お年玉をつかみ取れ

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■概要
人数:5人
時間:15分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ

■キャスト
花梨(かりん)
源三(げんぞう)
小夏(こなつ)
雅紀(まさき)
弘毅(こうき)

■台本

リビング。
コーヒーを飲んでいる花梨。

花梨「ふう……。さてと、そろそろ学校に行くか」

立ち上がると同時に、源三がリビングに入ってくる。

源三「ふう。いい汗かいたわい」
花梨「お疲れ。朝稽古?」
源三「……花梨。貴様、なぜ、最近、朝練に出ない? そんなんじゃ最強の名は程遠いぞ」
花梨「あのねえ、父さん。何度も言うけど、私、女子高生なの、女、子、高、生!」
源三「だからなんだ?」
花梨「普通、女子高生は最強なんて目指さないのよ」
源三「貴様を普通に育てたつもりはない」
花梨「はあ……。ホント、この家に生まれた時点で私の人生、ほぼ終わってるわ」

そのとき、弘毅がヨロヨロしながらりリビングに入ってくる。

弘毅「も、もうダメ……」

その場に倒れこむ弘毅。

花梨「……相変わらず、朝からハードな練習してるわね」
源三「弘毅! 情けないぞ! それでも我が源(みなもと)流の跡取りか!?」
弘毅「……」
花梨「気絶したみたい」
源三「ふんっ!」

ドタドタと雅紀がリビングに駆け込んでくる。

雅紀「くそー! なんで、目覚まし、10分遅れてるんだよ! あっ! まな板! てめえの仕業か!?」
花梨「さあねー? 電池、切れかかってるんじゃない?」
雅紀「今日、遅刻するとヤバいんだぞ!」
花梨「ふふん。だからよ」
雅紀「あ、白状しやがったなっ!」
源三「……雅紀。お前、何回朝稽古をサボれば気が済むんだ?」
雅紀「げっ! 親父! 今日は腹が痛かったんだって」
源三「問答無用」
雅紀「ちょ、待って! ホント、今日遅刻したらまずいんだって!」
花梨「じゃあ、行ってきまーす」
雅紀「ちょ、まな板……じゃなくて、花梨、助けてくれー」
花梨「留年、おめでとー」
雅紀「てめえ覚えてろよー」
源三「人を構ってる場合か?」
雅紀「ぎゃーーーー」
花梨「はあ……」

花梨がカバンを持って、リビングから出ていく。

場面転換。
花梨と小夏が歩いている。

小夏「ふっふふーん! ふっふーん!」
花梨「小夏、随分、上機嫌ね」
小夏「そりゃそうよ! だって、明日から冬休みよ! ふ、ゆ、や、す、み!」
花梨「そんなに楽しみにすることかなぁ?」
小夏「相変わらず、ドライね、花梨は。冬休みになったら、朝も寝放題だし、遊び放題なんだよ」
花梨「そっか……いいなぁ」
小夏「……あ、ごめん。花梨は違ったね」
花梨「はー。なんで、高校生にもなって、やりたくもない寒稽古(かんげいこ)をやらされなきゃならないのよ」
小夏「花梨のお父さん、ガチ系だもんね」
花梨「今年も生きて帰ってこれるかな……」
小夏「まあまあ。それじゃ、稽古から帰ってきたら、パーっと遊びに行かない? 気晴らしに」
花梨「……お金ないよ」
小夏「ええー! 何言ってるのよ! 冬休みと言えば一年で一番お金ある時期じゃない」
花梨「え? なんで?」
小夏「なんでって……。お年玉があるでしょ」
花梨「あー。そんな風習、日本にあったわね」
小夏「もしかして、もらえないの?」
花梨「んー。ある意味、絶対、もらえない」
小夏「どういうこと?」
花梨「えっとねー。……あ」

花梨が立ち止まる。

小夏「どしたの?」
花梨「ちょっと待ってて」

花梨がいきなり、塀の上へジャンプして登り、戻ってくる。

小夏「……なんで、急に塀の上に?」
花梨「猫。高いところに上って、降りれなくなってたから」
小夏「あーなるほど」
花梨「はー。猫ちゃん、可愛いー」
小夏「はー。もったいない」
花梨「なにが?」
小夏「あんた、こうして油断してると可愛いのにね。いつもは目つきが鋭すぎて怖いからさ」
花梨「えー、そうかな?」
小夏「そうだよ。実はあんた、男子の中で人気あるんだからね。誰も怖くて声かけれないだけで」
花梨「えー! うっそ!」
小夏「ホントホント。もう少し、オシャレして、今みたいな油断した感じなら、告白され放題だよ」
花梨「……オシャレと油断か……」

