■概要
人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
清史郎(せいしろう)
豊ヶ岡 恵子(とみがおか けいこ)
剛史(つよし)
■台本
清史郎が道を歩いている。
清史郎「んー。いい天気だなー。今日はなにごともなく、無事な一日を過ごせそうな気がする」
遠くから走って来る足音。
恵子「清史郎―!」
清史郎「げっ! け、恵子さん……」
恵子「今日も、愛してるぜ、清史郎!」
清史郎「ちょ、ちょっと待って……」
ガシッと恵子が清史郎に抱き着く。
恵子「今日も愛のハグをさせろ! ハグ!」
清史郎「いや、ダメ……」
バキボキバキと骨が砕ける音が響く。
清史郎「ぎゃーーー!」
清史郎(N)「僕の人生はトラブル続き。どんなに気を使っても、危険はあちらからやってくる。そして、今、僕は最大の危機を迎えている。このままでは死んでしまう。……それにしても、なんで、こうなったんだろうか? あのとき、僕が勇気を出して逃げ出していたら、こうはならなかったはず。……そう。あれはつい、昨日の出来事だ」
場面転換。
剛史「よお、清史郎」
清史郎「あ、つ、剛史君」
剛史「こんなところで会うなんてなぁ。すごい偶然だよな」
清史郎「そ、そうかな……。ここ、通学路だし……。会う確率は結構高い……」
剛史「おい! 俺と会ったことが嫌なのか?」
清史郎「そ、そんなことないよ。うん。う、嬉しいくらいさ」
剛史「そうかそうか。嬉しいか。なら、千円よこせ」
清史郎「えっと、言ってる意味がわからないんだけど」
剛史「ん? 難しかったか? つまり、お前の財布の中から千円札を出して、俺の手の上に置けってこと」
清史郎「そうじゃなくて、なんで僕が千円を出さなくっちゃならないの?」
剛史「俺に会えて嬉しいんだろ? だから、そのギャラだ」
清史郎「そういうのはギャラじゃなくてカツアゲって言うんだよ……」
剛史「つべこべ言わずに、よこせってんだよ! こっちは搾取する側がされる側になって、金がねーんだ!」
清史郎「ひ、ひいっ! もうお昼ご飯代しかないです……」
剛史「ああ? じゃあ、有り金全部……って言いたいところだが、選ばせてやる。殴られるのと有り金出すの、どっちがいい?」
清史郎「殴られる方で!」
剛史「……即決か。珍しいな。まあいい。じゃあ、このむしゃくしゃした気分を晴らさせてもらうぜ。おらあ!」
ドンと清史郎が剛史に殴られる。
清史郎「うわああ!」
ドサリと倒れる。
剛史「おらあ! まだまだ! 一発で終わるなんて、誰も言ってねえぞ!」
清史郎「ひいい!」
何度も殴られる音。
清史郎(N)「僕には変な特技がある。特技って言っていいのかわからないけど、僕は物凄く痛みに強い。小さい頃から危険な目にばかり遭ってきたせいか、殴られるくらいの痛さならあまり気にならない。そして、傷の治りも異常に早いのだ。中学の頃、3階から落ちた怪我を数時間で治った僕を見てついたあだ名がフェニックス。……まあ、今、聞くと物凄く恥ずかしいから、高校では黙っているけど」
剛史「おらおらおらおら!」
清史郎「ひいい! 止めて! 止めてよ!」
殴り続ける音。
清史郎(N)「怖がったり、痛がったり見せるのは、その方が相手が早く気が済むからなんだけど……どうやら剛史君は、逆にノッてくるタイプらしい。ここは気絶したフリをした方がいいかな……?」
恵子「いい加減にしたらどうだ?」
剛史が殴るのを止める。
剛史「ああ? なんだ、てめえ? 引っ込んでろ! 関係ないだろ」
