■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
橘 愛菜(たちばな まな)
宮沢 浩三(みやざわ こうぞう)
その他
■台本
愛菜(N)「世界は憎しみに溢れている。憎しみが憎しみを生み、連鎖していく。この憎しみの連鎖を断ち切ることができるのは、愛、だけなのかもしれない……」
場面転換。
愛菜が5歳の頃。
リビングでテレビが付いている。
レポーター「今、この宮沢孤児院では、約100名以上の子供たちが生活をしています。それでは、この孤児院の院長である宮沢浩三さんにお話を聞いてみましょう。宮沢さん、個人で経営している孤児院ですが、随分と人数が多いようですが?」
浩三「いや、お恥ずかしい。孤児を見つけてしまうと、どうしても引き取りたいと思ってしまいましてね。多少、経営がきつくても引き取ってしまうんですよ」
遠くから愛菜の母親の声。
母親「愛菜―! もう出発するわよー 早くしなさい」
愛菜「はーい!」
ピッとテレビを消して、走り出す。
玄関まで行き、ドアを開ける。
車のアイドリング音。
母親「ほら、早く。飛行機行っちゃうわよ」
愛菜「うん」
愛菜が歩み寄ろうとした瞬間、巨大な爆発音が響く。
愛菜「きゃあ!」
轟々と炎が立ち上る音と、近所の人たちの悲鳴が響く。
愛菜「え? お母さん? ……お父さん?」
炎が上がり続ける。
愛菜「お父さん! お母さん! うわーー」
場面転換。
病院内。
呆然とする愛菜。
愛菜「……」
そこに男が歩み寄る。
男「橘愛菜さんだね?」
愛菜「……」
男「御両親は立派な政治家だった。だが、そのせいで暗殺されてしまった」
愛菜「……暗殺?」
男「ああ。君のお父さんとお母さんは殺されたんだ」
愛菜「……」
男「……復讐したいとは思わないかい?」
場面転換。
愛菜が21歳。
愛菜(N)「両親を失ったことは不幸だったけど、組織に声をかけてもらったのは幸運だった。組織からしても、憎しみを持った子供の方が、暗殺者として育てやすいというのもあったのだろう。ただ、組織の思惑なんて私には関係ない。とにかく、お父さんとおかあさんの仇を自分の手で討てるというだけで、私は満足だった」
ドアを開けて愛菜が部屋に入って来る。
愛菜「戻りました」
康平「お帰り、愛菜くん。随分と早かったね」
愛菜「簡単な任務でしたから。……次はどこに?」
康平「中東……といいたいところだけど、先にこっちをやってもらおうかな」
資料を渡す康平。
受け取ってペラペラとめくる愛菜。
愛菜「……宮沢浩三。宮沢孤児院の院長……。彼が次のターゲットですね。承知しました」
康平「彼が何をしたのかは聞かないのかい?」
愛菜「必要ないですから。私は言われた相手を消す。それだけです」
康平「ふーむ。暗殺者としては模範的な回答だね」
愛菜「……」
康平「だが、今回だけは必要あると思うよ」
愛菜「……どういうことですか?」
康平「なぜなら、その任務の依頼主は、君だ」
愛菜「……まさか」
康平「ああ。君の両親を暗殺した男だ。君の両親は孤児に関しての法の整備をしようとしていた。その男にしてはそれが邪魔だったんだろうね」
愛菜「……調べていただき、ありがとうございました。それでは……」
康平「待った。今回は暗殺だけではなく、調査もしてほしい」
愛菜「なぜです?」
康平「なぜ、君の両親を暗殺してまで、法の整備を止めたかったのか。それにこの孤児院は個人でやっているわりには入居している子供の人数が多い。その秘密を探ってほしい」
愛菜「わかりました」
康平「あと、一点。今回の暗殺の任務は君自身が依頼者だ。任務の取り消しするのも君の自由だ」
愛菜「両親を殺した相手に、みじんも躊躇する理由が見当たりません」
康平「ま、いいさ。とにかく調査の方は組織側の任務だから、よろしくね」
愛菜「はい……」
場面転換。
宮沢孤児院前。
遠くから子供たちの遊ぶ声が聞こえる。
愛菜「……」
子供「あれ? お姉さん、どうしたの? こんなところに立って」
愛菜「ああ、あのね。私、新聞記者なの。院長に取材をしたくて。いるかな?」
子供「おじいちゃんのお客さん? わかった。それじゃ、案内するね。ついてきて」
場面転換。
廊下を歩く愛菜と子供。
愛菜「ねえ、あなたはここ、長いの?」
子供「うーん。三年くらいかな」
愛菜「そう。ここでの生活はどう?」
子供「すごく楽しいよ! おじいちゃんが引き取ってくれなかったら、私、どうなってたかわからないの」
愛菜「院長……おじいちゃんのことは好き?」
子供「うん、大好き!」
愛菜「ここのみんなもそうなのかな?」
子供「うん、みんな、おじいちゃんのことは大好きだよ」
愛菜「もし、おじいちゃんがいなくなったら、どうする?」
子供「えー! 嫌だよ! おじいちゃんとずっと一緒にいたいもん」
愛菜「そう……」
子供と愛菜が立ち止まる。
子供がドアをノックする。
子供「おじいちゃん、お客さんだよ」
浩三「開いてるよ」
ガチャリとドアを開ける子供。
愛菜「新聞記者の橘と言います。取材をさせていただきたくて」
浩三「どうぞどうぞ」
子供「それじゃね、お姉さん」
愛菜「案内してくれて、ありがとう」
子供が部屋から出ていく。
浩三「取材ですか。何を聞きたいんですか?」
愛菜「ここを出所した子供の約5パーセントはすぐに失踪してますね」
浩三「うちの子供たちの人数は多いですからね。そういう偶然も……」
愛菜「100人に5人ですよ。偶然にしては多すぎますね」
浩三「……」
愛菜「あと、あなたのコネクションに臓器売買の闇ブローカーがいますね?」
浩三「……」
愛菜「ブローカーを通して、大物と繋がっているようですね。依頼があれば、すぐに子供の臓器を提供できる。それがここの売りなんですよね?」
浩三「貴様、何者だ?」
愛菜「ちょうどいい子供が施設内にいない場合は、依頼に合う子供を探し、その両親を暗殺した後、孤児になったその子供を引き取るなんてこともあるようですね?」
浩三「……生きて帰れると思うなよ?」
愛菜「最後の質問です。私の両親……橘隆文と橘都を殺したことは覚えてますか?」
浩三「橘……? 知らんな」
愛菜「そうですか。安心しました」
浩三「ああ?」
愛菜「あなたが最低の人間でよかった。心置きなく、任務を達成できます」
浩三「なにを……ぐっ。あ……、うが、なんだ? 毒? いつの間に……」
愛菜「クズでいてくれて、ありがとう」
浩三「がはっ!」
浩三が倒れる。
愛菜(N)「世界は憎しみに溢れている。憎しみが憎しみを生み、憎しみの連鎖が生まれる。きっと、私も憎しみを持った誰かに殺されるのだろう。もしかしたら、この孤児院の子供たちの誰かかもしれない。そうして、憎しみの連鎖は繋がれていくのだろう」
終わり。