【声劇台本】不法侵入

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■概要
人数：3人
時間：10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、ホラー

■キャスト
香川　純平（かがわ　じゅんぺい）
その他

■台本

ガチャリとドアが開き、純平が入って来る。

純平「……うん、いいね」

純平（Ｎ）「俺の名前は香川純平。昼は大学に行き、夜はコンビニに行っている。わけあって、前に住んでいた場所を出ることになり、急遽、この部屋を見つけたわけだ。なんでも、前の住人は夜逃げ同然のように出て行ってから、戻ってきていないらしく、大家さんも困り果てていたらしい。そこで住む場所がなかった俺は、ここに転がり込んだわけだ。なので、前の住居人の物がほとんど残っているが、気にしない、というか、使えるものはそのまま使わせて貰っている。まさに、前の住居人様様だ」

純平「さてと、そろそろ大学が開く時間だな。行くか……」

ドアを開けて、出ていく純平。

場面転換。

純平（Ｎ）「それから一週間くらいは何事もなく、平和に日々が過ぎ去っていった。だが、それはここに来て、８日目の夜のことだった」

ギシギシ、ミシミシという物音。

純平（Ｎ）「最初は家鳴りだと思った」

ギシギシ、ミシミシという物音。

純平（Ｎ）「だが、あまりにも不自然な物音。ふと、頭をよぎったのは、幽霊の存在。そういえば、前の住人は夜逃げ同然のように出て行ったと言っていた。もしかしたら、この部屋には幽霊が出るので、それで出て行ったのかもしれない。安くていい物件だと思っていたら、事故物件だった。なんてことはよるある話だ」

純平「……明日、調べてみるか」

純平（Ｎ）「幽霊を信じるか、と言われれば半々だと答える。今まで遭遇したことは無いが、おそらくはいるんだろうな、くらいの感覚。……もし、この音の正体が幽霊だったとしても、ここはあまり出ていきたくない。せっかく見つけた部屋だからだ。また探すとなると、骨が折れる。実害がないなら、なんとかやり過ごそう」

場面転換。

ガチャリとドアが開き、純平が入って来る。

ベッドのところまで歩いて、ベッドの上に座る。

純平「ふう……」

純平（Ｎ）「色々と調べたが、とりあえず、この部屋が事故物件だった、ということはなかった」

純平「ネズミとかか？　動物が住み着いている、くらいだと助かるんだけどな」

純平（Ｎ）「だが、そんな甘い考えはすぐに裏切られることになる」

場面転換。

純平（Ｎ）「それはその日の深夜のことだった」

女性「ふふふ……」

純平（Ｎ）「女の笑い声で、目が覚めた。目が覚めたのだが、体が動かない。……おそらく金縛りだろう」

純平「……」

女性「……」

純平（Ｎ）「いる。確実に。怖くて、目が開けられないが、近くに何かの気配と、ジッと見られているような感じがする。……なるほど。これは、前の住人が逃げ出すわけだ。かなり怖い……。考えてみれば、事故物件じゃなければ、幽霊は出ない、なんてわけはない。たとえ、この部屋で何かがなかったとしても、どこからかやってきた幽霊が住んでしまう、なんてこともあるのかおもしれない。これはとんだ、ババを引いてしまったな……」

場面転換。

スズメの鳴く声。

純平「……」

純平（Ｎ）「いつの間にか眠ってしまっていた。起きたときには寝汗をびっしょりかいていた。あの生々しい感じは夢ではなさそうだ」

純平「……仕方ない。大学の近くの寺にでも行ってみるか……」

場面転換。

純平（Ｎ）「次の日。大学の近くの寺に貼ってあったお札を一枚持ってきて、貼ってみたのだが、全く改善されなかった。というより、毎晩、気配を感じるようになった。これは出ていくか、お祓いするかのどちらかしかない、そう本気で考えていたときだった。事件はあらぬ方向へと進んでいく」

場面転換。

純平「……」

カパッと鍋の蓋を開ける。

純平（Ｎ）「コンビニから帰ってきたとき、部屋の中がみょうに美味しそうな匂いが漂っていた。そして、ガスコンロの上には見慣れない鍋が一つ。開けてみるとそこには、シチューが入っていた」

純平「……いや、旨そうだけどさ」

純平（Ｎ）「幽霊が料理をするのか？　そんな話は聞いたことがない。となれば、考えられることは一つ。誰かがいる。つまり、この部屋に不法侵入していると考えて間違いないだろう。だが、これは俺にとっては良かったのかもしれない。不法侵入者が料理を作る。それは自分の存在を俺に教えるに等しい行為だ。じゃあ、なんでそんなことをしたのか。きっと、それはお互い、干渉しないでやろうという意思表示ではないだろうか？　であれば、幽霊であるよりもずっと安全だということだ」

場面転換。

ガチャリとドアが開き、純平が入って来る。

歩いて、テーブルまで進む。

純平「ん？　メモ……？」

純平がメモを手に取る。

純平（Ｎ）「幽霊よりも安全。そんな甘い妄想は一気に打ち砕かれた。メモに書かれていた文字は……『好き好き好き好き！　一緒に死の！』だった。俺は、今もいるであろう、女に気づかれないように携帯から警察に電話をする。そして、ゆっくりと部屋から出ようとした時だった」

ドン！と天井から人が降りてくる音。

純平「……」

女性「うふふふふふ」

純平「うわあああああ！」

女性「好き好き好き好き好き」

純平「うわっ！　ちょっと、待って！　離してくれ！」

女性「うふふふふふ」

純平（Ｎ）「ストーカーだった。まさか、俺以外にストーカーが住み着いてただなんて」

パトカーの音。

そして、勢いよくドアが開かれる。

警察官「警察だ！」

場面転換。

ガチャリとドアが開き、警察官が入って来る。

警察官「香川、面会だ」

純平「はあ……またか」

場面転換。

純平「あの……毎日来られても困ります」

女性「趣味は？　デートに行くなら、どこがいいかな？」

純平「捕まってるんですから、デートなんていけませんよ。そうだ、被害届取り下げてくれない？　そしたら、すぐに出られるから」

女性「じゃあ、結婚して！」

純平「……」

純平（Ｎ）「この女性は前の住居人だ。父親が倒れたということで、着の身着のまま、田舎に帰っていたらしい。玄関のカギもかけ忘れて。そして、一週間後に部屋に帰ってみたら、俺が住み着いていた。最初は通報しようかと思っていたが、俺の顔を一目見て、惚れてしまったらしい。そこで、ずっと天井裏から俺のことを観察していたというわけだ。ああ、くそ！　とんでもない家に不法侵入しちまったぜ」

終わり。

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