【声劇台本】素の自分

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■概要
人数:4人(2人でも可)
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
千秋(ちあき)
翼(つばさ)
ちあき※兼ね役可
つばさ ※兼ね役可

■台本

千秋(N)「僕は人付き合いが苦手だ。中学、高校では友達を作らなかった。それは大学に入っても同じだ。だけど、そんな僕にもたった一人だけ友達ができた。ただ、その唯一の友達とはまだ、一度も会ったことがない」

場面転換。

パソコンを起動する音と、マウスをクリックする音。

千秋「よし、ログイン、と」

ゲームのBGMが流れる。

千秋「ヤバいな。もう来てるかな?」

ピロリンというメッセージが着信する音。

千秋「やっぱり、もう翼くん、来てたか。さっそく、チャットを……っと、危ない危ない! えーと、マイクマイク……」

ボイスチェンジャーで千秋の声が女の子の声に代わる。

※以降、女の子声の箇所は、「ちあき」と明記。

ちあき「よし! これで準備、OK」

カチカチとクリック音。

翼「ちあき、おせーぞ」

ちあき「ごめんごめん。講義が長引いちゃって」

翼「ま、いいや。じゃあ、まずはゴールドステージから肩慣らししてくか」

ちあき「うん」

千秋(N)「僕の友達言うのはオンラインゲームでやり取りしている、翼くんのことだ。……そして、僕は友達である翼くんに女だと騙したままやり取りをしている」

ゲーム内のSE。

翼「おい、ちあき、後ろだ!」

ちあき「わかってる!」

銃を撃つ音。

千秋(N)「女の子の方が、チームに入れてもらいやすい、優しくしてくれるということを聞いて、軽い気持ちで性別を女として登録した。手元に、遊び半分で買ったボイスチェンジャーがあったというのも、要員の一つだ」

ゲーム内のSE。

翼「よーし! もう少しで勝てるぞ。木を抜くなよ」

ちあき「うん、わかってる!」

千秋(N)「最初は女の子ということで確かにみんな優しくしてくれた。でも、今まで友達がいなかった僕は、オンライン上でも他の人とどう接していいかわからなかったから、ドンドンとフレンドがいなくなっていった。でも、そんな中で唯一残ってくれたのが、翼くんだ。翼くんと一緒にゲームするのは楽しい。友達と一緒にゲームをすることがこんなに楽しいことだって、初めて知ることができた。翼くんには感謝してもしきれない。……でも、そんな翼くんに、僕は嘘をついているんだ……」

翼「いえーい! 勝利!」

ちあき「やったねー」

翼「お前と一緒なら、負ける気しねーな」

ちあき「あはは。ホントだね」

翼「なあ、ちあき。お前さ……今度の連休って暇か?」

ちあき「うん。予定は何もないから、ずっとゲームできるよ」

翼「……あのさ、今度の連休、ちょっと会ってみないか?」

ちあき「……え?」

千秋(N)「以前、大学の話をした際に、お互い、結構、近くに住んでいるというのはわかった。でも、今まで一度でも会おうと言ってきたことはなかったから、完全に油断していた」

ちあき「えっと、会うって、リアルで?」

翼「そう」

ちあき「……」

千秋(N)「直接会えば、もちろん、僕が男だということはバレる。きっと、翼くんも、僕が女の子だと思っているから、直接会いたいと言ってきているんだと思う。それなのに僕が男って知ったら……」

ちあき「えっと、直接は……」

翼「不安なのはわかるよ。だけど、ちあきに直接会って言いたいことがあるんだ」

ちあき「……」

千秋(N)「元々嘘を付いていたのは僕の方だ。それがバレて嫌われるのが怖いなんていうのは僕の身勝手でしかない。このまま嘘を付き続ける方が翼くんに対して、悪い。僕の唯一の友達を、騙し続けるのはもう止めよう……」

ちあき「うん。わかった。それじゃ、駅の時計の下で、待ち合わせでいい?」

翼「ああ。それでいいよ」

ちあき「……楽しみにしてるね」

翼「あのさ……俺たち、友達だよな? 例え、どんなことがあっても」

ちあき「……」

千秋(N)「きっと、顔に期待を持たれないための予防策なんだろう。顔の分からない相手の場合、お互い、妄想が膨らみ、勝手に好みの顔を想像してしまうものだから。もちろん、僕は翼くんがどんな顔だったとしても気にしない。……でも、翼くんのほうは……きっと、僕を許してくれないだろう」

ちあき「もちろんだよ」

翼「よかった。ありがとう。じゃあ、今度の連休に」

ちあき「うん」

プツっと通話が切れる。

千秋「……こんな日がいつかは来ると思ってたけど……。やっぱり、辛いな……」

場面転換。

駅前。賑やかで、人が行き交っている。

千秋「あれ? 遅いな。翼くんが遅刻なんて……」

スマホの着信音が鳴る。

千秋「翼くんから、メールだ。……え? 着いてる? どこ?」

千秋が辺りを見渡す。

千秋「あ、もしかして……」

千秋がスマホを操作して、メールを送る。

千秋「……やっぱり。南口の方で待ってたのか。すぐに行かなくっちゃ」

千秋が歩き出す。

場面転換。

千秋「えっと……翼くんらしき人は……いないなぁ」

スマホの着信音が鳴る。

千秋「あはは……。すれ違っちゃったか。……あれ? でも、それらしい男の人っていなかったけどなぁ? まあいいや。今度はすれ違わないように……私が行くから、そこで待ってて、と。よし、行こう」

千秋が歩き出す。

場面転換。

千秋「あれ? いないな……。もしかして、また、すれ違ったとか?」

千秋がメールを打って、送信する。

すぐ隣で着信音が鳴る。

千秋「あれ?」

つばさ「え?」

千秋「……えっと、その……翼……くん?」

つばさ「えっと……ちあき?」

千秋「ええ! 翼くん、女の子だったの!」

つばさ「ちあきこそ、男の子だったの!」

千秋「……ぷっ!」

つばさ「……はは」

千秋「あはははは」

つばさ「あははははは」

千秋(N)「この後、翼くん……いや、翼さんと色々とお話をした。どうやら、僕と正反対で、声もボイスチェンジャーで変えて、

女だと言い寄られるのが嫌だったから男として登録してあったらしい。翼さんも、友達がいなくて、ネット上の唯一の友達が僕だったらしい。そして、これ以上、友達に嘘を付き続けるのが嫌だったから、今回、思い切って会おうと思ったらしい」

場面転換。

パソコンを起動する音と、マウスをクリックする音。

千秋「よし、ログイン、と」

ゲームのBGMが流れる。

千秋「……あ、いるいる」

クリックする音。

千秋「お待たせ―」

つばさ「もう、遅いよー」

千秋(N)「僕と翼さんの交流は今も続いている」

終わり。

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