【声劇台本】恋のマウント

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■概要
人数:3人
時間:15分程度

■ジャンル
ボイスドラマ、学園、コメディ

■キャスト
悠(ゆう)
光莉(ひかり)
養護教諭

■台本

夏。セミの鳴き声が響く。

悠(N)「俺は今、恋している。告白はしていない。……というより、普通、恥ずかしくて出来ない。それにもし、断られたりなんてしたらと思うと……考えただけで気が狂いそうになる。そして、告白しない理由はもう一つある」

悠「恋は告白した方が負けか……。この漫画、やっぱり面白いな」

バンと勢いよくドアが開く。

光莉「ちょっと、悠! 何してんのよ!」

悠「うわああ! 光莉、お前、何普通に入ってきてんだよ!」

光莉「あんたねえ、今日、買い物付き合うって約束したでしょ!」

悠「ああ……そうだったな。今、準備するよ。けど、部屋にいきなり入ってくるのは止めろ」

光莉「なーに、恥ずかしがってんのよ。今更。あんたと何年、近所付き合いしてると思ってるのよ。あんたのことなんて全部お見通しなんだからさ」

悠「いや、その……ほら、俺も思春期の男なんだからさ。色々、あるだろ」

光莉「なに? ベッドの下のエッチな本のこと言ってるの?」

悠「なっ! おまっ! 俺のいないときに部屋に入ったのか!」

光莉「……やっぱり、そこに隠してるのか。あんたさ、昔から隠し物するの下手だよね。っていうか、雑」

悠「……お前、カマかけたな」

光莉「……やっぱり、あんたもそういうの、興味あるんだ?」

悠「いや、違うって。智也が置いてったんだよ。勝手に処分するのも悪いしさ。かといって、学校に持ってくわけにもいかないだろ?」

光莉「ふーん……。智也くんがねぇ」

悠「あ、信じてねえな」

光莉「……あんたさ、やっぱり、胸……大きい女の子の方が好きだったりするの?」

悠「は? えー、どうだろうな……」

光莉「ちょっ! あんた、なに私の胸見てるのよ! バカ! スケベ! 変態!」

悠「いや、違うって! 誰がお前のなんか見るかよ! お前の裸なんて見飽きてるっつーの」

光莉「あんた、それ幼稚園の頃のお風呂一緒に入ってた頃のこと言ってるでしょ。バカじゃないの? ホント、男ってサイテー」

悠「そんなこと言って、女だって、男の顔しか見てねーじゃねーか」

光莉「まーね。イケメンは正義よ」

悠「……生まれた瞬間に負け組に確定した男の気持ちなんて、女には一生分からないんだろうな……」

光莉「いや、あんただってそこそこ……」

悠「ん?」

光莉「いや、なんでもない。……って、あんたもその漫画読んでるの?」

悠「あ、ああ……。これな。智也が面白いからって貸してくれたんだよ。一巻読んでハマっちまった」

光莉「面白いよね、それ」

悠「……なあ、光莉、これホントだと思うか?」

光莉「何が?」

悠「……告白した方が負けって話」

光莉「あー、うーん。やっぱり、そうなんじゃない? ほら、よく惚れたら負けって言うし」

悠「だよな……」

光莉「でも……告白されるって難しいよね。そもそも自分のこと、好きかどうかわからないし」

悠「ああ……。って、お前、好きな人いるのか?」

光莉「え? あー、えと、うん……。いる」

悠「ま、マジか……。まさか智也か?」

光莉「へ? 違うって。確かに智也くん、格好いいと思うけど、好きって感じじゃないかな」

悠「ほっ……。あ、じゃ、じゃあ……も、もしかして……だけど、お、俺だったり……?」

光莉「はああああ!? な、何言ってんの! バカじゃないの!? んなわけないし! あんたなんか、男として見てないからっ!」

悠「そ、そうだよな……。ははっ……」

光莉「ほら、ば、バカなこと言ってないで、さっさと準備して降りてきなさいよ!」

勢いよくドアを開いて部屋から出ていく光莉。

悠「……あぶねえ。告白してたらフラれるところだった。にしても脈なしか……。ショックだな」

場面転換。

学校の廊下を歩く悠。

悠「あっちーな。保健室で涼ませてもらうか」

立ち止まって、ドアに手をかける。

悠「せんせー、涼ませて……」

保健室の中から声が聞こえる。

光莉「……っていうわけなんです」

養護教諭「なるほどね。恋って難しいわよね」

悠(N)「光莉の声だ。……恋の話?」

養護教諭「光莉ちゃんが、もう少し大人だったら、お酒の勢いでって言えたんだけどね」

光莉「お酒……ですか?」

養護教諭「そっ! 大人が持つ特権の一つ。気持ちよくなれて、本音を言えて、さらに次の日にはそのことを忘れられるっていう、まさに魔法の飲み物よ」

光莉「お酒って、そんなにすごいんですね」

養護教諭「あら、興味出てきちゃった? ダメよ、光莉ちゃんは未成年なんだから、二十歳になるまで我慢、ね」

光莉「……でも、二十歳って。あいつと同じ大学に行くか、わからないし」

悠(N)「あいつ? あいつって誰だ?」

養護教諭「そう焦らないの。まだ時間はあるんだから。甘酸っぱい青春を謳歌しなさい」

