■概要
人数:5人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、コメディ
■キャスト
凌士(りょうじ)
恭祐(きょうすけ)
佳織(かおり)
怪人
その他
■台本
凌士(N)「ヒーロー。小さい頃、男の子であれば一度は憧れる存在だと思う。もちろん、俺だって憧れた。大きくなったら変身して怪人をやっつける。なんて、じつに子供らしい夢をみたものだ。……ああ、そういえば、小さい頃、友達だった隆司くんは怪人の方が好きだったなぁ。当時は全く理解できなかったけど、今ならわかる」
学校のチャイム。
恭祐(きょうすけ)が歩み寄って来る。
恭祐「凌士。相変わらず、朝から昼寝か?」
凌士「恭祐。いつも言ってるだろ。俺の睡眠を妨害するなって」
恭祐「部活も入ってない。遊びに行くのも断る。時々、学校もサボる。学校が終わったらいの一番で帰ってるお前が、なんでいつもそんなに疲れてるんだよ」
凌士「うるせえ。色々あるんだよ。とにかく話しかけるな」
恭祐「ま、いいけどさ。それよりお前、数学の宿題やったのか?」
ガバッと起き上がる凌士。
凌士「やべえ! やってねえ」
恭祐「だろ?」
凌士「ノート、見せてくれ!」
恭祐「ん」
凌士「……なんだ、その手は?」
恭祐「500円」
凌士「高い」
恭祐「じゃあ、田岡に怒られるんだな。ありゃ、怪人よりこえーぞ。トラウマもんだ」
凌士「くっ!」
場面転換。
ノートの回答を書き写している凌士。
恭祐「いやー。凌士のおかげで俺の小遣いは1.5倍だ。もつべきものは友達だな」
凌士「人から何かと金を取っていく奴を友達と思いたくないな」
そこに佳織(かおり)が通りかかる。
佳織「あれ? 凌士君。また宿題忘れたの?」
凌士「ま、まあね……」
恭祐「そこで俺が救いの手を差し伸べてるってわけ」
佳織「どうせ、またお金要求したんでしょ? そういうの良くないと思うよ」
恭祐「ギブアンドテイクだよ」
佳織「凌士君も、ただ見せてもらうだけだと、あんまり宿題の意味ないよ?」
凌士「……うっ!」
佳織「今度からは私に言って。ちゃんと解説付きで教えながら答え合わせするから」
凌士「あ、ありがとう」
佳織「それじゃね」
恭祐「どこ行くんだ? もう授業始まるぞ」
佳織「……どうして、女の子に、そういうこと聞くかな?」
恭祐「ああ、便所か」
佳織「バカっ!」
佳織がドアを開けて行ってしまう。
凌士「佳織ちゃん、怒った顔も可愛いな」
恭祐「けっ! いい子ちゃんぶりやがって。ヒーローかよ」
凌士「……恭祐はもし、ヒーローになれるとしたらなりたいか?」
恭祐「世間の奴隷なんて冗談じゃないね。怪人を倒しても、一円も貰えないんだろ?」
凌士「いや、貰えるよ。少額だけど」
恭祐「命をかけてるのに割りに合わんだろ」
凌士「……まあ、な」
恭祐「それにヒーローって奴は正しくなけりゃならない。誰一人犠牲者を出してはいけない。全員救って当然だ。こんなん、狂気の沙汰だろ。それに何か失敗何かして見ろ。一般の人間から大バッシングだ」
凌士「……」
その時、壁が破壊される轟音が鳴り響く。
恭祐「な、なんだ?」
同時に学校の校内放送が流れる。
教師の声「校内に怪人が現れた! 怪人は3年C組付近に現れた。近づかないように遠回りして外に出るように」
恭祐「……おいおい。俺たち3年C組の生徒はどうするんだよ」
教師の声「3年C組の生徒は……頑張って生き延びろ。絶対に死なないように。以上」
恭祐「どうやって! そこ一番大事!」
凌士「俺、ちょっとトイレ行って来る」
恭祐「え? あ、ああ」
怪人「キシャ―!」
生徒たちの悲鳴。
