この作品は『僕は結婚したくない』の番外編になります。
この話単体でも読めますが、『僕は結婚したくない』を読んでいただくと、さらに楽しんでいただけます。
■概要
人数:4人
時間:10分程度
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
千金良 イノリ(ちぎら いのり)
青手木 シオ(あおてぎ しお)
母親
その他
■台本
シオが5歳の頃。
シオ「お母さん、どこに行くの?」
母親「デートよ」
シオ「……デート。私も行きたい」
母親「ダメ。シオはお留守番よ」
シオ「ねえ、お母さん。どうして、お母さんは私と一緒にいてくれないの?」
母親「あら、どうして一緒にいないといけないの?」
シオ「子供はお母さんと一緒だって、テレビで……」
母親「いい? シオ。私はあなたのお母さんよ。だから、あなたを育ててるの。それは親子という繋がりによる、義務よ」
シオ「繋がり……」
母親「今からデートする人は、私を楽しませてくれるという約束をしてくれた。そういう繋がり。だから、シオではなく、その人のところに行くの」
シオ「……よく、わからない」
母親「いい? シオ。一人で寂しいと言うなら、一緒にいてくれるための繋がりを持たないとならないの。それは約束でも契約でもなんでもいいわ。とにかく、繋がりよ」
シオ「……繋がり」
母親「一番いいのは、目に見える、形を持った繋がりね」
シオ「……」
シオ(N)「繋がり。寂しさを
場面転換。
シオが高校生になっている。
生徒「青手木さん! 好きです! 付き合ってください!」
シオ「……いいわ」
生徒「ほ、ホントですか!?」
シオ「その代わり、これを書いて」
一枚の紙を出すシオ。
生徒「……え? これって婚姻届け?」
シオ「そうよ」
生徒「……す、すいません。やっぱ、今のは無しで」
シオ「そう……」
生徒「そ、それじゃ……」
生徒が走り去っていく。
シオが廊下を歩き出す。
シオ(N)「口約束なんて、すぐに破られる。そんなものは繋がりとは言えない。だから、私はもっと明確で、形に残る繋がりが欲しい……」
ガラガラと教室のドアを開く。
カツカツカツと机の方へ向かう、シオ。
イノリ「君が好きだ!」
シオ「……私に言ったの?」
イノリ「……」
カツカツカツとイノリの方へ行くシオ。
シオ「いいわ。付き合ってあげる。その代わりにこれを書いて」
イノリ「すぅ……すぅ……すぅ……」
シオ「……千金良、起きて。……起きて」
イノリ「んあ?」
シオ「これに名前を書いて」
紙を取り出して、机に置く。
イノリ「……なんだよ」
シオ「これに名前を書いて」
イノリ「……なんだこれ?」
シオ「いいから」
イノリ「どこに名前を書けばいいって?」
シオ「ここ」
カリカリと書く音。
イノリ「これで満足か?」
シオ「ハンコも」
イノリ「持ってねえよ」
シオ「母印でもいい」
イノリ「……これで満足か?」
シオ(N)「本当に……押してくれた。これで、この人と私は繋がりができた。形のある繋がり。これで、もう、私は一人ではなくなったんだ……」
シオ「……はい」
イノリ「じゃあ、僕は寝るから。もう邪魔すんじゃねーぞ」
シオ「おやすみなさいませ。イノリさん」
場面転換。
シオ(N)「それからは色々なことがあった。私はイノリさんの妻として、常に一緒にいようと、イノリさんのところへ通い詰めた」
イノリ「ぐわっ!」
シオ「「料理の先生にも褒められたんです。熊も殺せると言われました」
イノリ「褒めてねえだろ!」
場面転換。
シオ(N)「デートというものもしました」
イノリ「何で帰らないんだよ」
シオ「帰る理由がありません」
イノリ「二時間も遅刻したんだぞ。理由としては十分だと思うけどな」
シオ「私はそう思いません」
イノリ「……悪かった」
シオ「何がですか?」
イノリ「遅れてきて。本当にごめん」
シオ「気にしてません」
場面転換。
シオ(N)「私はこの幸せがずっと続くと思っていました。この婚約届という繋がりがある限り……」
母親「シオ。あなた、結婚しなさい」
シオ「結婚?」
母親「すぐに式も挙げられるわ。良かったわね。あなたがずっと求めてた、一番強力な繋がりが今すぐに手に入るのよ」
シオ(N)「イノリさんとの結婚は、すぐには無理なのはわかっている。その状況になるまでに、何かあるかもしれない。でも、今、お母さんの言う相手と結婚すれば、今すぐに手に入るんだ……」
場面転換。
シオ「破棄した方が慰謝料を払うのは当然」
イノリ「なに? 破棄した方だと?」
シオ「……私が婚約を破棄したから私が慰謝料を払う」
ビリビリビリと結婚届を破る音。
シオ「これで完全に婚約は破棄」
場面転換。
シオ(N)「これでいい。イノリさんにも迷惑がかからないし、私も繋がりがもてる」
シオ「う、うう……。ああ……」
シオが泣き始める。
場面転換。
結婚式の鐘が鳴る。
イノリ「青手木! 僕が結婚してやる! だからこの結婚はやめろ!」
シオ「……」
イノリ「僕は言ったよな! 結婚は好きな人同士でするものだって。で、お前は答えた。好きになるっていうのがどういうことかわからないって。僕が教えてやる!」
シオ「え?」
イノリ「僕がお前を惚れさせてやる! だから結婚するなっ!」
シオ「……」
イノリ「……」
シオ「不束者ですが宜しくお願いします」
シオ(N)「私はこの日、世界中の何よりも強い繋がりを手に入れた。決して形に残る繋がりではない。だけど、絶対に切れることのない繋がり。……愛という名の繋がりを」
終わり。