【声劇台本】不思議な館の亜梨珠 ポリシー

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■概要
人数:1人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
亜梨珠(ありす)

■台本

亜梨珠「いらっしゃい。亜梨珠の不思議な館へようこそ」

亜梨珠「……って、どうしたの? その顔」

亜梨珠「え? 喧嘩の仲裁に入ったら、殴られた?」

亜梨珠「前にもこんなことなかったかしら? あなたって、ここに来る前にいつもなにかしらあるわよね」

亜梨珠「ちょっと待ってて。今、冷やすものを持ってくるわ」

しばしの間。

亜梨珠「はい、どうぞ。あと、これは塗り薬よ。ああ、お代はいいわ。これは知り合いとしてやったことだから」

亜梨珠「さてと、それじゃ、今度は仕事として、お客様としての対応をしようかしら」

亜梨珠「今日も、お話を聞きに来たってことでいいのよね?」

亜梨珠「そうね……今日は、何の話をしようかしら」

亜梨珠「ああ、そうだわ。あなたは、今日、喧嘩の仲裁をしたのよね?」

亜梨珠「その仲裁した相手は知り合いだったのかしら?」

亜梨珠「……そう。やっぱり、どちらも知らない人だったのね」

亜梨珠「でも、どうして、仲裁に入ろうと思ったのかしら? 関係ない人同士の争いに首を突っ込んでもろくなことはないわ。現に、あなたは殴られているわよね?」

亜梨珠「……そういう性分、つまりポリシーってところかしら?」

亜梨珠「それじゃ、今日は、そのポリシーについてのお話をするわね」

亜梨珠「その男は国の徴兵制度によって、兵士として徴収され、戦地に送り出されたの」

亜梨珠「徴兵制度を敷くくらいだから、戦争はかなり激化していたようね」

亜梨珠「一兵卒のその男は最前線へと飛ばされてしまうの」

亜梨珠「その男は死にたくないという強い思いに突き動かされて、がむしゃらに戦っていたそうよ」

亜梨珠「日々の戦場を生き残り、戦いが日常となってしまった頃には、その男の兵士としての能力は磨かれ、数々の戦果をあげ、勲章をもらうほどになったわ」

亜梨珠「そして、その数年後、戦争は終わりを告げるの」

亜梨珠「そして、戦争が終わったということは兵士も不要になるということよ。国はその男を解放した……いえ、違うわね。追い出した、と言った方がいいわ。国の意思で兵士にされ、不要になったら追い出される。その男はまさに国の犠牲者と言ってもいいかもしれないわね」

亜梨珠「世間の中に追い出された男は、かなり困ったそうよ。今まで戦うことしか頭になかった人間が、すぐに世間に馴染めるわけもなかったみたい」

亜梨珠「男は悩みに悩んだ結果、自分が持っているスキルを活かすために、ボディーガードを選んだのよ」

亜梨珠「……え? 殺し屋じゃないのか? ふふ。あなたも随分と物騒なことを言うわね」

亜梨珠「いくら技術があったとしても簡単に殺し屋になれるわけじゃないわ。非合法な職業だから、表立って依頼者は来ない。つまり、それなりの人脈が必要なの」

亜梨珠「だから、その男はボディーガードを選んだというわけね」

亜梨珠「そして、その男はボディーガードをするにあたって、一つの決めごとをしたの」

亜梨珠「それは絶対に人犠牲者を出さないこと」

亜梨珠「それは依頼者はもちろん、同僚や襲撃者さえも、その範囲内としたわ」

亜梨珠「ボディーガードをしていれば、中には、依頼者を殺害しようする者も出てくるわ。そんな相手に対して、対抗する際に、逆に相手を殺してしまうこともあるというわけよ」

亜梨珠「だけど、その男は自分で決めたルールをかたくなに守り続けたの」

亜梨珠「それはもう、ポリシーというには重すぎるほどの決意になっていくわ」

亜梨珠「数年が経っても、男はポリシーを守り続けた。どんなに自分の命が危険にさらされたとしても、どんなに相手が救いようのない人間だったとしても、絶対に命を奪うようなことはしなかったわ」

亜梨珠「戦争のときに勲章も貰っていたこともあり、男の名前はその業界では知らない人間はいないほどになったの。凄腕のボディーガードで、絶対に犠牲者を出さない男として」

亜梨珠「そうなってくると、今度は商売敵や嫉妬した人間が、その男自体を消したいと考えるようになったわ。現に裏では懸賞金が掛けられていたそうよ」

亜梨珠「プライベートでも襲われるようになったのだけど、男はポリシーを守りながらも襲撃者を撃退していったわ」

亜梨珠「男を狙っていた側の組織は、いよいよ追い詰められていったの。それはそうよね。暗殺者まがいのことをしても、人ひとり消すことができない。そんな組織に誰が依頼をするかしら?」

亜梨珠「そして、その組織は強硬手段に出るわ」

亜梨珠「それは全力で、男の依頼者を殺すこと」

亜梨珠「男自身を殺すことができなかった組織は何としてでも、せめて、依頼を失敗させたかったようね」

亜梨珠「多勢に無勢。やがて、男と依頼者は組織の人間に囲まれることになったわ」

亜梨珠「男一人だけなら、逃げ切ることも可能だったのだけど、依頼者を守りながら突破するのは無理だったみたいね」

亜梨珠「そこで、男はある交渉をしたわ。それは……」

亜梨珠「自分の頭を自分で撃ち抜くこと」

亜梨珠「相手にしてみれば、その男が邪魔なだけだから、その男さえ消えてくれれば、依頼者まで殺す必要はない。それに、その交渉を受けた上で、破ったりしたら、今度こそ、その組織は信用がなくなり、崩壊するわ」

亜梨珠「そして、どうなったかというと……」

亜梨珠「どうなったと思うかしら?」

亜梨珠「ええ。躊躇なく、自分を撃ち抜いたそうよ」

亜梨珠「犠牲者を出さないというのに、自分自身が含まれていたのかはわからないけれど、その死に顔はどこか満足気だったらしいわ」

亜梨珠「もしかすると、その男は戦争での経験がトラウマになっていたのかもしれないわ。自分の死に場所を探していた、と考えれば、その男のポリシーもなんとなく、わかる気がするわね」

亜梨珠「その男にとっては、そのポリシーは命より重かったのかもしれないわ」

亜梨珠「……でも、どうなのかしらね? 私には命よりもポリシーを重視するなんてことは理解できないわ」

亜梨珠「そして、この話はあなたにも言えることよ」

亜梨珠「ふふ。いきなり話を振られて驚いたかしら?」

亜梨珠「困っている人を見つければ助けてあげる、それはとても素晴らしいことだと思うわ」

亜梨珠「でもね、自分の身を危険にさらしてまですることなのかは、一度、よく考えてみて欲しいの」

亜梨珠「あなたが傷つけば、あなたを大切に思っている人は心を痛めるわ」

亜梨珠「もちろん、私やお兄様もそうよ」

亜梨珠「ポリシーは大事だと思うわ。だけれど、どこまで大切にするかが重要よ」

亜梨珠「はい、これで、今回のお話は終わり」

亜梨珠「よかったら、また来てね。さよなら」

終わり。

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