■概要
人数:5人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
柳瀬 雅樹(やなせ まさき)
友弘(ともひろ)
澤村 静香(さわむら しずか)
田代
店員
■台本
ポツポツと雨が降り出す音。
ウィーンと自動ドアが開く音。
中から雅樹と友弘が出てくる。
店員「ありがとうございました」
雅樹「……げっ! 雨降ってる」
友弘「うわ、さっきまで晴れてたから、完全に油断したな」
雅樹「……あ、ちょうどいいところに」
傘立てに刺さっている傘を取って、広げる。
友弘「いやいや。雅樹、それ、お前の傘じゃないだろ」
雅樹「いいんだよ。だって、店の中に客は誰もいなかったんだぜ? って、ことは誰かの忘れものってことだろ」
友弘「忘れたからって、お前が使っていいことにはならんだろ」
雅樹「ホント、細かいことにうるせーな、友弘は。絶対、中に入れてやらんかな」
友弘「お前と相合傘するくらいなら、濡れて戻るって」
雅樹「なに、お前、濡れたまま、午後の仕事すんの?」
友弘「……ダッシュ!」
雨の中、走り出す友弘。
雅樹「おーお。元気なこった」
雅樹が雨の中、傘をさして悠然と歩く。
場面転換。
社内。
友弘「……へっくしょん! うう……寒い」
雅樹「だから言ったのに」
友弘「うるさい」
静香「はい。熱いコーヒーとタオルです」
友弘「え? ありがとう、澤村さん。でも、いいの? タオル借りちゃって」
静香「はい。この前、仕事でフォローしてもらったので、そのお礼です」
友弘「じゃあ、お言葉に甘えて、使わせてもらうよ」
雅樹「ねえねえ、静香ちゃん。俺には?」
静香「柳瀬さんは、濡れてないじゃないですか」
雅樹「あー、いや、コーヒーは?」
静香「前にコーヒーはあまり好きじゃないって言ってませんでした?」
雅樹「あー、いやー、うん。そうだね」
静香が行ってしまう。
雅樹「……別にコーヒーじゃなくてもいいんだよな。お茶とかで、なんなら水でもいいのに……」
場面転換。
パソコンを操作する音。
田代「でさー、そこのイタリアンがスゲー美味しかったんだよ。今度、澤村さんも一緒にどう?」
静香「うーん。イタリアンかぁ。ちょっとお高そうだよね」
田代「いやいや、安いよ。なんなら、今回は俺が奢ってもいいし」
静香「えー。悪いよ」
雅樹「……ちっ!」
カタカタとキーボードを打つ音。
雅樹「おーい、田代。ここ間違ってるぞ」
田代「え? マジっすか?」
雅樹「ほら、ここ」
田代「……あれ? おかしいな。何回も確認したんだけどな」
雅樹「データ、最新のに上書きしたから、そっちをすぐ修正してくれ」
田代「はーい。すぐ直しまーす」
友弘「あ、田代。そのデータ、この後、俺が弄るから、そのときに一緒に直しておくからいいぞ」
田代「マジっすか? あざっす」
雅樹「おいおい。甘やかすなよ」
友弘「別に甘やかすわけじゃ……へっくょん!」
雅樹「てか、お前、大丈夫か? 早退したら?」
友弘「いや、今日中に作らんとならん資料があるからさ……へっくしょん!」
雅樹「ったく、知らねーぞ。酷くなっても」
場面転換。
終業のベル。
雅樹「あー、終わった終わった。さてと帰るか。なあ、友弘。帰り、飯食ってかね?」
友弘「あー、ごめん。資料作り、終わらん」
雅樹「マジか。なら、仕方ねーな」
友弘「また今度な」
雅樹「ねえ、静香ちゃん。もう帰る? 帰るなら、どこかで飯食ってかない?」
静香「あー、ごめんなさい。私、もう少し残業していきます」
雅樹「そっか……。みんな頑張るな。じゃあ、お疲れー」
友弘「お疲れー」
静香「お疲れ様ですー」
田代「お疲れっすー」
雅樹が歩き出す。
田代「先輩。資料作り、手伝いますよ」
友弘「え? いや、いいよ。悪いし」
田代「なーに言ってんすか。先輩、いつもこういうときフォローしてくれるじゃないですか。たまには恩を返させてくださいよ」
友弘「そうか? ホント、悪いな」
静香「私も手伝いますよ」
友弘「え? 澤村さんまで? いいよいいよ」
静香「その代わり、今度、お昼ご飯奢ってください」
友弘「……わかった。好きなの奢るよ」
静香「約束ですからね」
ツカツカと雅樹が戻って来て、椅子に座る。
雅樹「あと、どのくらい残ってるんだ?」
友弘「……雅樹?」
雅樹「4人でやれば、速攻終わるだろ。早く終わらせて、お前は帰って、すぐ寝ろ」
友弘「……サンキュー、雅樹」
場面転換。
友弘「……ふう。終わった。ありがとう、みんな。助かったよ。俺一人だったら、完全に泊まりだったよ」
静香「早く帰って寝た方がいいですよ。顔色悪いです」
田代「明日寝込んじゃったら、意味なくなりますよ」
雅樹「タクシー呼んでおいてやるよ」
友弘「……ホント、みんな、ありがとな。みんなが同じチームでよかったよ」
静香「……っ」
田代「へへ」
雅樹「ふふ」
場面転換。
雅樹がツカツカ歩いて来て、ドサッと勢いよく席に座る。
雅樹「あー、くそ」
友弘「どうした?」
雅樹「ミスして、めっちゃ、課長に怒られた」
友弘「あー。お前、また確認しないで出したのか。だから、俺がチェックするって言ったのに」
雅樹「……いつも、お前の世話になるのも悪いかなって……」
友弘「それで、ミスしたら意味ねーだろ」
雅樹「うるせーな……」
そこに静香がやって来る。
静香「みんなに、プレゼントがあります。……じゃじゃーん!」
友弘「……傘?」
静香「はい。折り畳み傘です。前みたいに不意の雨になっても、持ち歩けるように。チームお揃いの傘ってことで」
田代「えー、いいの? めっちゃ嬉しい」
友弘「ありがとう。使わせてもらうよ」
雅樹「一生大事にするよ」
静香「あ、それは重くて、引きます」
雅樹「……」
場面転換。
ザーと雨が降っている音。
ウィーンと自動ドアが開く音。
中から雅樹と友弘が出てくる。
店員「ありがとうございました」
雅樹「へへ。静香ちゃんから貰った傘、さっそく大活躍だな」
友弘「そうだな」
友弘が傘を広げる音。
雅樹「……あれ?」
友弘「どうした?」
雅樹「ない! ないぞ! ここに刺しておいた傘がない!」
友弘「あー、もしかしたら誰かに持って行かれたのかもな。だから、店内に持って行けって言ったのに」
雅樹「うわーーー! 誰だー! 俺の大切な傘を持ってったやつはー!」
終わり。