■概要
人数:6人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
波多野 誠吾(はたの せいご)
美音(みおん)
その他
■台本
アナウンサー「今日はミュージシャンで実業家の波多野誠吾さんにお越しいただきました」
誠吾「どうも」
アナウンサー「先週リリースされた曲が、オリコンで1位を取ったわけですが、どうですか?」
誠吾「想定内でした。逆に1位じゃなかった方が驚いたと思いますね」
アナウンサー「凄い自信ですね」
誠吾「自信のないものを発表すると思いますか? そんなのはファンに失礼です」
アナウンサー「な、なるほど……。そういえば、波多野さんは実業家としても有名なのですが、二束のワラジは大変じゃありませんか?」
誠吾「いえ。立ち上げている事業も、音楽関連ですからね。逆に連携して効果が上がっていくんですよ」
アナウンサー「波多野さんは、今、年齢が25歳なんですよね? 世間では若くして全てを手に入れた成功者と言われていますが、そのへんに関してどう思いますか?」
誠吾「まず言いたいのは、年齢って関係あります?」
アナウンサー「え?」
誠吾「俺は俺だから、今の成功を得たと思っています。俺が25歳だから成功したわけじゃない。それに、俺の成功体験を聞いたところで、何になりますかね? 嫉妬させたいとかですか?」
アナウンサー「あ、いえ……。そういうつもりでは……」
場面転換。
バタンとドアが開き、誠吾が部屋に入って来る。
誠吾「ああー。飲み過ぎた」
美音「お帰りなさい。はい、水」
誠吾「ん、サンキュー」
ごくごくと水を飲む誠吾。
美音「テレビ見たわよ。相手、困ってたじゃない。もう少し謙虚になったら? 敵が多くなっちゃうわよ」
誠吾「別に。嫉妬で俺を嫌うような奴は元々、ファンにはならないだろ。そんな奴に媚びる気はないね」
美音「恨みを買うのが怖いのよ」
誠吾「大丈夫だって。そんな奴は行動に移す度胸なんてねーよ」
美音「……あ、そうだ、誠吾。明後日、誠吾の誕生日だよね? 久しぶりに家でパーティー……」
誠吾「ああ、ごめん。明後日は会社の関係で、会食がある」
美音「そっか……。最近、あんまり会えないね」
誠吾「あん? 会ってんじゃん、毎日」
美音「寝に帰って来てるだけでしょ。もっと、昔みたく一緒にいたいな」
誠吾「昔とは違うだろ、お互い。……そうだ、美音だけでも、どっか飯食いに行けよ。金は出すからさ」
美音「……一人で行ってもなぁ」
誠吾「モデル仲間を誘えよ。10万奢るとか言えば、来るだろ、たくさん」
美音「……昔の方がよかったな」
誠吾「は? 何言ってんだよ。今の方が贅沢できるし、お前だって、波多野誠吾の女だって、自慢できるだろ?」
美音「そんな自慢なんて……いらないよ」
誠吾「……とにかく、明後日は無理だ」
美音「……」
場面転換。
ツカツカと歩く誠吾に、女性が駆け寄る。
女性「あの、誠吾さん!」
誠吾「あん? なに? サインとかなら、めんどいからパスなんだけど」
女性「私、その……三ヶ月前パーティーで会った……」
誠吾「悪い、覚えてない。てか、一回、会った程度で覚えてられん」
女性「でも、その……一晩、一緒に……」
誠吾「……ああ。そういうこと。で?」
女性「で? って……。あの、恋人にしてくれるって……」
誠吾「酔ってたんだよ。あんただって、わかってるんだろ? 一回、寝たってだけで恋人になるなら、何人になるかわかんねーよ」
女性「……」
誠吾「なに? 金? いくら欲しい?」
女性「……最低」
女性が去っていく。
誠吾「……ふん」
場面転換。
お店から誠吾と男性が出てくる。
男性「期待してるよ」