場面転換。
居間。
除夜の鐘と、時計の12時を告げる音。

源三「明けましておめでとう!」
弘毅「おめでとうございます!」
花梨「あけおめあけおめ」
雅紀「……」
源三「雅紀! ちゃんと言わんか! 武道は礼に始まり、礼に終わるだ!」
雅紀「いや、まな板野郎もちゃっと言ってなかっただろ!」
花梨「新年早々、死んどく?」
雅紀「へっ! やってみろ」
源三「さてと。では、毎年恒例のお年玉の儀を開始する」
雅紀「なあ、親父。この際、はっきり言ったらどうなんだ? お年玉をやりたくないって」
源三「阿呆! いつも言っておろうが! 欲しいものは自らの手でつかみ取れ、と!」
雅紀「普通の家は、何もしなくてももらえるんだけどな……」
花梨「だよね……」
源三「お前らを普通に育てたつもりはない!」
雅紀「はあ……普通の家に生まれたかった」
花梨「同じく……」
源三「ルールはいつも通り。俺からこのお年玉袋を奪い取る。期限は、元日が過ぎるまで。それだけだ!」
雅紀「それが無理なんだって」
源三「最近、お前らのモチベーションが下がってきたからな。今年は奮発して、20万、入れてある」
雅紀「……貰えないなら、金額は意味ねーけどな」
花梨「……20万か」
源三「俺とお前らとは実力差が天と地ほどある。どんな手を使ってもいいからな。俺からお年玉をつかみ取れ」
弘毅「では、私から行かせていただきます」
源三「うむ!」
弘毅「はああああ!」

弘毅が源三に向っていく。

源三「ふんっ!」
弘毅「うっ!」

弘毅が吹っ飛んでいく。

弘毅「うぐぅ……。無念」
雅紀「あーあ。ありゃ、2日は起きねーな」
花梨「実質、リタイアね」
源三「さあ、どうした? お前らも来い!」
雅紀「なあ、親父。どんな手を使ってもいいんだよな?」
源三「無論だ!」
雅紀「じゃあ、行くぜ! うおおおお!」

雅紀が走る。そして、源三にスタンガンを当てる。

源三「ぐあああああああ!」
雅紀「へへっ! さすがの親父もスタンガンには勝てないだろ」
源三「なんてな」
雅紀「へ?」
源三「ちょっとピリッとしたくらいだな。情けないスタンガンだ」
雅紀「いや、最大出力だったんだけど」
源三「ふん!」
雅紀「がはっ!」

雅紀が倒れる。

源三「……残りは花梨だけか」
花梨「私はパース!」

スタスタと歩いて、居間を出ていく花梨。

源三「ふん」

場面転換(時間経過)。
時計の針の音が響く。

源三「……来たか」
花梨「げっ! なんでわかったのよ?」
源三「持久戦を狙ったつもりだろうが、帰って仇になったな。残り時間3分だぞ」
花梨「私、追い込まれた方が、実力、発揮できるのよね」
源三「ふむ。そうだったな。が、発揮できたとしても、俺には勝てんぞ」
花梨「別に勝てなくたっていいのよ……ね!」

花梨が源三に向って走る。

源三「はっ!」
花梨「ふっ!」
源三「むっ!? 躱したか」
花梨「ちょっと! 普通、実の娘に本気で殴ろうとしないでしょ!」
源三「普通に育てたつもりはない。それに、そんな腰抜けの動きもな」
花梨「……これはお年玉を取るのが目的。別に勝たなくてもいいのよ」
源三「……なるほどな。ふむ、いいぞ。来い!」

源三と花梨の攻防。

源三「はあ!」
花梨「うわっ!」
源三「たあ!」
花梨「わわっ!」
源三「ふふ。どうした? そんなんでは俺の懐に手が届かないぞ」
花梨「もう時間がない。これが最後の攻防」
源三「いいだろう! 受けて立つ!」
花梨「やああああ!」
源三「はあああ!」
花梨「くっ!」
源三「たあああああああ!」
花梨「ここ! この連撃を潜り抜ければ……」
源三「ぬ? やるなっ!」
花梨「もらったぁ!」
源三「甘い!」
花梨「うわっ!」

源三の思わぬ攻撃に戸惑いながらも、避けることに成功する花梨。

花梨「……一瞬、お花畑が見えたわ」
源三「今の動き、素晴らしかったぞ。生死の狭間を見たことで覚醒したらしいな」
花梨「……全然、嬉しくない」
源三「……が、しかし」

12時を告げる時計の音が鳴り響く。

花梨「時間切れ……」
源三「惜しかったな」

ポンと花梨の肩に手を置く源三。

花梨「ここっ!」

花梨が源三の懐から、お年玉袋を抜き取る。

花梨「やったー! お年玉袋、ゲットー!」
源三「待て。もう元旦が過ぎている。期限が過ぎた後だから、無効だ」
花梨「むっふっふっふ。それが、まだなんだなー」
源三「どういうことだ?」
花梨「はい。スマホ」

スマホを渡す源三。

源三「これがなんだ……む? まだ、1日の23時56分だと!?」
花梨「そゆこと」
源三「なぜだ? あの時計は……ま、まさか」
花梨「そ。5分、早めといたの。時間が過ぎれば、父さんも油断するかなって」
源三「ふふ。俺もまだまだ未熟だな。そして、花梨。見事だ」
花梨「イエーイ! この20万で冬休みは豪遊アンドお洒落をするわよ!」
源三「ふふふふふ! 敗北を知って、燃えてきたぞ! よーし、今年の寒稽古は冬休みいっぱい使ってやるぞ!」
花梨「ええええー! そんなー!」

終わり。

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