■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
遼一(りょういち)
耕太(こうた)
洋介(ようすけ)
その他
■台本
遼一「はあ……はあ……はあ……。うっ!」
フラフラと歩いていた遼一がどさりと倒れ込む。
遼一「くそっ! もう動けねえ……。それにしても、俺は昔から変わらねえな。強くなりたくて、もがいてもがいて、ここまで来たけど……結局、変わることはできなかった。俺は一体、どこで間違ったんだ?」
場面転換。
遼一が小学生の頃。
遼一「おらあ!」
男の子1「うわあ!」
遼一が男の子1を殴り倒す。
男の子1「くそ、覚えてろよ」
男の子1が走り去っていく。
遼一「はは。ざっこ! これで、この公園は俺のものだ!」
洋介「うわー、遼一くんは強いなー」
遼一「だろ? 俺、北一中に入ったら、番張るつもりなんだ」
洋介「え? あの不良で有名な北一中学校をシメるの? 凄いな!」
遼一「余裕だよ、余裕」
不良「へー。そりゃすげーな」
遼一「え?」
男の子1「お兄ちゃん、こいつだよ。さっき、俺を殴ったの」
不良「俺さ、北一なんだよ。まあ、番は張ってねえけどな。もちろん、俺くらいは余裕で勝てるってことか?」
遼一「あ、当たり前だ! すぐに土下座させてやるよ」
不良「へー。言うじゃねーか」
洋介「ぼ、僕は関係ありませんから!」
洋介が逃げ出す。
遼一「あっ!」
不良「あーあ。仲間が逃げちまったぜ。どうする? 止めるか?」
遼一「あんなやつ、仲間じゃねえよ。いくぞ、おらあ!」
場面転換。
遼一「う、うう……」
不良「ほらほら、どうしたよ? こっちはまだまだ本気出してない、ぞ!」
遼一「あがっ!」
遼一が不良に殴られて倒れ込む。
遼一「う、うう……」
不良「おいおい。泣くなよ。俺を土下座させるんじゃなかったのか?」
遼一「い、いや、それは……」
不良「おう! 今なら、土下座したら許してやるぞ? 俺と、弟に謝れ」
遼一「い、嫌だ! 俺は謝らないぞ」
不良「へー。根性だけはあるみたいだな。おらっ!」
遼一「あがっ!」
不良「おら、おら!」
遼一「痛いっ! うう、うわーん」
殴られ続けて、ついに泣き出す遼一。
不良「あーあ。泣いちゃったよ。ダッセ」
遼一「も、もうやめて……」
不良「止めるわけねーだろ!」
耕太「あー、ちょっとちょっと、やり過ぎだよ! 相手、泣いてるじゃない。もうやめようよ、ね?」
不良「なんだ、おっさんには関係ないだろ? 引っ込んでろ」
耕太「まあまあ、そんなこと言わないで。これで、勘弁してあげて、ね?」
お札を渡す耕太。
不良「一万……。ま、まあ、今日はこれで許してやるかな。それじゃ、行くぞ」
男の子1「うん」
二人が去っていく。
遼一「う、うう……」
耕太「大丈夫かい?」
遼一「うっせー!」
遼一も走り出す。
場面転換。
道を歩く遼一。
遼一「……」
耕太「やあ、また会ったね」
遼一「あ、昨日のおっさん……」
耕太「おっさんって……。まだ30なんだけど……」
遼一「十分、おっさんじゃん」
耕太「うっ!」
場面転換。
耕太「はい。このジュースでいいかな?」
遼一「ありがと」
遼一が缶を開けて、ジュースを飲む。
耕太「そういえば、昨日はなんで、あんなに殴られてたんだ?」
遼一「あの公園がどっちのものかって、喧嘩して買ったんだけど、あいつ、中学生の兄貴を呼んできやがったんだよ。卑怯だよな」
耕太「いや、公園は自治体のものだから」
遼一「くそ。俺がもう少し強かったらな。あいつもぶっ飛ばしたのに」