誠吾「投資してくれた分、絶対に損はさせないさ」
男性「はは。頼もしいな。それじゃ、また」
誠吾「ええ。また」
男性がタクシーに乗って行ってしまう。
誠吾「さてと。少し飲んで帰るか」
そこに女性が目の前に現れる。
女性「……」
誠吾「あれ? お前、昼間の……」
女性「おろしたの」
誠吾「は?」
女性「ああああ!」
誠吾「なっ! うわあ!」
ザクと刺される音。
場面転換。
アナウンサー「襲われた波多野誠吾さんですが、女性関係のもつれだと噂されています。また、刺された腕は後遺症が残るとのことで、今後、音楽活動は難しいとの……」
プツっとテレビを切る誠吾。
誠吾「……」
ドアが開き、美音が入って来る。
美音「あれ? 起きてたの? まだ傷が治ってないんだから、無理しちゃダメよ」
誠吾「ああ……」
美音「そうだ。引っ越さない? ここって」
誠吾「なあ、美音」
美音「なに?」
誠吾「……別れよう」
美音「え? 何言ってるの?」
誠吾「色々なところからの違約金で、事業も終わり。音楽活動もできなくなった。女関係の暴露で信用もゼロ。普通に働くことも難しくなる」
美音「だからなに?」
誠吾「……お前に迷惑をかけたくない」
美音「何言ってるのよ、今更」
誠吾「何もかも失った。お前の男として、相応しくない。落ちぶれた俺と付き合ってたら、お前の仕事にも影響が出るだろ」
美音「そんなこと……」
誠吾「とにかく、別れてくれ。頼む」
誠吾が部屋から出ていく。
場面転換。
工事現場。
誠吾「はあ、はあ、はあ……」
中年男「おい! 波多野! なに休んでんだ! 休憩、まだだぞ!」
誠吾「す、すいません」
中年男「半年たっても、まだ仕事も覚えねえ。やる気あんのか?」
誠吾「すみません……」
中年男「向いてねえんだよ。辞めちまえって。元ミュージシャンで実業家の波多野誠吾くん」
誠吾「……」
笑いながら去っていく中年男。
そのとき、電話に着信音が鳴る。
ポケットから携帯を出して、出る。
誠吾「……はい。……え!?」
場面転換。
病院。
勢いよく、ドアが開き、誠吾が入って来る。
誠吾「美音!」
美音「あ、誠吾。……来てくれたんだ」
誠吾「火事に巻き込まれたって聞いて……。大丈夫なのか?」
美音「顔の火傷は治らないってさ」
誠吾「そうか……」
美音「モデルも続けられないから、違う仕事探さないと……」
誠吾「なあ、美音。やり直さないか?」
美音「え?」
誠吾「……勝手な話だけどさ」
美音「……ううん。やめとく」
誠吾「そうか……」
美音「私じゃ、誠吾に相応しくないから」
誠吾「相応しくない? ……何言ってるんだよ」
美音「だって、顔……火傷しちゃったし」
誠吾「そんなの関係ないって」
美音「もう、モデルは出来ないし」
誠吾「だから、そんなの関係ないって。俺は……モデルの美音が好きだったんじゃなくて、美音だから好きなんだ」
美音「……同じだよ」
誠吾「え?」
美音「私だって、ミュージシャンで実業家だったから誠吾が好きだったんじゃない」
誠吾「あ……」
美音「誠吾だから、好きなんだよ」
場面転換。
赤ちゃんの声・
誠吾「それじゃ、美音、美咲、行って来るな」
美音「ほら、美咲、お父さんに行ってらっしゃいして」
赤ちゃんの泣き声。
誠吾「あはは。まだ眠かったかな」
美音「でも、本当に大丈夫なの? ライブハウスのオーナーなんて」
誠吾「ん? なにがだ?」
美音「ほら、その……昔のことで……」
誠吾「まあ、色々言われることは多いだろうな。けど、俺は俺だ。お前が俺を好きになってくれたように、ただの波多野誠吾をわかってくれる人は、きっといるさ」
美音「そっか……。頑張ってね」
誠吾「ああ。それじゃ、行って来る」
誠吾が力強く、歩き出す。
終わり。