■概要
人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、中世ファンタジー、シリアス
■キャスト
アレフ
ヴィンス
兵士
■台本
兵士「国王様。今年は気候が寒冷だったため、農作物が不作とのことです。つきましては、民衆から……」
アレフ「税率を5パーセント下げるように御触れを出せ。あとは、国庫に残っている食料を、農民に関してのみ貧窮している者に分けるとも、出しておけ」
ヴィンス「よろしいのですか、国王? そのような大判振る舞い。国の蓄えもそこまで多いわけではありませんが」
アレフ「心配するな、ヴィンス。これは先行投資のようなものだ。後々、しっかり、取り立てて貰うさ」
ヴィンス「王には無用な忠告でしたな」
アレフ「いや、忠告はありがたい。これからも忌憚のない意見を頼む」
ヴィンス「は……」
場面転換。
兵士「国王様。国庫の食料が尽きかけております」
アレフ「うむ。思ったより、もったな」
ヴィンス「国民も、国が厳しいことは知っています。国に助けを求める者が少なかったのでしょう」
アレフ「ふむふむ。国を思う心か。大切だよなぁ」
ヴィンス「はい」
アレフ「では、次の一手といこうか。隣国のクレタ国に援助を要請しろ。国民が飢えている、食べ物を分けろ、とな」
ヴィンス「安く売ってもらうのですか?」
アレフ「バカ言え。タダで寄越せと言うんだ」
ヴィンス「それは、断られると思いますが」
アレフ「だろうな。重要なのは、助けを求めて、断られたという事実だ」
ヴィンス「……」
アレフ「なあ、ヴィンス。何も、飢饉なのはわが国だけではない。隣国でも一緒さ」
ヴィンス「はい」
アレフ「我が国が隣国と比べて勝っているところはなんだ?」
ヴィンス「色々とあると思いますが、突出している点としては、人口……でしょうか」
アレフ「そうだ。だから、一番最初に、この飢饉で悲鳴をあげることになった」
ヴィンス「国の利点がデメリットになった、というわけですね」
アレフ「いや、それは違う。メリットさ。最大のな」
ヴィンス「……」
アレフ「まあ、見ていろ。すぐに国を潤わせて見せるさ」
場面転換。
兵士「国王様! 隣国との国境線で紛争が起きました!」
アレフ「死者は出たか?」
兵士「え? あ、はい。多数」
アレフ「ふーむ。我が国民が犠牲になったか。これは問題にせざるを得ないな」
ヴィンス「原因はこちら側にあるかもしれませんが?」
アレフ「まあ、十中八九、こっち側から手を出しただろうな。だが、そんなことはどうでもいい。……いや、どうとでもなる」
ヴィンス「……戦争をするつもりですか?」
アレフ「戦争に一番必要なものはなんだ?」
ヴィンス「作戦……兵器……いえ、兵士……ですね」
アレフ「我が国が隣国より勝っているものはなんだ?」
ヴィンス「……っ!」
アレフ「さあ、始めようか」
場面転換。
兵士「国王様。あとは、王都を落とすだけとなりました。ただ、その牙城は固く、突破するにはかなりの数の兵が必要かと」
アレフ「ああ。そうでなければ困るな」
ヴィンス「どうします? 全ての騎士団を結集しますか?」
アレフ「なあ、ヴィンス。兵士は育てるのに時間がかかる。それに貴族の出が多い。犠牲者を出せば、色々とうるさい」
ヴィンス「では、どうされるおつもりですか?」
アレフ「この戦争は我が国の勝ちだ。勝った後のことを考えねばな。ときにヴィンスよ。労働力は安いにこしたことはない。そうだな?」
ヴィンス「はい。その労働力を隣国の民を奴隷とすることで確保する、ということですね」
アレフ「そうだ。では、次に、我が国の人間が多ければ、一人当たりの分配金はどうなる?」
ヴィンス「もちろん、少なくなります。……あっ」
アレフ「気づいたか」
ヴィンス「この戦争では一般の民から多くの徴兵をした……」
アレフ「その犠牲者の数は実に人口の3割」
ヴィンス「そして、騎士団の犠牲者は二桁止まり……」
アレフ「さて、最後の王都決戦で前線に送り込むのは?」
ヴィンス「一般兵……」
アレフ「さあ、最後の口減らしのチャンスだ。派手に行くぞ」
場面転換。
兵士「国王様。隣国のクレタ国の占領が完了しました」
アレフ「犠牲者の数は?」
兵士「出撃した一般兵はほぼ全滅です」
アレフ「素晴らしい! 最高の戦果だ」
ヴィンス「しかし、そこまでして、国民を減らす必要はあったんでしょうか? 逆に経済がガタガタになるのでは?」
アレフ「今回、一般兵のほとんどは農民だ。まあ、農民に対して、手厚い政策をしてきたからな。国が危機というのを大げさにアピールすれば、立ち上がろうとする者も多い」
ヴィンス「ただ、そうなると農作物の人手が足りなくなるのでは?」
アレフ「そのための隣国の民だ。奴隷同然で、作物を作らせる。ここの国土と、クレタの国土をな」
ヴィンス「いえ、ですので、人数が足りないのでは……?」
アレフ「人手が足りない分は、一人当たりの時間でカバーするしかないなぁ」
ヴィンス「……奴隷同然」
アレフ「そこまで搾り取れば、反乱を起こす気もおきまい。それにこちらの兵力はほぼ温存してある。奴隷たちが一斉蜂起したところで、鎮圧はできるさ」
ヴィンス「まさか、ここまで読んでいらっしゃったとは。あなたは後世まで語り継がれる王となるでしょう」
アレフ「ははは。おだてるなよ」
場面転換。
兵士が走って来きて、勢いよくドアを開ける。
兵士「国王様! 反乱です! 一斉蜂起です!」
アレフ「随分と早いな。まだ2年も経ってないぞ。まあ、いい。騎士団を出せ。なるべく殺すことは控えるように言え。奴隷たちにはまだ働いてもらわないとならん」
兵士「そ、それが……その……第一から第三騎士団が全滅しました」
アレフ「バカな! なぜだ? 奴隷たちは武器だって持ってないはず。騎士団が負けるはずがない」
兵士「それが……人数がこちらの10倍で、しかもしっかり武装しています」
アレフ「あり得ない! 奴隷たちが結集しても、その人数にはならないはずだ! ……まさか、他の国の奴らも……」
兵士「いえ。我が国の者だけです」
アレフ「バカな。奴隷たちに味方するやつなんて、我が国にはいないはずだ」
兵士「それがいたんです」
アレフ「なに?」
兵士「……前の戦争で、死んだと思っていた一般兵です」
アレフ「なんだと!?」
兵士「気づかれたのです。国王の企みが。なので、途中で一般兵たちは戦争で死んだと見せかけて、決起のために潜んでいたのです」
アレフ「嘘だ! 気付かれるわけがない!」
兵士「……計画が洩れたのです」
アレフ「どこからだ?」
兵士「私です」
ドスッと剣がアレフに突き刺さる。
アレフ「がはっ! 貴様……」
兵士「私は平民出の兵士です。あなたに憧れて兵士になりました」
アレフ「く、おのれ……」
兵士「安心してください。あなたのことは後世まで語り継がれるでしょう。暴君として」
ザシュっと剣で斬る音。
終わり。