■概要
人数:1人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス
■キャスト
亜梨珠(ありす)
■台本
亜梨珠「いらっしゃいませ。亜梨珠の館へようこそ」
亜梨珠「……あら、随分と不機嫌みたいだけれど、なにかあったのかしら?」
亜梨珠「ふーん。なるほどね。確かに、横入りされれば、誰でも嫌な気分になると思うわ」
亜梨珠「……え? しかも、後輩に奢ったら残された、ですって?」
亜梨珠「あなたにとって、2回も嫌なことがあって、イライラしていたわけね」
亜梨珠「けれど、落ち着いて考えてみて。横入りの件はどう考えても、割り込む方が悪いのだけれど、奢ったものを残されることに関しては必ずしも悪いことではないの」
亜梨珠「逆に残す方が良いということもあるってことよ」
亜梨珠「中国では出された料理をすべて食べるというのは失礼にあたるわ。物足りない、と言うことになるの」
亜梨珠「他にはインドでは左手を使ってはいけないというのもあるわ」
亜梨珠「つまり、何が言いたいかというと、常識やマナーというのは、その場所、その場所で変わってくるということ」
亜梨珠「あなたがやられて嫌なことだったとしても、一度落ち着いて考えてみて欲しいのよ」
亜梨珠「誤解ということもあるかもしれないしね」
亜梨珠「じゃあ、今日はマナーについての不思議な話をしましょうか」
亜梨珠「その女の子は、お金持ちの家に生まれ、小さい頃からマナーというものを親からしっかりと叩きこまれていたの」
亜梨珠「将来、恥をかかないように、と」
亜梨珠「当然、その女の子はマナーに詳しくなり、普通、大人でもわからないようなマナーも熟知するくらいになったわ」
亜梨珠「そんなマナーに詳しい女の子に、周りもマナーを聞いていたらしいわ」
亜梨珠「あるとき、その女の子は元いた世界とは違う世界に紛れ込んでしまったの」
亜梨珠「誰も知らないようなマナーと偶然が重なって、世界を繋ぐ道が出来てしまったようね」
亜梨珠「……ええ。そうね。あなたの予想の通り、女の子が迷い込んだ世界は、マナーが全然違っていたのよ」
亜梨珠「会う人、会う人にマナーがなっていないと笑われ、親の顔が見たいと失笑され、下品と侮蔑(ぶべつ)されたわ」
亜梨珠「女の子は絶望したわ。今までは、教えを乞われる立場だったのに、それが全くの逆の立場になったのだから」
亜梨珠「そんな女の子が、その世界で仕事を得ようとしても上手くいくはずがなかったわ」
亜梨珠「すぐに職を失くし、途方に暮れていたの」
亜梨珠「そんなとき、その女の子はある孤児院に拾われたの」
亜梨珠「その孤児院には多くの子供たちがいるのだけれど、面倒を見る人がとても少ない状態だったわ」
亜梨珠「だけれど、意外と、孤児院の秩序は保たれていることに、女の子は驚愕したの」
亜梨珠「そして、その理由に女の子はもっと驚いたわ」
亜梨珠「なぜならその孤児院で行われていたのは、女の子が知っていた、親から教わったマナーだったの」
亜梨珠「女の子の目からは、孤児のはずの子供たちが全員、上品に暮らしているように見えたわ」
亜梨珠「けれど、孤児院の院長は、みんなをまとめるためには、マナーが悪くなってしまうのは仕方がないと苦笑いをしたというわけね」
亜梨珠「もちろん、女の子はその孤児院にすぐに馴染むことができたわ」
亜梨珠「誰に教わることなく、その孤児院のルールを完ぺきにこなすことができたのだから」
亜梨珠「女の子は、この孤児院が自分の居場所だと思い、孤児院で誰よりも働いたわ」
亜梨珠「もちろん、子供たちにも慕われて、居心地も良かったの」
亜梨珠「けれど、数年が経ったとき、その女の子は孤児院を出て行ったわ」
亜梨珠「ちゃんとした場所で働くために、と言って」
亜梨珠「……ふふっ。なんでそんなことをしたのか、不思議に思うかしら?」
亜梨珠「当然、その女の子は孤児院や子供が嫌いになったわけでも、その生活に嫌気がさしたわけでもなかったわ」
亜梨珠「その証拠に、女の子は5年後に、その孤児院に戻ってきたの」
亜梨珠「そして、孤児院に戻ってきた女の子は、子供たちに、この世界でのマナーを教えたわ」
亜梨珠「つまり、女の子はこの世界のマナーを覚えるために、孤児院を出たというわけね」
亜梨珠「今まで覚えてきたマナーとは全く違うマナーを覚えるのは、とても苦労したそうよ」
亜梨珠「それでも、必死にマナーを覚え直したの」
亜梨珠「なぜなら、この世界で普通に生きていくためには、この世界のマナーを身につけなければならないということは、嫌というほど味わったのだから」
亜梨珠「子供たちは、孤児院を出る年齢になる頃には、全員、しっかりとしたマナーを身に着けていたわ」
亜梨珠「女の子に教わって、ね」
亜梨珠「そして、孤児院を出ていく人は、みんな普通の仕事につくことができたの」
亜梨珠「今までは、孤児院から出ても、下層の生活しかできなかった人が多かったのに、それが劇的に改善されたというわけね」
亜梨珠「どうだったかしら?」
亜梨珠「マナーは場所によって変わることや、大切なこと、そして、柔軟に考えることが必要ってことが、今回の話の教訓といったところかしら」
亜梨珠「あなたも、マナー違反とすぐに決めつけないで、一度落ち着いて考えるようにすることをお勧めするわ」
亜梨珠「これで、今回のお話は終わりよ」
亜梨珠「よかったら、また来てね。さよなら」
終わり。