【声劇台本】絆の向こう

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■概要
人数:3人
時間:10分程度

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
蒼汰(そうた)
猿汰(えんた)
妖怪

■台本

蒼汰(N)「僕は陰陽師だ。でも、まだまだ半人前だ。じいちゃんがいつまでたっても、認めてくれないから、妖怪が出るって古い家に来たんだけど……」

蒼汰が走っている。

蒼汰「はあ……はあ……はあ……。あっ!」

蒼汰が転んでしまう。

ヒタヒタと歩み寄る足音。

蒼汰「あ、ああ……」

妖怪「くくく……。美味そうなガキだ」

蒼汰「く、来るな」

妖怪「ん? ガキ。お前、随分と霊力が高いな。もしかして……陰陽師か?」

蒼汰「ひっ!」

妖怪「こりゃ大当たりだ。お前を食えば、俺の妖力も跳ね上がる。それじゃいただきまーす!」

蒼汰「うわああああ!」

妖怪「な、なんだ、このガキ、急に光り出したぞ」

ポンと、猿汰が現れる音。

猿汰「ふう。やっと解放されたぜ。って、おいおい、蒼汰。こんな雑魚で覚醒かよ」

蒼汰「え……? 君、だれ? どこから出てきたの?」

猿汰「なんだ、ジジイから聞いてないのか? 陰陽師は5歳になった、仮神(けしん)が目覚めるんだよ」

蒼汰「で、でも……僕、7歳だよ?」

猿汰「だから、やっと解放されたって言っただろ? 蒼汰は遅い方だな」

蒼汰「う、うう……」

妖怪「おい! なに、俺を無視して話を進めてんだ! 力に目覚めたかどうか知らねえが、とにかく、お前を食ってやる!」

蒼汰「ひいっ!」

猿汰「仮神は術者の生命の危機に、感情が高ぶって発動することが多いんだが……。よりによって、こんな雑魚かよ」

妖怪「ざ、雑魚……だと?」

猿汰「……妖怪の格としては下の下じゃねーかよ。自分の妖力の低さ、自覚してねえのか?」

妖怪「な、なんだと……」

蒼汰「だ、ダメだよ……。そんなこと言っちゃ」

猿汰「ん? ああ、そっか。真実は時に、心を抉るからな。すまんすまん。えーっと、下の中くらいじゃねーかな」

蒼汰「あ、あんまり変わってないよ」

妖怪「うるせえええー! このガキ食って、格を上げてやるぜ!」

蒼汰「ひいいい!」

猿汰「ビビるな! 立て!」

蒼汰「う、うん」

猿汰「いいか。練習通りにやればいい。お前がどれくらい努力してきたかは、俺が知ってる。集中しろ!」

蒼汰「うん!」

猿汰「今回は俺が合わせてやる、いくぞ!」

蒼汰「はあああ!」

蒼汰・猿汰「絶!」

妖怪「ぎゃああああー!」

弾けるような音と消えるような音。

蒼汰「せ、成功……したの?」

猿汰「ああ。よくやったな」

蒼汰(N)「これが僕の仮神、猿汰(えんた)との出会いだった」

場面転換。

16歳になった蒼汰が走っている。

猿汰「蒼汰、逃がすなよ」

蒼汰「わかってるって!」

妖怪「うぐぐぐ……」

妖怪が立ち止まる。

猿汰「ん? あいつ止まったぞ」

妖怪「ぐがあああ!」

いきなり、妖怪が踵を返して襲い掛かってくる。

蒼汰「げっ!」

妖怪の爪が空を切る。

蒼汰「あっぶねえ」

猿汰「だから、油断するなって言ってんだろ」

蒼汰「う、うるさいな。躱したからいいだろ」

猿汰「まだ来るぞ!」

妖怪「ぐああああ!」

蒼汰「おわあああ!」

妖怪が次々と繰り出す攻撃を躱し続ける蒼汰。

蒼汰「よっ! ほっ! あぶねっ!」

猿汰「距離をとれ、蒼汰」

蒼汰「っと!」

大きく後ろに下がる蒼汰。

妖怪「うぐぐぐ……」

猿汰「来るぞ、集中しろ」

蒼汰「はいはい……」

妖怪「がああああ!」

蒼汰・猿汰「絶!」

妖怪「ぎゃあああああ!」

弾けるような音と消えるような音。

蒼汰「ふう。任務完了……」

猿汰「蒼汰! また、危なっかしい戦い方しやがって! いつも油断するなって言ってるだろ!」

蒼汰「悪かったって! それに勝ったからいいだろ?」

猿汰「よくない! こんな戦い方じゃ、いつか死んじまうぞ!」

蒼汰「大丈夫だって。猿汰と一緒なら、どんな妖怪にも負けねえって」

猿汰「俺がいなかったら、どうするんだ!」