光莉「……でも」

養護教諭「大丈夫。先生も、あっちの話、聞いておいてあげるから」

光莉「ホントですか!」

養護教諭「うん。だから、心配しなくていいわよ。……って、ちょっと職員室行ってくるから、留守番しててね」

養護教諭が歩いて、ドアを開ける。

悠「うわっ!」

養護教諭「あら、悠くんじゃない。……ふふ。じゃあ、君も一緒にお留守番、頼むわね」

養護教諭が行ってしまう。

光莉「ゆ、悠。何に来たのよ?」

悠「いや、ちょっと、涼みに来たんだよ」

光莉「ふーん……」

悠「……」

光莉「あんたはさ、いないの?」

悠「なにがだ?」

光莉「好きな人」

悠「……いるよ」

光莉「いるの!? 誰?」

悠「い、言えねーよ。女の噂って怖いぐらい広がるだろ」

光莉「誰にも言うわけないじゃない。いいなさいよ」

悠「……嫌だよ」

光莉「……でも、そっか。いるのか」

悠「……」

光莉「あのさ。私達って、幼馴染、だよね?」

悠「は? なんだよ、急に。幼馴染以外のなんなんだよ?」

光莉「そ、そうだよね……。ごめん、変なこと言って」

悠「……」

光莉「……」

悠「なんか、暑いな。飲み物、貰っちゃおうぜ」

冷蔵庫を開ける悠。

光莉「ちょっと、あんたね!」

悠「あ、あの先生。学校にお酒持ち込んでる」

光莉「うっそ! さすがにまずいんじゃない?」

悠「でもほら、これ。よく母ちゃんが飲んでる奴だよ。カクテルだろ、これ」

光莉「ホントだ。お姉ちゃんも飲んでるよ、これ。カクテルは甘くて飲みやすいんだって」

悠「うーん。酒以外に、普通の飲み物ねーな」

光莉「……ねえ、悠。飲んでみない?」

悠「は? いや、さすがにマズいだろ」

光莉「誰もいない屋上なら、見つからないし」

悠「け、けど……」

光莉「お願い」

悠「わ、わかったよ……」

場面転換。

セミの鳴き声。

悠「やっぱ、屋上は直で太陽が当たるから暑いな」

プシュッと音がして、ゴクゴクと飲み始める光莉。

悠「ちょ、お前、いきなりかよ!」

光莉「ふー。……あ、ホントだ。ちょっとドキドキして、フワフワしてきた」

悠「ま、マジか。確かに先生も言ってしな」

回想

養護教諭「そっ! 大人が持つ特権の一つ。気持ちよくなれて、本音を言えて、さらに次の日にはそのことを忘れられるっていう、まさに魔法の飲み物よ」

回想終わり。

悠「よし、俺も!」

プシュッと音がして、ゴクゴクと飲み始める。

光莉「いいね、いいね。ドンドン行こう!」

悠「おう!」

場面転換。

悠「結構、飲んだな」

光莉「そうだね」

悠「……お酒飲んだらさ、次の日にはこのこと、忘れるんだよな?」

光莉「そう言ってたね」

悠「俺、お前のこと、好きなんだ」

光莉「え? あ、あんた、急に何言ってるのよ!」

悠「あ、ホントだ。本音言えた。酒ってすげー」

光莉「……バカ。私が言おうと思ったのに」

悠「……は? でも、お前、俺じゃないって」

光莉「あんなストレートに言われたら、否定するに決まってるでしょ! そ、それに……告白した方が負けなんだから」

悠「俺と同じこと考えてたのか。……あれ? ちょっと待てよ。ってことは俺、負けたのか?」

光莉「えへへ。そうだね。私の勝ち!」

悠「待て、今のはノーカンだ!」

光莉「無理でーす! 取り消せません」

バンと勢いよくドアが開く。

養護教諭「探したわよ! あんた達、よくも私が楽しみにしていたカクテル、飲んだわね」

光莉「先生! 私、言えました! お酒の力、すごいですね!」

養護教諭「へ?」

悠「先生! お酒のせいで俺、負けちゃったよ」

養護教諭「(つぶやくように)……これ、ノンアルコールなんだけど。暑さと緊張で勘違いしたみたいね……」

場面転換。

がばっと布団から起きる悠。

悠「記憶が消えてない。あれ? おかしいな。お酒飲んだら、次の日には忘れてるはずなのに」

コンコンとノックの音。

悠「ん? 光莉か? 開いてるぞ」

光莉が入ってくる。

光莉「お、おはよう……」

悠「おはよう……」

光莉「あ、あのさ。悠って、昨日のこと、覚えてる?」

悠「へ? ……あー、いや。なんのことだ? 全然覚えてないぞ」

光莉「そ、そうだよね。わ、私も。全く覚えてない。やっぱり先生の言った通りだったね。記憶、綺麗に消えてるもん」

悠「あ、ああ。そうだな。お酒はすげーな」

光莉「……今度はお酒なしで言わせるから」

悠「ん? なんか言ったか?」

光莉「ううん。何でもない。それよりほら、さっさと準備しないと遅刻するわよ」

悠「ああ、そうだな」

悠(N)「お酒の力のせいで、危なく俺は恋で敗北するところだった。けど、逆に光莉が俺のことを好きだという情報を手に入れることができた。このアドバンテージはデカいはずだ。今度こそ、俺は恋のマウントを取ってみせるぜ」

終わり。

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