歴史に忘れられた大泥棒

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■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、江戸時代、シリアス

■キャスト
肇(はじめ)
太助(たすけ)
おりょう
二郎(じろう)
おばちゃん
町人1~2
役人1~2

■台本

長屋。

肇が寝ている。

肇「ぐごーぐごー!(いびき)」

バンと戸が勢いよく開き、太助が入って来る。

太助「おりゃー!」

走ってきて、寝ている肇の腹に飛び乗る。

肇「おふっ!」

太助「肇兄ちゃん、起きろ!」

肇「……太助。もう少し、穏便な起こし方はないのか?」

太助「ダメダメ! そんなんじゃ、肇兄ちゃん、起きねーもん」

肇「今度からは、おりょうに、起こしにきてもらってくれ」

太助「それはもっとダメ! おりょう姉ちゃんだと起こせなくて、結局、肇兄ちゃんが起きるのは夕方になるだろ」

肇「はあ……。まだ眠いんだけどなぁ」

太助「何言ってんだよ! みんなもう、午後のお昼休憩してるくらいなんだぞ!」

肇「お? 本当か? 昼ごはんなんだ?」

太助「……」

ギリギリと肇の頬をつねる太助。

肇「いでででで!」

太助「働かぬ者、食うべからず!」

肇「何言ってんだよ。俺だってちゃんと働いてるだろ!」

太助「肇兄ちゃんの稼ぎは大根一本くらいだろ」

肇「金は金だろ」

太助「……それなら、農作業を手伝ってくれよ」

肇「……人には向き不向きがあるんだよ」

太助「……肇兄ちゃんは何が向いてるんだよ?」

肇「……」

場面転換。

畑のすぐ横で、お昼ご飯を食べている子供たちと、おりょう。

そこに太助と肇がやってくる。

肇「ふわー! おはよう」

おりょう「ふふっ。今日は早いですね」

肇「おりょう。俺の分も、おにぎりあるか?」

おりょう「はい、どうぞ」

肇「ありがとう」

太助「おりょう姉ちゃん、甘やかしちゃダメだって!」

そこに二郎がかけよる。

二郎「ねえ、肇兄ちゃん。今日は農作業、手伝ってくれるの?」

肇「悪いな、二郎。午後からは仕事なんだ」

太助「……仕事って言ったって、町をブラブラするだけでしょ」

肇「あのなあ。困っている人がいれば助ける。これが俺の仕事だ」

太助「……で、依頼はどれくらいあるの?」

肇「うっ! ふ、二日前に一件あったぞ!」

太助「農作業の方がずっと効率いいけど」

肇「よし! じゃあ、行って来る! じゃあな!」

肇が走って行く。

太助「あっ! ズルいぞ! 手伝えー!」

場面転換。

町中をブラブラと歩く、肇。

肇「なんでも屋だよー! 依頼ないですかー?」

町人1「お、なんだい? 今日も暇してるのかい?」

肇「……仕事してんだよ!」

町人2「あんたもいい年なんだ。まともな仕事見つけなよ」

肇「だから、仕事してんだろうがよ!」

歩き続ける肇。

肇「ったく。町の連中ときたら……。お? 茶屋か。少し休憩するか」

肇が椅子に座る。

肇「おばちゃん、お茶くれ」

おばちゃん「はいはい」

コトッとお茶を置くおばちゃん。

肇「ありがとう」

おばちゃん「よっこいせっと」

おばちゃんが肇の横に座る。

肇「……おばちゃんは注文してねーぞ」

おばちゃん「お茶代として、話しに付き合ってくれてもいいじゃないか」

肇「店はいいのか?」

おばちゃん「……見なよ。あんた以外、客なんかいやしない」

肇「……景気、悪いのか?」

おばちゃん「最悪だね。気晴らしに茶を飲む余裕さえない。それなのに、さらに税を上げるってさ」

肇「……上は何も言ってないのか?」

おばちゃん「上げた税で抱き込んでるのさ」

肇「……町の人間は乱を起こそうとかは考えないのか?」

おばちゃん「みんな、自分の命が可愛いのさ。……まあ、それが悪いとは言わないけどね」

肇「……」

おばちゃん「誰かが決起すれば、みんな付いてくると思うけどね」

肇「冗談じゃない。俺も自分の命が可愛いんだ」

おばちゃん「……そうだね。あんたは、大勢の孤児(みなしご)を抱えてるんだ。無理はするんじゃないよ」

肇「言われなくても、わかってるさ。じゃあ、ごちそうさん」

金を椅子に置く肇。

おばちゃん「お代はもうもらったよ」

肇「まあ、受け取っておけよ」

歩き去っていく肇。

場面転換。

夜。フクロウが鳴いている。

肇「さてと……」

おりょう「……肇さん」

肇「……まだ起きてたのか」

おりょう「お願いです。もう止めてください!」

肇「……もし、俺に何かあったら、子供たちのことは頼む」

おりょう「……」

肇が走って行く。

場面転換。

屋敷に侵入する肇。

錠前をガチャリと開ける。

肇「よし、開いた」

扉を開ける肇。

肇「……ったく。ふざけた話だぜ。こんなに金を持っているのに、さらに民衆から税を搾り取ろうってんだからな」

小判が入った箱を持って、出ていく肇。

場面転換。

長屋で寝ている肇。

肇「ぐごーぐごー」

バンと戸が開き、太助が入って来る。

太助「肇兄ちゃん! 起きろ!」

肇「……昨日は依頼を1件こなしたからいいだろ」

太助「昨日は昨日! 今日は今日!」

場面転換。

街を歩く肇。

肇「なんでも屋だよー! 依頼ないですかー?」

町人1「またあの泥棒が出たみたいだぞ」

町人2「ああ。聞いた聞いた。上の奴ら、慌てたみたいだぞ。ざまあみろ」

肇「……」

そこに役人が現れる。

役人1「貴様が、肇だな」

肇「……」

役人2「貴様に盗みの疑いがかけられている。一緒に来てもらおうか」

町人1「あはははは。いやいや、役人さん。こいつはとんでもないグウタラだ」

町人2「そうそう。盗みなんて出来るわけないよ」

役人1「ほう。じゃあ、貴様らが代わりに、取り調べを受けるか?」

町人1「うっ……」

肇「……」

役人2「おっと。逃げようとするなよ。お前に逃げられたら、長屋のガキどもを捕まえないとならなくなるからな」

肇「出頭すれば、あいつらには危害は加えないか?」

役人1「お前次第だ」

肇「……」

町人1「お、おい……。肇」

肇「ちょっと行ってくるわ」

役人に連れられて肇が言ってしまう。

町人1「……」

町人2「……」

場面転換。

さらし首にされている肇。

それを見ている大勢の民衆。

町人1「さらし首だなんて……あんまりだ」

太助「肇お兄ちゃん!」

二郎「うわーーーん!」

おりょう「……肇さん」

町人2「……」

おばちゃん「……」

場面転換。

密会している民衆。

町人1「……決起しよう」

町人2「ああ。肇の件で目が覚めた。黙っていたら、俺達も殺される」

ナレーション「この後、民衆たちは一致団結して決起した。その事件をきっかけに、藩に取り調べが入り、取り潰しになった。この決起のきっかけとなったのは、一人の大泥棒なのだが、その人物の名は歴史に残ることはなかった」

終わり。

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