恵子「あーあ。なんで、弱い奴って、弱いものイジメが好きなんだろうな。弱いだけでもダセェのに、調子づくから、クソダセェ」
剛史「……誰が弱いって?」
恵子「お前に話してんだよ、耳クソ詰まって、聞こえてねえのか?」
剛史「俺は女だからって容赦はしねえぞ」
恵子「ん? 負けた時の言い訳として、女は殴れないとか言っておかなくていいのか?」
剛史「その高い鼻、へし折ってやるよ! おらあ!」
恵子「ふん!」
剛史「うげっ! ぐはっ!」
恵子の拳が剛史の顔面を捕え、剛史が吹っ飛ぶ。
恵子「高くなった鼻がへし折れたのはそっちだったな」
剛史「くっ……。お前ただもんじゃねえな?」
恵子「西原高の豊ヶ岡恵子だ」
剛史「西の ……って、あ! まさか、怪力の女帝?」
恵子「その呼び名、好きじゃねーんだよな」
剛史「リンゴを握りつぶし、殴ってコンクリートを破壊し、車をひっくり返して、マンションを押し倒したっていう……」
恵子「車のところまでだな。本当なのは」
剛史「くっ!」
恵子「どうする? まだやる?」
剛史「く、くそ! 覚えてろ!」
剛史が走り去っていく。
恵子「捨て台詞までクソダセェ」
清史郎「あ、ありがとうございます。助けてくれて」
恵子「大丈夫か? 随分やられてたみたいだけど」
清史郎「いや、こんなの全然大したことないですよ」
恵子「大したことない?」
清史郎「あー、いや、まあ、ちょっと痛いですけど」
恵子「ちょっと?」
清史郎「あ、いや、その、やっぱり、めちゃめちゃ痛いです」
恵子「悪い。先に謝っておく」
清史郎「何がですか……ぶべっ!」
清史郎が恵子に平手打ちを食らう。
清史郎「きゅ、急になにするですか!?」
恵子「凄い! 私の張り手くらって、気絶しなかったのはお前が初めてだよ!」
清史郎「へ? そうなんですか? まあ、僕は昔から打たれ強いっていうか、回復力も凄いって言うか……」
恵子「頼む! もう一回だけ試させてくれ! この通りだ!」
清史郎(N)「うーん。なんだろう? すごく面倒くさいことになりそうだけど……。助けてくれたことだし、まあ、いいか」
清史郎「いいですよ。どうぞ」
恵子「いくぞ! 全力だ! おらあ!」
清史郎「ぶっ!」
思い切り殴られ、吹っ飛ぶ清史郎。
清史郎「いてて。さすがに結構、痛いな」
恵子「……」
清史郎「気が済みましたか? では、僕はもう行きますね」
恵子「……だ」
清史郎「え?」
恵子「好きだ! 付き合ってくれ!」
清史郎「……は?」
場面転換。
清史郎(N)「といういきさつがあって、あの後、強引に付き合うことになったんだよなぁ。やっぱり、あのとき頼みを聞かずに逃げればよかった……」
清史郎「あの、恵子さん」
恵子「恵子でいいよ。付き合ってるんだし」
清史郎「どうして、僕と付き合おうって思ったんですか?」
恵子「ん? そりゃ、清史郎のことが好きだからだよ」
清史郎「……昨日会ったばかりですよ? どんなところが好きになったんですか?」
恵子「私って、小さい頃から凄く力が強くてさ。普通に遊んでても、すぐに相手を大怪我させちまう。高校になってからは、さらに強くなっちまってな。人に触れるのさえ、気を使わないと怪我させちまうんだ」
清史郎「……」
恵子「けど、清史郎なら気にしなくてもいいんだ! 手を繋いでも、全力で抱きしめても平気なんだ! これはもう、お前が運命の人ってことでいいだろ!」
清史郎「あー……なるほど」
清史郎(N)「僕の体が目的なのか……」
終わり。