恭祐「げっ! 教室に入ってきた!」
同時にガラガラと教室のドアを開けて廊下に出る凌士。
凌士「よし、廊下には誰もいないな。変、身」
光り輝き、変身する凌士。
再びドアを開けて教室に入る凌士。
怪人「ケシャシャシャシャー! ヒーローが来る前に、お前ら全員、石像にしてやる!」
凌士「とう!」
凌士が怪人に蹴りを入れる。
怪人「うおっ!」
怪人が吹っ飛ぶ。
凌士「みなさん。もう大丈夫。安心してください」
教室内に安堵の声が広がる。
怪人「クシャ―!」
凌士「な、なんだ! くそ! バリアー!」
ビームのような光を凌士のバリアーが弾く。
怪人「ちっ! 石化ビームを防いだか。だが、生徒たち全員にバリアーを張るので、精いっぱいみたいだな」
凌士「くっ!」
怪人「バリアーを解けば、生徒たちは石になるからな。そして、そんな状態では攻撃はおろか……」
怪人が凌士にパンチやキックをしてくる。
凌士「ぐあっ!」
怪人「まともに防御することさえできまい」
凌士「く、くそ」
怪人「俺を倒したければ、力を攻撃に振ればいい。だが、生徒たちは石になるぞ」
恭祐「おい、ヒーローは庶民を守る義務がある! 死んでもこのバリアーを解くなよ」
凌士「やる気を削ぐ発言、ありがとう」
怪人「カカカカ。そうそう。ヒーローは正義の味方。自分の身よりも他人の命の方が大事だもんな! オラオラオラ!」
凌士「ぐあああ!」
攻撃され、倒される凌士。
そのとき、ドアが開き、佳織が入ってくる。
佳織「え? あれ? なに? この状況」
凌士「……佳織ちゃん」
恭祐「おい、お前、校内放送聞いてなかったのかよ!」
佳織「トイレのスピーカー壊れてるから」
怪人「ケシャー! ヒーロー、どうするよ! さらにピンチだぜ? この女の分は張れないんじゃないか? どうする? この女は見捨てるか? できないよな?」
恭祐「おい、佳織! お前は遅れてきたんだから、大人しく石になれ」
佳織「な、なによそれ! ひどい」
怪人「キシャ―! どうする? 俺は優しいから、誰を犠牲にするか選ばせてやる」
恭祐「佳織。お前が犠牲になれ」
佳織「う、うう……」
怪人「あはははは! ヒーローが誰かを犠牲にする、か。これは世間でなんて言われるかな?」
凌士「……」
凌士がトコトコと歩き出す。
恭祐「え? なに?」
ドンと恭祐を押し出す凌士。
恭祐「ふざけんなー! なんで、俺だよ! ヒーローは全員助けるのが義務だろ!」
凌士「すまん」
恭祐「すまんで済んだら、ヒーローいらねーんだよ! くそっ! 死ね、腐れヒーロー! 死んだら絶対に訴えてやるからな!」
恭祐が走ってドアを開けて逃げ出していく。
怪人「キシャ―! アハハハハハ! 男より女を助ける方がいいって判断か? 命は平等だろ? まあいい、今、逃げた奴を遠慮なく石にしてやる。待ってろ!」
怪人がドアを開けて走り出す。
場面転換。
怪人が廊下を走る。
怪人「キシャ―!」
凌士「おい!」
怪人「え?」
凌士「ふん!」
怪人「ぐおっ!」
凌士が怪人を殴り飛ばす。
怪人「お、おい! 俺を攻撃していいのか? 他の生徒も見捨てるのか……あっ!」
凌士「ここからさっきの教室内にいる生徒たちに上手くビームを当てることできるのか? 真っ直ぐしか飛ばないビームなのに」
怪人「く、くそーーー!」
凌士「消えろ」
怪人「ぐああああ!」
凌士「ふう……」
場面転換。
学校のチャイム。
凌士「いやあ、昨日は大変だったな」
恭祐「お前はいいタイミングでトイレ行ってたじゃねーか。それにしても、あのヒーロー、ぜってー許さねえ。次会ったらぶっ殺してやる」
凌士「……」
凌士(N)「はあ……。ヒーロー辞めたい」
終わり。