■シリーズシナリオ
〈妖怪退治は放課後に〉
■概要
人数:2人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス
■キャスト
芹澤 和馬(せりざわ かずま)
蘆屋 千愛(あしや せら)
■台本
妖怪「ケシャー!」
千愛「斬!」
キンという甲高い音が響く。
妖怪「ギィアアア!」
パリンとガラスが砕けるような音。
千愛「……」
和馬「千愛先輩。やっぱり、妖怪が多いですか?」
千愛「和馬くん」
和馬「はい、なんでしょう?」
千愛「私は陰陽師であって、便利屋じゃないのよ」
和馬「は、はい……。ただ、その……この辺で、最近、怪奇現象が多いって噂で……」
千愛「……別に和馬くん自身が困っているわけではないのでしょう? 放っておけばいいじゃない」
和馬「それはそうなんですけど……。でも、知ってたのに放っておいて、誰かが何かあったりしたら、目覚めが悪いって言うか」
千愛「本当に、要領が悪いというか、貧乏くじを引きやすいというか、どうしようもないわね」
和馬「う……」
千愛「まあ、いいわ。今回の除霊料は和馬くんに、付けておくからね」
和馬「ええ! うう……これ以上、払いきれませんよ」
千愛「そんなことは知らないわ。とにかく、返し終わるまでは、逃げられるとは思わないことね」
和馬「まあ、踏み倒す気はありませんが……住宅ローン並みに、返すのに時間がかかりそうです。……それより、どうですか?」
千愛「そうね……」
千愛と和馬が歩き始める。
千愛「かなり異常な状態ね」
和馬「やっぱり、妖怪が集まりやすい状態になってるってことですか?」
千愛「そうね。けれど、それにしては、かなりバランスが悪いわ」
和馬「バランスが悪い……ですか?」
千愛「妖怪にも縄張りというものがあるのよ。いくら、霊力が溜まっている場所でも、元々住んでいる妖怪がいれば、他から妖怪が入って来るなんてことはあまりないのよ」
和馬「そうなんですか? 妖怪にもちゃんとしたルールみたいなものがあるんですね」
千愛「ルールというか、本能ってところね。例えば、霊力の高い場所を奪い取ろうとして、そこにいる妖怪と争ったとして……最悪、消滅する恐れがあるのよ。消滅しないにしても、奪い取れなかったら、単に自分の霊力を消費するだけなの。リスクが高すぎるわ」
和馬「えっと、それじゃ、この辺には、元々妖怪が多いってことですか?」
千愛「いえ。外から入って来ている妖怪だけれど、元々いた妖怪と争いが起こっていない……。つまり、元々いた妖怪がいなくなったというところかしら」
和馬「そんなこと、あるんですか?」
千愛「……他の陰陽師が祓ったってところかしら」
和馬「なるほど。僕たちの前に、誰かがこの辺りの住人から依頼を受けたってことですかね?」
千愛「それにしては、やり方が荒いわ。元々いた妖怪を祓ったら、こうなることはわかるはずだけど……」
ピタリと立ち止まる千愛。
和馬「千愛先輩? どうしたんですか?」
千愛「この大きな屋敷……」
和馬「ああ、そこに住んでいた人は結構、有名な人だったみたいです」
千愛「……だった?」
和馬「一週間前に亡くなったみたいです」
千愛「……」
和馬「かなり変わった人だったみたいです。なんでも、よくゴミを拾ってくるとかで、近所の人とも喧嘩になることが多かったらしいですよ」
千愛「ゴミ……ね」
和馬「いわゆるゴミ屋敷になっていたみたいです。何度も、片付けるように言ったらしいんですが、聞く耳を持たなかったらしいですよ。そのせいで、酷い嫌がらせを受けてたみたいです」
千愛「……周りもそれについては見て見ぬフリをしてたってわけね」
