■概要
人数:3人
時間:10分程度
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
稔
蓮
父親
拓也
※大人の稔と父親は兼ね役。拓也と子供の頃の稔は兼ね役
■台本
鳩の鳴く声。
稔「あ、父さん。ハトだ! 可愛いなぁ……うっ! うう……はあはあはあ……」
父親「稔。落ち着いて。ほら、ゆっくり深呼吸して」
稔「すーはー。すーはー」
父親「さ、今日はもう横になって」
パタパタと鳩が羽ばたいて飛んでいく。
稔「あ、行っちゃった」
父親「なんだ。稔は鳩が好きなのかい? それなら、今度、私が捕まえてあげよう」
稔「ううん。いいの。鳥は自由だから好きなんだ。カゴに入れられたりなんかしたら、そのハトが可哀そうだよ。……そんなの、僕みたいだ」
父親「稔……」
稔「ねえ、お父さん。僕、もう少し大きくなったら、手術、できるようになるんだよね?」
父親「ああ。そうだ。そうすれば、稔も外に出て、遊べるようになるからな」
稔「うん……。早く、大きくなりたいな……」
父親「すぐさ。さ、もう寝なさい」
稔「うん……。おやすみなさい、お父さん」
父親「お休み、稔」
稔(N)「僕は早く大きくなりたかった。すぐにでも、大人になりたかった……」
場面転換。
雀が鳴く声。
稔「(寝返り)ん……」
蓮「よお! 起きたか?」
稔「うわああ!」
蓮「おわっ! ビックリした! 急に叫ぶなよ」
稔「き、君、だれ? なんで、僕の部屋にいるの?」
蓮「俺は、蓮だ! お前の友達になってやる」
稔「……どこから入ったの?」
蓮「ん? ああ、窓からだ」
稔「ど、ドロボー……」
蓮「友達だって言ってんだろ」
稔「け、警察。お父さん!」
蓮「人の話を聞けー!」
ポカリと頭を叩く蓮。
稔「痛い!」
蓮「そんなに強く叩いてねーだろ」
稔「な、なんの目的で僕の部屋に侵入してきたの?」
蓮「ほう。稔はなかなか難しい言葉を知ってるんだな」
稔「……結構、本とか読むから」
蓮「ふーん。お前も本好きか」
稔「……お前も?」
蓮「まあ、いいや。で、なにする?」
稔「え? なにって?」
蓮「いや、友達が来たんだから、遊ぶに決まってんだろ」
稔「友達? 遊ぶ?」
蓮「あのなあ、さっきも言っただろ。俺はお前の友達だって。ほら、いいからさっさと起きろ。寝てたら遊べないだろ」
稔「で、でも……僕、外に出られないんだ」
蓮「甘いぞ、稔! 遊びなんてものはな、場所は関係ないんだ」
稔「どういうこと?」
蓮「なにも外で遊ぶだけが、遊びじゃないってこと。工夫次第で、家の中でもいろいろなことができるんだ」
稔「家で遊ぶって言っても、ゲームとかももってないし」
蓮「ゲームを使って遊ぶなんて邪道だ。遊ぶものがないなら、作る! それだって遊びのうちだ」
稔「作るって何を?」
蓮「紙とペンはあるか?」
場面転換。
蓮「3Cに攻撃」
稔「あ、当たりだ!」
蓮「ふっふっふ。俺の勝ちだな」
稔「これ、面白いね」
蓮「海戦ゲームっていうんだ。な? 別に外に行かなくても遊べるだろ?」
稔「うん! もう一回やろう!」
蓮「いいぜ! 返り討ちにしてやる!」
場面転換。
稔「5Aに魚雷」
蓮「ぎゃーー!」
稔「へへへ! 10連勝―」
蓮「もう一回だ、もう一回!」
ドアが開く音。
父親「稔、どうしたんだ? 起きてこないで。ご飯食べないのか?」
稔「あ、お父さん、ごめんなさい。友達と遊んでて」
父親「……友達?」
蓮「お邪魔してるぜ!」
父親「そうか。ありがとう。息子と仲良くしてやってくれ」
蓮「ああ」
父親「それなら、ご飯は部屋に持って来よう」
稔「うん! ありがとう!」
蓮「あ、俺は食べてきたから大丈夫」
父親「それじゃ、蓮くん。ゆっくりしていってくれ」
蓮「おう!」
ドアがパタンと閉まる。
蓮「よし、じゃあ、次はオセロやろうぜ」
