■概要
人数:2人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
ひかり
信也(しんや)
■台本
ひかりと信也が小学生の頃。
ひかり「……」
遠くから走ってくる音。
信也「ごめん、ひかり。遅れた」
ひかり「もう! 信也、遅い!」
信也「悪い、悪い。じゃあ、遊びに行こうぜ」
ひかり「でもさー。どうしていつも、駅で待ち合わせなの? もっと家に近いところにすれば?」
信也「わかりやすいだろ。ここ、無人駅で、人が誰もいないしさ。なんかあったら、ここで待ち合わせな。忘れるなよ」
ひかり「うん。わかった」
場面転換。
ひかりと信也が高校生になっている。
ひかり「……はあ。またか」
遠くから走ってくる音。
信也「悪ぃ、ひかり。遅れた」
ひかり「信也の遅刻癖にはなれたけど、まさか、最後の最後まできっちり近くするなんてね。ビックリよ。乗り遅れたどうすんの?」
信也「はははは。まあ、ここは俺と同じで、遅く来るから平気だって。今回だってセーフだったろ?」
ひかり「そりゃそうだけどさ……。でも、遅刻が許されるのは学生までよ」
信也「わかってるって。遅刻癖は治すさ」
ひかり「その台詞、もう何十回も聞いたんだけど」
信也「ははは。何とかなるって」
ひかり「まったく。……遅刻も心配だけど、言葉は大丈夫なの?」
信也「ああ。そっちは大丈夫そうだ。意外となんとかなりそうだ」
ひかり「そっちはって……。遅刻治す気ないでしょ」
信也「平気平気。アメリカは実力勝負のとこだから」
ひかり「……アメリカ、か。遠いね」
信也「しゃーねーよ。それより、お前はどうなんだ? 東京に行って、役者になるって夢は」
ひかり「役者じゃなくて、声優よ、声優」
信也「あー、そうだったな」
ひかり「わかってないでしょ……」
信也「なれそうか?」
ひかり「わかんないよ。やってみないと」
信也「まあ、そりゃそうか」
ひかり「やれるだけやってみる」
信也「お前なら、きっとなれるさ」
ひかり「……信也こそ、なれそう? デザイナー」
信也「なるために、アメリカに勉強に行くんだ」
ひかり「……そうだよね」
信也「悪いな。本当は東京のお店で修行するはずたったのに」
ひかり「なんで、あんたが謝るのよ。いいことじゃない。アメリカの凄いところから、声がかかったんでしょ」
信也「まあ……な」
ひかり「なんかあったら、連絡してよ。すぐに飛んで行ってあげるから」
ジリリリリと電車が来るベルの音が響く。
信也「なあ、ひかり」
ひかり「ん? なに?」
信也「お互いさ、夢が叶うまで連絡取るのは止めないか?」
ひかり「え? なんで?」
信也「俺さ、ずっと、お前に頼ってきた。きっと、あっちに行っても、お前のことを頼っちまうかもしれない」
ひかり「いいじゃない、別に」
信也「お前の夢はそんなに簡単に叶う者なのか?」
ひかり「……っ!」
信也「お互い、自分の夢に集中しよう。俺はお前なら、なれるって信じてる。だから、お前も俺を信じてくれ」
遠くから電車がゆっくりと近づいてくる音。
ひかり「……それって……もう、会えないってこと?」
信也「なんだよ。自信ないのか?」
ひかり「そ、そんなことないけど」
信也「5年だ。5年でお互い、夢を叶えよう。どうだ?」
ひかり「5年……。う、うん。わかった」
電車が止まり、プシューとドアが開く。
信也「じゃあ、5年後に会おう。お互い、夢を叶えて」
ひかり「うん。約束」
信也「約束だ」
プシューとドアが閉まり、電車が走り出す。
場面転換。
携帯の呼び出し音が響く。
ひかりがすぐに携帯を取り、通話ボタンを押す。
ひかり「はい、ひかりです! はい、はい……。はい……。わ、わかりました」
ピッと通話を切るひかり。
ひかり「……いやったー! よかったー。約束ギリギリだったけど、なんとか決まったー! ふっふっふ。信也、私はやったわよ!」
場面転換。
タクシーが止まり、ドアが開く。
ひかり「ありがとうございました」
タクシーから降りるひかり。
ひかり「それにしても、まさか、廃線になってたなんてね……」
コツコツと歩くひかり。
ひかり「まあ、ほとんど乗る人がいなかったから、仕方ないか……」
立ち止まって、椅子に座るひかり。
ひかり「ふふ。この椅子も懐かしいな。……信也、来るかな……?」
場面転換。
ひかり「……もう、10時か。あいつ、来ないのかな。……デザイナーになれなかったとか? ……信也のことだから、それはないと思うんだけど。……そもそも、今日だって覚えてるかも怪しいわよね」
場面転換。
ひかり「11時か……。もしかして、場所が違った? ……あのとき、場所は言わなかったからなぁ。……それにしても、本当に5年も連絡来ないとは思わなかったわよ。普通は、連絡くらいはするでしょ。……もしかして、テイのいい、別れ話だったのかな? って、別に付き合ってたわけでもなかったし……」
場面転換。
ひかり「11時55分……。はは。もう、無理よね。来るわけないよね。あんな約束」
場面転換。
ひかり「57……58……59……0……。はあ、約束の日、終わっちゃった。帰ろうっと」
立ち上がり、歩き出すひかり。
ひかり「……う、うう……」
泣くのを抑えているひかり。
ひかり「……」
遠くから走ってくる音。
信也「ごめん、ひかり。遅れた」
ひかり「……え? 信也?」
信也「まさか、廃線になってたなんて知らなかったんだよ。ここに来るのにすげー時間食った」
ひかり「もう! 信也、遅い!」
信也「悪い悪い」
ひかり「もう! ……遅刻癖、全然、治ってないじゃない」
信也「ははは……」
ひかり「……バカ」
終わり。