蒼汰「いやいや。お前がいない状態で戦うことなんてないんだから、そんなこと考えなくていいだろ」

猿汰「あのなあ……」

蒼汰「まあまあ。そのうち、猿汰に心配されないくらい強くなってやるって。日本一の陰陽師にな」

猿汰「はあ……。終業試験が思いやられるな」

場面転換。

蒼汰「ええー! 猿汰が来ないって、どういうことだよ?」

猿汰「終業試験は仮神の力を使わないで自分の力だけで妖怪を祓う試験なんだよ」

蒼汰「……マジか。けど、ま、やってやるよ。猿汰がいなくても、ちゃんとやれるってこと、証明してやるよ」

猿汰「ああ。期待してるぞ」

場面転換。

廃墟の中を歩く蒼汰。

蒼汰「暗いな。いつもなら、猿汰に妖怪の気配を探ってもらうんだけど……。そうは言ってられないからな。集中集中……。ん?」

妖怪「ぐがああああ!」

蒼汰「おわあああ!」

妖怪「ぐおおお!」

蒼汰「ちょ、まっ!」

妖怪が繰り出す攻撃を躱す蒼汰。

蒼汰「待てって、『猿汰』」

妖怪(猿汰)「……なんでわかった?」

蒼汰「なんでって……。何年一緒にいると思ってるんだよ。気配でバレバレだっての」

猿汰「すごいな。自分の仮神だとはいえ、気付ける奴は珍しいんだけどな」

蒼汰「これは見破るっていう試験なのか? なら合格ってわけだ」

猿汰「……違うよ。最初に言っただろ。妖怪を祓うのが試験の内容だ」

蒼汰「は、はは……。冗談きついって」

猿汰「冗談なんかじゃない。仮神というのは、文字通り仮の神。術者によって、倒されることで『式神』となるんだ」

蒼汰「……」

猿汰「お前が一人前になったかどうかの実力を測る試験でもある。本気でいくぞ」

蒼汰「待てって。む、無理だよ」

猿汰「……陰陽師は、強い心を持ってないといけないんだ。どんな妖怪にも情けをかけることなく、止めを刺せないといけない」

蒼汰「だ、大丈夫だよ。俺、ちゃんとやれるから。だから……」

猿汰「なら、俺にもできるな?」

蒼汰「いや、猿汰は妖怪じゃないだろ」

猿汰「妖怪だよ。蒼汰。お前の中の霊力を吸って、俺は八百万へと進化していく」

蒼汰「……」

猿汰「そして、術者に妖怪として止めを刺されることで『神』となり、『式神』になるんだ」

蒼汰「……できない。俺には無理だ」

猿汰「お前の夢は日本一の陰陽師になることだったよな? あれは嘘か?」

蒼汰「嘘じゃない! けど……」

猿汰「……」

蒼汰「俺は猿汰に会うまでは本当にダメなやつで、周りからは陰陽師になるのは諦めろって言われてた。けど、お前に会ってから、力をうまく使えるようになって、俺は自信を持てるようになった。人並みに戦えるようになった。猿汰には感謝してるんだ。……だから、猿汰には俺の近くで見てて欲しいんだ。俺が日本一の陰陽師になるところを」

猿汰「見てるさ。お前の式神になってな」

蒼汰「嫌だ! 式神は自我のない、本当に使役するものだろ。俺は今のままの猿汰と一緒にいたい。お前と別れるくらいなら、俺は……陰陽師の道を諦める」

猿汰「がっかりだな。そんな程度の思いだったのか。お前の日本一への夢は」

蒼汰「……」

猿汰「いや、すまない。お前がどれだけ本気で努力してきたかは知ってる。思いの強さもな」

蒼汰「……」

猿汰「蒼汰。一時の感情に流されるな。どんなときでも、決断できる強い心を持て」

蒼汰「……」

猿汰「どっちにしても、陰陽師でないものが仮神を持ち続けることはできない。あと、数か月もすれば俺の自我も崩壊し、他の陰陽師に祓われることになる」

蒼汰「そんな! な、なら、俺が猿汰を守る」

猿汰「蒼汰。お前には才がある。日本一の陰陽師になることだって、夢なんかじゃない。お前が日本一になるのは、俺の夢でもある」

蒼汰「……う、うう」

猿汰「俺の夢、叶えてくれ」

蒼汰「うう……」

猿汰「今までありがとう。楽しかった」

蒼汰「……」

猿汰「ぐがああああああ!」

蒼汰「……絶!」

弾けるような音と消えるような音。

蒼汰(N)「俺は今まで、妖怪を祓うということがどういうものか、本当の意味で分かってなかった。それを猿汰が教えてくれた。俺はその日、初めて、妖怪を本当の意味で祓ったのだと思う。……俺は進む。猿汰の思いを乗せて」

終わり。

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