【声劇台本】不思議な館のアリス 闇の一族

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■概要
人数:1人
時間:10分程度

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
アリス

■台本

アリス「こんばんは。アリスの不思議な館にお越しいただき、ありがとうございます。またお会いできて、嬉しいです。今日も取材ということでよろしいですか?」

アリス「それでは今日も少し不思議なお話をいたしましょう」

アリス「闇に潜む一族のことは知っておりますでしょうか? 今回はその中でも吸血鬼のお客様のお話です」

アリス「え? そんなものいるわけがないですって? ふふ。そうですね。では、おとぎ話として聞いてください」

アリス「吸血鬼というのは、人間よりも寿命が長いそうです。大体、人間の3倍ほどあるそうですよ。太陽に弱いというのは本当ですが、十字架やニンニクに弱いというのは創作だとのことです。ですので、あなたも、吸血鬼に襲われた際に十字架を作るなどせずに、すぐに逃げることをお勧めします」

アリス「それと、太陽に弱いと言っても、人間と比べて弱いというくらいらしいですよ。長時間、太陽を浴びていると具合が悪くなるくらいだそうです。だから、昼間だからと言って安心してはいけませんよ」

アリス「あと、よく勘違いされるみたいですが、吸血鬼は、むやみに人は襲わないそうですよ。血を吸うといっても必ずしも人間のものでなくてもよいみたいですし、吸う量もほんの微々たる量らしいです。なにより、普通に人間の食事もとるらしいですからね」

アリス「ああ、申し訳ありません。前置きが長くなってしまいました。ですが、最後に一つだけ。吸血鬼は自分の命を使って、人の生命を引き延ばすことができるという能力を持っているそうです。……それでは、お話を始めさせていただきます」

アリス「それはある吸血鬼の家族……ある男性の話。その方の姉は人間と恋に落ち、子を産んだそうです。そのような事例は珍しくはないそうですが、それでも一族としてはあまりいい顔をされないとのことです。その方は不本意ながらも姉の結婚を祝福したそうです。ですが、その姉は亡くなられてしまったのです」

アリス「過労による心臓麻痺だったそうです。結婚した男はとても貧しく、その夫を支えるために姉はかなり無理をして仕事と子育てをしていたんです」

アリス「その方は姉を愛していた……いえ、愛し過ぎていたのでしょう。姉を失った怒りは当然、夫と娘に向きました」

アリス「その方は考えます。どうやってこの二人に復讐しようかと」

アリス「……復讐。別に姉はその二人の手によって死においやられたわけではありません。二人に憎しみを向けるのはおかしいです。ですが、深すぎる絶望は誰かに向けるしかなかったのでしょう。愛はそれほどまでに深く、暴走しやすいものなのです」

アリス「その方は思いつきました。娘が幸せの絶頂のときに亡き者にしようと。そして、大切な者を失う絶望を姉の夫に味合わせてやろうと考えたのです」

アリス「おかしな話です。その夫は、すでに愛する者を失った絶望を知っているのに……」

アリス「その方は娘が大きくなるまで、辛抱強く待ちました。すべては復讐の為に。そして、娘が20歳……つまり、大学生になったときに接触します」

アリス「本当は娘に恋人ができるのを待とうとしたらしいのですが、娘は恋愛に奥手だったので、なかなか恋人ができなかったそうです」

アリス「そこで、自分がその恋人になろうと思ったようです。……え? かなり年齢が離れているから怪しまれるのではないか、ですか?」

アリス「吸血鬼は人間の3倍の寿命があります。つまり、人間と比べて三分の一のスピードでしか年をとらないということです」

アリス「その方の思惑通り、娘とすぐに恋仲になったそうです。その方はとても魅力的で、すぐに恋に落ちたそうですよ」

アリス「姉の夫……つまり、娘の父親に挨拶に行こうという話になりました。長年待ち続けていた復讐の機会が訪れたということです。あとは娘をどう殺すか。そのとき、あることを思いつきます。娘は登山が趣味だったそうです。そこで、登山中に遭難ということにすれば、父親は長年苦しむだろうと」

アリス「間近で死を見ない限り、人は希望を持ち続けます。その分、娘の死を受け入れらず苦しむだろうと考えたのでしょうね」

アリス「その方は遭難することが自然に見えるように敢えて、冬に二人で登山する計画を立てます」

アリス「ですが、自然を舐めてはいけません。二人は本当に冬山で吹雪に見舞われ、遭難したそうです」

アリス「テントの中、震えながら二人で過ごす内に、その方は自分の死も予感したそうです。そこで、その方は全てを娘に話しました」

アリス「その話を聞いたときは、さすがにショックを受けたそうです。ですが、逆に良かったと思ったらしいです。娘の方も、ずっと母親の死の原因は自分にもあったのではないかという罪悪感があったんです」

アリス「……なにより愛する人の手にかかって死を迎えられることに」

アリス「そして、娘はその方に、こう聞いたそうです。自分の血を吸えば、あなたは助かるんじゃないか、と」

アリス「その答えはイエスでした。最初に説明しましたが、吸血鬼は少量の血を吸うだけで生き続けられます。そして、闇の一族と言われるくらいですから、冬山の寒さも一か月くらいなら耐えられるとのことです」

アリス「なので、娘は言ったそうです。私の血を吸って生き残ってほしいと」

アリス「その方はわかった、と言ったそうです。ですが、娘が死んだのを見届けてから血を吸うと言うのです」

アリス「なぜでしょう? その方が言うには、簡単に死なれては困る。最後まで苦しむのを見届けると言ったそうです。……自分もギリギリのはずだったのに。なにしろ、自分も死を予感して全てを話したくらいですから」

アリス「二人は抱き合い、暖を取りながら、ひたすら時間を過ごしました」

アリス「吹雪は止まず、救助もいつ来るかわからない状態です。……娘の方はそもそも助かるつもりがありませんでしたからね。逆に愛した人と一緒にいられる幸せな時間を過ごせたようです」

アリス「その方も、自分が限界の状態でも決して娘の血を吸おうとせず、衰弱していったそうです」

アリス「そしてついに、娘の方が限界を迎えます。極寒の中、二週間ももった方が奇跡と言えるでしょう」

アリス「それから一週間後、救助隊は二人がいたテントを見つけます。その中には娘しかいなかったそうです。ただ、その隣には大量の灰が残っていたらしいです」

アリス「それはつまり……その方は最後まで娘の血は吸わなかったのでしょう。……なぜでしょうかね?」

アリス「さて、これで、このお話は終わりです」

アリス「え? オチがないだろうって? ……そうですね。この手の話でオチを求められても困るのですが……。では、最後に一つだけ」

アリス「私はこの話を一体、誰から聞いたでしょう?」

アリス「ふふ。それではまたのお越しをお待ちしております」

終わり。

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