【声劇台本】不思議な館の亜梨珠 痛み

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■概要
人数:1人
時間:5分程度

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
亜梨珠(ありす)

■台本

亜梨珠「いらっしゃいませ。アリスの不思議な館へようこそ」

亜梨珠「……あら? 指先、どうかしたの?」

亜梨珠「……なるほどね。紙で切っちゃったの。痛いのよね、紙で切ると」

亜梨珠「……へー。血が結構出たのに、そこまで痛くなかったのね」

亜梨珠「……仕方ないわよ。血がたくさん出ていれば、心配するものだわ。本人が痛くないって言ってもね」

亜梨珠「他人の痛みなんて、わからないものなのよ。いい意味でも悪い意味でも、ね」

亜梨珠「例えば、さっき、私が紙で切ると痛いと言ったのは、私の痛みでの経験の話よ。現に、あなたは紙で切ったのに、そんなに痛くなかったのでしょ?」

亜梨珠「同じような状況で、同じような怪我をしても、痛みは本人だけしか感じることはできない。だから、他人の痛みなんて、絶対に知ることなんてできないのよ」

亜梨珠「それは精神的な痛みも一緒だわ」

亜梨珠「同じ暴言を吐かれたとしても、受け取る人に寄って、心に負う傷の深さは様々なの」

亜梨珠「だから、本来、このくらいなら大丈夫、このくらいなら暴言にならない、なんてことはないはずなのよね」

亜梨珠「人それぞれ違うのだから」

亜梨珠「この世界のこの時代なら、そういう心の問題に注目されているから、周りの理解が得やすいと思うけれど」

亜梨珠「3、40年前だと、みんなも耐えてるんだから、お前も耐えろ、っていうのが普通だったのよね。怖いことに」

亜梨珠「言った人や、大勢の人は傷つかないようなことも、その人にとっては、致命傷になりかねないことだってあるはずだわ」

亜梨珠「体であれば、急所は見てわかるけれど、心の急所なんて、他人には絶対にわからないもの。それだけに厄介だと思うわ」

亜梨珠「それと、成長も同じなんじゃないかなと思うわ」

亜梨珠「ほら、よく言うでしょ? 痛みが成長を促すって」

亜梨珠「確かに、そういう部分はあると思うわ」

亜梨珠「でも、その痛みが成長を促すのか、単なる傷で残って終わるかも、やっぱり、その人次第になるんじゃないかしら」

亜梨珠「例えば、どんな仕事でも3年は我慢してやってみろっていうでしょ?」

亜梨珠「確かに3年やらないと見えてこない部分はあるわ。でも、その言葉にこだわって、痛みを受け続けるのも違うと思うのよね」

亜梨珠「痛みしか感じない。その痛みが成長ではなく、傷で残るだけだとしたら、その我慢になんの意味があるのかしら」

亜梨珠「そんな状態なら、その仕事はその人に合ってないと思うのよね」

亜梨珠「どんな仕事でも、初めのうちでも楽しめる部分はあるはずだわ。その部分で楽しめないというのであれば、例え、3年後にわかることがあったとしても、やっぱりそれは楽しめないんじゃないかしら?」

亜梨珠「だから、お客さんから、勤めている会社が酷い……今でいうブラックだった場合はこういうアドバイスをしているわ」

亜梨珠「3年間、心に傷を残すよりも、3年間、自分に合った仕事を探す方がずっと前向きだって」

亜梨珠「だって、痛みが成長を伴わないなら、単に傷が増えるだけで、3年間は無意味どころか、マイナスになるわよね」

亜梨珠「でも、それはブラック会社だけじゃなくて、普通の会社でも言えることだわ」

亜梨珠「仕事をしていれば、嫌な事、失敗した事なんて絶対に出て来るわ。それを成長に変えられるか、単なる傷として残るかは、人それぞれで違うはずよ」

亜梨珠「傷として残るだけと思うなら、転職した方がいいんじゃないかしら」

亜梨珠「人はよく、それが、弱いなんて表現をするけれど、それは違うのよ。だって、心の急所は人それぞれなんだから」

亜梨珠「心が弱い、なんていう人にだって、心の急所はあるのよ。その人が、傷が残って終わる失敗でも、あなたなら成長に変えられる場合だってあるはずなの」

亜梨珠「だから、周りの意見に惑わされないで、自分の心に従った方が良いわ。自分の痛みは自分にしかわからないんだもの」

亜梨珠「って、ごめんなさい。不思議な話どころか、変なアドバイスみたいなこと言ってしまったわね」

亜梨珠「……このところ、こういう相談が多くて」

亜梨珠「あなたはどう? 今の生活、自分に合ってると思うかしら? 毎日の痛みは成長に繋げていられている?」

亜梨珠「時々は立ち止まって考えてみるのも悪くないわよ」

亜梨珠「今日は短いけど、お話は終わりよ」

亜梨珠「また来てね。さよなら」

終わり。

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