稔「あれ? 海戦ゲームは?」
蓮「お前、強すぎるから面白くねえ」
稔「あはは。うん、じゃあ、オセロやろう」
稔(N)「それからは、毎日のように蓮くんが遊びに来て、僕たちは家の中で遊んだ。そのときはもう、僕は外に出たいとは思わなくなっていた。だって、毎日が本当に楽しかったから」
ドアが開く音。
父親「稔。そろそろ、病院に行くぞ」
稔「えー、今、いいところなの。今日は行かない」
蓮「何言ってんだ、行けよ」
稔「なら、蓮くんも一緒に行こうよ」
蓮「行くわけねーだろ、アホか」
父親「ほら、我がまま言わないで行くぞ」
稔「はーい……」
場面転換。
車内。
父親「稔、変わったな」
稔「え? そう?」
父親「前は病院楽しみにしてただろ。それが、行きたくないって言うなんて驚いたよ」
稔「蓮くんに会う前は、早く手術受けたかったから。それに病院に行く日は外に出られるからさ」
父親「そういえば外に出たいって言わなくなったな」
稔「うん。だって、家の中でも面白い遊び、いっぱいあるから!」
父親「……そうか。でもな、稔。……お前の手術日が決まったんだ……。稔の誕生日の一か月後になった」
稔「え? ホント!? じゃあ、外に出られるようになる?」
父親「ああ。もちろんだ」
稔「やったー! 今度は蓮くんと外で遊ぼうっと」
父親「……」
場面転換。
蓮「おめでとう、稔。手術、決まったんだってな」
稔「うん! あのね、手術受けたら、外に出れるようになるって。だから、今度は外でも遊べるよ」
蓮「……悪いな。俺、外、ダメなんだ」
稔「え? そうなの……? じゃあ、いつも通り、家で遊べばいいよ」
蓮「いや、お前は外で遊べ。ちゃんと友達も作ってな」
稔「嫌だよ! 友達は蓮くんだけでいい」
蓮「何言ってんだ。あれだけ、外に出たいって言ってたくせに」
稔「家の中でも色々遊べるってわかったから、もういいんだ。外に出なくても」
蓮「出られるんだから、出ろ!」
稔「蓮くん?」
蓮「どっちみち、そろそろお前とは会えなくなる。だから、お前はちゃんとした友達を外で作れ」
稔「……何言ってるの? なんで、会えなくなるの?」
蓮「俺は……座敷童なんだよ」
稔「あはは……座敷童って、妖怪の?」
蓮「そうだ」
稔「でも、蓮くん、着物着てないし、おかっぱ頭じゃないよ」
蓮「妖怪にも流行があるんだよ」
稔「……僕は蓮くんが座敷童でもいい。友達は蓮くんだけでいいから」
蓮「……ありがとな。けど、ダメなんだ。座敷童は子供にしか見えないんだ。そろそろ、お前にも俺が見えなくなる」
稔「そんな! 嫌だよ!」
蓮「仕方ねーだろ。同じような年齢のときにしか見えねーようになってんだから」
稔「……じゃあ、蓮くんも年取ればいい。そうすれば、僕が大人になっても、ずっと友達でいられるもん」
蓮「あほ。それじゃ座敷親父になっちまうだろ」
稔「いいじゃん! 座敷親父、格好いいよ! だから、お願い! これからもずっと一緒にいようよ!」
蓮「さんきゅー。でもな、稔。たとえ、見えなくなっても俺たちはずっと友達だ」
稔「嫌だよ! 消えないで! 僕、ずっと蓮くんと一緒にいるんだ!」
蓮「じゃあな、稔。これからも見守っててやるから」
稔(N)「それが蓮くんに会った、最後だった。あれから無事に手術が成功し、僕は自由に外に出られるようになった。あんなに外に出たかったのに。あんなに早く大人になりたかったのに。自由に出られるようになった空は、少し寂しい感じがした。そして、それから20年が経った」
ノックした後、ドアを開ける稔。
稔「拓也。何してるんだ? お昼ご飯できてるぞ」
拓也「あ、お父さん! 僕ね、友達ができたんだ」
稔「友達……? そうか。ありがとう、蓮くん。息子と仲良くしてやってくれ」
稔(N)「蓮くんは約束通り、ずっと僕を見守ってくれていた。蓮くんの言う通り、僕らはこれからもずっと友達だ」
終わり