華な食事が出ていた。次は自分がいなくなる番かもしれないと震えながらも、次の御馳走が楽しみだった」
レナード「……」
イーサン「捕まえた人間から全てを聞いたときも、そこまで衝撃を覚えなかった。だから、きっと俺たちみんな、無意識に気づいていたんだと思う。だからこれは、俺たち全員が背負う罪で、単に俺がその代表ってだけさ」
レナード「最後の最後に、世話をかけてしまうな」
イーサン「いいんだよ。今まで父さんが俺たちにしてきてくれたに比べれば、大したことないさ」
レナード「……お前たちは私にとって、自慢の子供たちだよ」
イーサン「父さん、ありがとうございました」
レナード「ありがとう」
一発の銃声が響き渡る。
終わり
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