耕太「ねえ、どうして、相手が謝れって言ったときに、謝らなかったんだ? あそこで謝ってればすぐに許してもらえたんじゃないのか?」
遼一「ヤダよ、謝るなんて。弱いって証拠だろ? だから、俺は絶対に謝らない」
耕太「格好悪い、ね。まあ、確かに何でもかんでも謝るのは悪いと思うけど、謝るべき時に謝れるのも強さだと思うけどな」
遼一「は? 何言ってんだよ。んなわけねーじゃん」
耕太「いいかい? 腕っぷしが強いなんて、本当に強いとはいえないんだ。真っ当に生きて、当たり前のことを当たり前にやる。それだけで十分強いと思うよ」
遼一「それはあんたが弱いから、そう思うんだよ。俺は強くなって、絶対に謝ったりはしないんだ!」
遼一が走って行く。
場面転換。
遼一と洋介が歩いている。
ビュンビュンと木刀を振り回している遼一。
洋介「遼一君、その木刀、どうしたの?」
遼一「昨日、拾ったんだよ! これさえあれば、あいつにだって勝てるぜ!」
ビュンビュンと木刀を振っているが、ガン! と車に当たってしまう。
洋介「あっ! 車に当たっちゃった」
遼一「やべっ!」
ガチャリとドアが開き、男が出てくる。
男「おう、てめえ、人の車に何してくれてんだよ?」
洋介「ぼ、僕は関係ありません!」
洋介が逃げていく。
男「まずは謝ろうか、坊主。その後、親呼んで、どうするか考えよーや」
遼一「……」
男「おら! 謝らんかい!」
遼一「……」
男「おお、いい度胸だな! ガキだからって、容赦はしねえぞ!」
そこに耕太がやってくる。
耕太「いやいやいや! 申し訳ありません。この子、親戚の子でして」
遼一「え?」
男「おう、なんじゃい? お前がガキの尻拭いするっちゅーんかい!」
耕太「はい! 申し訳ありません!」
ガバッと座り込む音。
男「おう、ガキ! 見とけや。これが謝罪の方法だ!」
遼一「……」
耕太「どうかお許しを……」
男「けどなぁ、車傷つけられたことは、謝っても許せねーな」
耕太「はい、そのことはこちらでお話を……。さ、遼一君は帰って」
遼一「え?」
男「ガキ、命拾いしたな! おう、お前、じゃあ、話付けるから、ちょっと来い!」
耕太「は、はい……」
場面転換。
遼一(N)「あの後、そのおっさんの姿を見ることはなかった。……あの当時、俺の目からは土下座するおっさんの姿はとても弱弱しく情けなく映った。あんなおっさんにならないようにと、俺はさらに強さを求め、中学以降は不良のグループに入り、高校卒業後は、チンピラとなっていた」
場面転換。
チンピラ「おう、遼一。お前、うちのシマ、荒らしたみたいだな?」
遼一「……」
チンピラ「知らんかったじゃすまされんぞ! 土下座せい!」
遼一「……」
ドカとチンピラを殴る遼一。
チンピラ「うがっ! てめえ……。謝らんちゅーのか?」
遼一「この世界で、謝ったら終わりだろ」
チンピラ「いい度胸だ、コラ!」
ドスとナイフが遼一の腹に刺さる。
遼一「うがっ! お前……」
チンピラ「はっ! 刺されないとでも思ったか? どうせだ! 止め刺してやるよ!」
遼一「く、くそっ!」
走って逃げる遼一。
チンピラ「待てやコラ!」
場面転換。
遼一「はあ……はあ……はあ……。うっ!」
フラフラと歩いていた遼一がどさりと倒れ込む。
遼一「はあ、はあ、はあ……。おっさんの言う通りだ……。強いっていうのは、腕っぷしや謝らない意地なんかじゃない……。おっさん、ごめん。あの時は俺の代わりに謝ってくれて……ありが……とう……」
終わり。