■関連シナリオ
<ウサ耳メイドにご注意を!>
■概要
人数:5人
時間:10分程度
■ジャンル
ボイスドラマ、異世界、コメディ
■キャスト
新(あらた)
天使
先生 ※兼ね役可
モブ ※兼ね役可
■台本
新(N)「異世界で人生のやり直し。漫画や小説でよく見かけるようになった設定。できることなら自分も経験してみたいと思った人も多いだろう。俺もそんな人間の一人だ。なんだろうね。世の中って面白くないし、辛いことが多い。ホント、なんでもいいからこんな現実から逃げ出したい。異世界に転生できるなら、何を犠牲にしてもやる。……そう思っていた時期が、俺にもありました」
先生「おい、田中! 気持ちはわかるが、外で運動している女子のことばっかり見てるんじゃない」
新「え?」
女子1「やだあ」
女子2「サイテー」
周りからクスクスとバカにするような笑い。
先生「田中みたいに思春期で欲求が溢れるのはわかる。けどな、あからさまなのは先生、ダメだと思うぞ」
周りからクスクスとバカにするような笑い。
新(N)「いや……。今回は空を見てただけだよ。今回は。濡れ衣はやめて欲しい」
場面転換。
ドスドスと校庭を走る新。
新「ぜーぜー!」
体育教師「おい、田中! スピード落ちてるぞ。ほら、あと2周なんだから頑張れ」
新「む、無理……だって……」
男子1「いやいや、先生。新のあの巨体で走れる方が奇跡だって」
チャイムが鳴る。
体育教師「また達成できなかったか。はあ……。田中、お前、少し体重落とした方がいいぞ」
新「ぜーぜー!」
男子1「新がいると、体育楽だよな。あいつに合わせてくれるからさ」
男子2「いや、そのせいで、体育つまんねーんだけど」
新(N)「人には得手不得手があるんだ。俺は頭を使うタイプなんだよ」
場面転換。
先生「先週のテスト返すぞ。ああ、田中。お前、今回も赤点だから、放課後、補習だからな」
新「……」
新(N)「別に、勉強できるイコール頭がいいってわけじゃない。俺は応用力があるタイプだ」
場面転換。
カラスが鳴いている。
新「はあ……。もう、暗くなっちまったよ。今日は返って、ゲームとアニメを見る予定だったのに。あー、体育で疲れたし、今日は早く寝るか……」
男が物凄い勢いで走ってくる。
男「どけ!」
新「うわっ!」
男に押されて、倒れる新。
ガン!と鈍い音が響く。
新「痛てー。これ、絶対、デカいコブできてるパターンだよ。……あれ? なんともなかった」
天使「即死しましたよ」
新「おわっ! ビックリしたー。……誰?」
天使「天使でーす」
新「なんだ、俺、死んだのか。天使が出てきたってことは、俺、他の世界に転生できるとか?」
天使「すごいですね。何も言わなくても、そこまで理解してるんですか。すごい対応力ですね。この世界の人はみんなそうなんですか?」
新「おお、初めて人に褒められた気がする」
天使「それでは、この後の話をしましょうか」
新「やった! 念願の異世界転生! えーっと、どんな能力を付けてもらおうかな。やっぱりチート系だよな。汎用性のあるスキルってどんなのがあるのかな?」
天使「最初に言っておきますと、新さんは転生ポイントが足りないです」
新「……へ? 足りない?」
天使「はい」
新「もしかして、転生できないとか?」
天使「はい、そうです。新さんは良くも悪くも何もしてませんから。ポイントが減ることはないのですが、増えてもいませんね」
新「ええー。じゃ、なんで来たの! 喜び損じゃん! 結局、このまま死ぬってことでしょ?」
天使「いえいえ、違いますよ。新さんにはチャンスがあります」
新「チャンス?」
天使「はい。ポイントが足りないなら、補充すればいいんです。これから、天界でポイントを貯めてもらってから転生する方法があります」
新「え? マジで? 早く言ってくれよ。やるやる!」
天使「わかりました。では、転生するって方向で。……あ、そうだ。転生後のことも、今、聞いてもいいですか?」
新「え? えーと、めちゃくちゃチート級に強くて、女の子にモテて、イケメンで、金持ちで便利なスキルをドンドン覚える感じでお願いします」
天使「えっと、チート級に強くて、女の子に……」
新「できそう?」
天使「ええ、もちろんですよ」
新「やったーーー!」
新(N)「こうして、俺は異世界転生して、バラ色の人生を送る……わけではなかった」
