■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
雅人(まさと)
浩之(ひろゆき)
生徒たち
■台本
学校の授業。
ホワイトボードにペンで文字を書く音。
雅人「ここの主人公の心情は、3行目の折り紙の鶴を渡した、と言う部分で読み取れる。……ちなみに、この地域では折り紙は貴重な存在だったらしい」
生徒たちがパソコンを打つ音。
雅人「この小説文の読み解きに関しては……」
そこで学校のチャイムが鳴る。
雅人「……これで授業は終わり。あとで、宿題のデータを渡すから、次の今週中に提出するように」
場面転換。
カツカツと廊下を歩く雅人。
遠くからはしゃぐ声が聞こえてくる。
雅人「……ん?」
生徒1「浩之先生、喉乾いた。なにか奢って」
浩之「おお、いいぞ。給湯室に行って、蛇口を捻れば、水が出るから、いくらでも飲んでいいぞ」
生徒1「あはは。なにそれ?」
生徒2「先生! 放課後は一緒にサッカーするって言ってたでしょ! 早く来てよ」
浩之「今日の、とは言ってないぞ」
生徒2「ええー! ずりー!」
浩之「あははは。ごめんごめん。後で行くから先行っててくれ」
生徒2「待ってるからね!」
生徒たちが行ってしまう。
そこに雅人がやってくる。
雅人「なあ、浩之……」
浩之「おう、どうした、雅人」
雅人「……ちょっといいか?」
場面転換。
浩之「なるほどなぁ。もっと、生徒と仲良く、か」
雅人「ああ。お前は生徒からの人気が高い。だから、そのコツが知りたくてな」
浩之「んー。俺の場合は、生徒から舐められるってデメリットもあるけどな。けど、お前は、お前で生徒から人気あるんだぞ」
雅人「そうなのか?」
浩之「ああ。授業が分かりやすいって。現にお前の授業って、みんな私語はなくて、静かだろ? それだけ、真剣に聞いてるってことだ」
雅人「……そういうのじゃなくてだな」
浩之「はいはい。何か、生徒と仲良くなる方法だな」
雅人「ああ」
浩之「……結構、冗談を言うのが有効だぜ」
雅人「冗談?」
浩之「ああ。冗談を言うことで、生徒との距離感はグッと近づいたりするぜ」
雅人「……なるほど」
場面転換。
学校の授業。
ホワイトボードにペンで文字を書く音。
雅人「……つまり、この最後の文が冒頭の文に繋がるという形になっているんだ」
生徒たちがパソコンを打つ音。
雅人「……おほん。実は裏山に財宝が埋まっているという話を知っているか?」
教室内がざわつく。
雅人「100年前、この辺りに三倉剛三という名士がいた。その男は死期が迫ったとき、多くの子孫たちが自分の遺産を巡って争わないように隠したんだ。その場所と言うのが裏山というわけだ。その根拠になるのが……」
場面転換。
浩之「ダメだった?」
雅人「ああ。全く受けなかった」
浩之「そっか。どんな冗談だったんだ?」
そこに生徒がやってくる。
生徒3「あ、浩之先生も、一緒に行こうよ」
浩之「ん? どこにだ? って、お前、スコップ持って、どうしたんだ?」
生徒3「財宝を掘りに行くんだよ」
浩之「財宝?」
生徒3「うん。裏山に埋まってるんだって。今、学校中の人たちが掘りに裏山に行ってるよ」
雅人「……」
浩之「え? どういうことだ?」
生徒3「あ、行けね。軍手忘れた。取りにいかないと!」
生徒が走って行ってしまう。
浩之「……財宝なんて、何言ってるんだ? お前、この話、何か知ってるか?」
雅人「俺だ」
浩之「え?」
雅人「それ、俺の冗談だ」
浩之「……どういうことだ?」
場面転換。
浩之「……いや、それ、冗談の域を超えてるだろ。なんで、そんなにディティール凝ったんだよ?」
雅人「嘘を付くとき、全部、嘘を言うよりも真実も混ぜつつ言った方が、バレないんだ」
浩之「いや、バレないとダメだろ、冗談なんだから」
雅人「そうなのか?」
浩之「それだと、ただの嘘つきになるぞ。現にその嘘に釣られて、生徒たちが裏山に掘りに行ってるんだからさ」
雅人「……そうか。難しいな」
浩之「とにかく、すぐに裏山に行って、嘘だったと言って来い」
雅人「わかった」
場面転換。
裏山。
雅人「みんな、聞いて欲しい。ここに財宝が埋まっているのは嘘だったんだ。これ以上、ここを掘り返させると困る」
ザワッと騒がしくなる。
生徒たちのささやく声。
生徒4「……先生が嘘を言うなんて、なんか変だよな?」
生徒5「ああ。きっと、ここを掘ると困ると言うことは……やっぱり、本当に埋まってるってことなんじゃないか?」
生徒6「そっか、見つかったら困るってことかも」
生徒5「って、ことはホントに埋まってるってことか?」
生徒4「あの先生が言ったんだぞ。それにあの話が嘘って……そっちの方が嘘くさいだろ」
生徒6「だよな。よし! 掘るぞ!」
大勢の生徒「おーー!」
雅人「……なぜだ?」
場面転換。
大勢の生徒たちが穴を掘る音。
雅人「……」
浩之「どうするんだ? 収集がつかなさそうだけど」
雅人「仕方ない。冗談を真実に変えるか」
浩之「どうやって……?」
雅人「……少し準備をしてくる」
場面転換。
穴を掘る音。そして、スコップが何かに当たる音。
生徒6「お、おい! なんか埋まってるぞ!」
生徒4「ホント?」
大勢の生徒たちが集まってくる。
生徒4「箱だ。早く開けようぜ」
生徒6「財宝か……。財宝で何買う?」
生徒5「とにかく、開けろって」
ガチャリと開ける音。
生徒4「……へ? 折り紙?」
そこに雅人がやってくる。
雅人「以前、授業で少し話したと思うが、この地域では折り紙は貴重品だったんだ。だから、折り紙を宝として埋めたんだろう」
生徒4「なーんだ。つまんないの」
生徒5「帰ろうぜ」
生徒6「そうだな」
生徒たちが帰っていく。
雅人「……ふう」
浩之「なるほどな。冗談を真実に、か」
雅人「……今回は失敗したが、次は必ず成功させたい。どんな冗談が良いと思う?」
浩之「いや、お前はもう、冗談を言うのは止めた方がいいな」
雅人「……そ、そうか」
終わり。