和馬「はい。……正直、こんなことを言うのは不謹慎ですが、亡くなってよかった、なんていう人もいるみたいで……。それにそもそも、他殺なんじゃないか、なんて噂も立つくらいだったようです」
千愛「……」
ガチャリと扉を開けて、中へ入っていく千愛。
和馬「ちょ、ちょっと! 千愛先輩!」
場面転換。
千愛と和馬が屋敷の中を歩く。
和馬「まずいですよ、勝手に入ったりしたら」
千愛「……和馬くん、おかしいと思わないかしら?」
和馬「え? なにがですか?」
千愛「ゴミ屋敷にしては、綺麗だと思わない?」
和馬「そうですか? ものすごく物がいっぱいありますよ?」
千愛「大抵、ゴミ屋敷というのは、生活して出たゴミを溜め込んだりするのよ。でも、見てみて。ここには、生活している中でdたゴミを溜めていないわ。逆に、分別までしているわね」
和馬「じゃあ、このゴミは……?」
千愛「拾ってきたんだと思うわ」
和馬「ああー、いますね。捨ててあるゴミを拾ってきて、それを捨てられないタイプですか。本人からしたら、ゴミじゃなくて、宝物、なんていう場合もあるみたいですね」
千愛「そうね。ここにあるものは、全部、大切に扱われていたようね。綺麗に並べられているわ」
和馬「ゴミ屋敷なのに、整理整頓されている感じですね。なんか、矛盾しているような気がしますが」
千愛「どちらかというと、コレクターに近い感覚かもしれないわね」
和馬「確かに、物は多いですけど、床に落ちてるなんてことはないですからね」
千愛「……もしかして」
和馬「何かわかったんですか?」
千愛「ここに飾ってある物は、全部かなり古い物ばかりよ」
和馬「まあ……ゴミを拾ってきているみたいですから、古いのは当然なんじゃないですか?」
千愛「……和馬くん。付喪神というのを知っているかしら?」
和馬「え? はい。確か、長年使った物に神が宿るって……あ、もしかして」
千愛「ええ。どうやら、ここに住んでいた人は、ゴミを拾ってきたんじゃなくて、付喪神を拾ってきていたんだと思うわ」
和馬「付喪神を……ですか?」
千愛「ええ。拾って来たものを丁寧に扱っているのも、捨てるように言われても、聞く耳をもたなかったのも、説明がつくわ」
和馬「なるほど……」
千愛「そして、最近、この地域に妖怪が増えたことと、元々いた妖怪がいなくなっているというのも辻褄が合うわ」
和馬「逆じゃないですか? だって、この屋敷には付喪神がたくさんいるってことですよね?」
千愛「いえ。ここにはもう付喪神はいないわ」
和馬「え? でも……」
千愛「おそらく、この屋敷の住人が亡くなったときに、一緒について行ったんだと思うわ」
和馬「そんなことあるんですか?」
千愛「付喪神は普通、持ち主が亡くなると一緒に消えるのよ。その前に捨てるから、悪霊になっていくのよ」
和馬「じゃあ、ここに住んでいた人が亡くなってしまい、そのタイミングで付喪神が消えたってことですよね? そして、その付喪神がいなくなった場所を求めて、外から妖怪が入ってきているという状況ってことですか?」
千愛「ええ。その通りよ。そして、こうとも言えるわ。ここの住人と付喪神がいたからこそ、この辺りには妖怪がいなかった……」
和馬「つまり、この人がいたから、この辺りは平和だった……ってことですか?」
千愛「その通りよ」
和馬「……」
千愛「さてと、和馬くん。帰るわよ」
和馬「え? この状況はどうするんですか?」
千愛「どうもしないわ。この状況は、本人たちが望んだ結果で出来上がったもの。それを尻ぬぐいしてあげるほど、お人よしじゃないわよ」
和馬「……」
千愛「捨てる神あれば拾う神あり。この場合、拾った神を捨てたんだから、自業自得よ」
終わり。