場面転換。
天界。
天使「さあ、新さん。ここのお掃除が終わったら、おじいちゃんの肩もみで、その後、子供の世話とお使いです。サクサクいきましょう」
新「ちょっと待って! なんで、こんなことしないとならないんだ? 異世界転生は?」
天使「ポイントが足りないって説明しましたよね? 新さんには転生のポイントを、この天界で稼いでもらわないといけないんです」
新「ああ……。そんなこと言ってたね。けど、掃除とか肩もみとか、天界なのに随分と現代っぽいな」
天使「まあ、どの世界も、あまり変わりませんからね。さ、おしゃべりしてる暇、ありませんよ。頑張ってください」
新「はいはい……」
場面転換。
天使「まずはこの30キロの重りを付けてください。そして、とりあえず30キロ走ってください」
新「え? なんで、そんな拷問みたいなことしないとならないの?」
天使「新さんはチート級の強さが欲しいんですよね? なら、修行しないと強くなれませんよ?」
新「え? そこは天使の能力でパパっと強くしてくれるんじゃないの?」
天使「あははは。そんなわけないじゃないですか。そんな上手い話、あるわけないです」
新「……」
天使「ああ、ここは天界なので、死の概念がありません。なので限界とか考えなくても大丈夫ですからね」
新「……あのさ、転生ってこのままの体でするわけじゃないんだよね?」
天使「ええ。違う肉体として転生しますよ」
新「なら、ここで鍛えても仕方なくないか?」
天使「ここで鍛える目的は心を強くすることです。強い体でも、心が鍛えられないと発揮ができないんです」
新「……あのさ、やっぱり、あの希望はキャンセルするよ。こんな特訓できるなら、そもそも俺、現世であんな体型になってないし。俺、基本的にだらしない性格だからさ。無理だよ」
天使「一度、言った希望は取り消せませんよ。きっちり、心を鍛えてくださいね」
新(N)「それはもう、地獄と言っても過言ではなかった。死ねない、気絶できないというのは本当にきつい。死ぬんじゃないという苦痛が永遠と思えるほどの時間、繰り返された」
場面転換。
天使「では続けて、女性の心のお勉強です。モテる方法と、会話の特訓、リアクションの方法や行動、所作などをきっちりと学んでもらいます」
新「おお。それはちょっと嬉しいかもだけど、少し寝かせてもらえませんかね?」
天使「大丈夫ですよ。寝なくても死にませんから」
新「……」
天使「では、まずは新さんが抱いている、女性の理想像を壊すところから始めましょうか」
新(N)「……前言撤回。正直、そんな裏側の部分まで知りたくなかった。二次元の女の子と三次元ではまるで違う生き物なのだということをきっちりと心の芯に植え付けられたのだった」
場面転換。
天使「新さん、30年間、お疲れさまでした。転生ポイントと転生時の希望を叶えるくらいの心の強さを得られました」
新「……ああ。そういえば、そんな趣旨だったな。正直、何のための拷問だったのか忘れてたよ」
天使「体も見違えるほどに変わりましたよね」
新「ああ。自分でも太ってた頃が遥か昔のように思えるよ」
天使「新さんの曲がった性根と性格は治すことができなかったのは心残りですが、張り切って、転生してきてください」
新「一言多いよ。まあ、頑張った分、転生後の世界で楽しませてもらうか。……しかしなぁ。現世でこの三分の一でも頑張ってたら、人生、変わってたかもな。本気出すって大事なんだな」
天使「それをわかっていただけただけでも、大きな成長ですよ」
新「ありがとう。最初は殺意しか湧かなかったけど、今では少しだけ感謝してるよ」
天使「それでは、転生、行ってきてください」
新(N)「こうして俺は異世界に転生して、人生をやり直すことになった。最初に言っていた希望も叶っている。チート級の強さに、イケメン。そして、もちろん――」
モンスター「ぐおおおお!」
巨大なモンスターが派手に倒れる。
女の子1「きゃー! 新様―!」
女の子2「素敵!」
女の子3「一生ついていきます―」
新「……」
新(N)「女の子にモテモテだ。確かに、モテている。けど……」
新(女)「ありがとう」
女の子1「きゃー! 素敵な笑顔!」
女の子2「お姉さまー!」
新(N)「なんで、女なんだよ! 確かに男って指定してなかったけどさー。女の子にモテモテだよ? 女じゃ意味ねーじゃん!」
終わり