ずっとこうしたかった

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■概要
人数:2人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ

■キャスト
充(あたる)
真白(ましろ)

■台本

小屋の中。
ビューっと外では強い風が吹いている。

充「……凄い吹雪だ」
真白「そうね」
充「二人きり……だな」
真白「うん」
充「すぐに助け、来ると思うか?」
真白「……」
充「なあ、真白」
真白「なに?」
充「俺、お前に伝えたいことがあるんだ」
真白「私も……充に伝えたいことがあるの」
充「……」
真白「……」

充(N)「今、俺たちは冬山の小屋の中に避難している。なんで、こんなことになったかというと、それは3日前に遡る」

場面転換。
大学内。山岳部の部室内。
ガチャリとドアが開く。

充「うぃーっす。……って、あれ? なんだ、真白だけか」
真白「はあ……。来たの、あんただけか……」
充「先輩や他のみんなは?」
真白「風邪でダウン」
充「……もしかして」
真白「ううん。普通の風邪みたい」
充「そっか」
真白「さてと、帰ろっかな」
充「え? なんだよ、まだ4時だぞ?」
真白「だからなに? 誰もいないんじゃ、残ってても仕方ないでしょ」
充「いや、俺がいるし」
真白「……はあ。あんたしかいないから、帰ろうって思ってるんだけど」
充「ひっでぇ」
真白「それとも何? あんたは私にいて欲しいわけ?」
充「は? んなわけねーし」
真白「でしょ? じゃあ、バイバイ」
充「ああ。じゃあな。……さてと、俺は次回の登山場でも決めとくか」
真白「はあ? なんで、あんたが勝手に決めんのよ!」
充「いや、俺しかいないし、しゃーないじゃん」
真白「私がいるでしょ!」
充「帰るっていったじゃん」
真白「あんたに勝手に決められるくらいなら、残るわよ!」

真白が戻ってきて、椅子に座る。

充「……そんなに、俺、信用ないか?」
真白「あんたが選ぶところ、つまらないとこばっかなのよ。単に急で、険しいところで選んでるでしょ」
充「バッカ! 登山は、自分との戦いだぞ! 精神ギリギリのところまで追い込まれてこそ、本当の登山なんだよ!」
真白「くっだらない! 登山は景色を楽しむものよ!」
充「はあ? なに、軟弱なこと言ってんだよ!」
真白「あんたの、その暑苦しいところが部員の増えない原因なのよ」
充「そんなこと言って、結局、自信ないだけなんだろ?」
真白「……は?」
充「お前、風景が綺麗なとことか言って、険しい山、登れる自信ないだけだろ?」
真白「あんた、喧嘩売ってんの?」
充「いや、事実を言っただけだって」
真白「言っておくけど、私、あんたより体力あるから」
充「ぷっ! はいはい。そうですね」
真白「カッチーン! 頭来た! じゃあ、勝負する?」
充「……やめとけって。後悔するだけだぞ」
真白「早く、登る山、決めなさいよ! 週末に行くわよ」
充「……へ? 今週?」
真白「あー、はいはい。そっかそっか。大口叩いておいて、いざ行くとなったら自信ないのかぁ」
充「そ、そんなことねーし!」
真白「はいはい。わかったわかった。じゃあ、勝負は来年ねー」
充「よーし! わかったよ。じゃあ、週末に勝負だ! いいな!」
真白「望むところよ!」

場面転換。
山の中。猛吹雪状態。

充「……」
真白「……ちょっと、充。どうすんのよ、この状況」
充「いや、俺に言われても……」
真白「あんたが、この山って決めたんでしょうが! なに迷ってんのよ!」
充「仕方ないだろ! こんな吹雪の中、登ったことねーんだから!」
真白「ちょっと! ホントに、どうすんの? こんなところでビバークとか、マジ洒落にならないからね」
充「……いや、待て。あそこ、小屋があるぞ!」
真白「あ、ホントだ!」
充「よし、とりあえず、あそこに避難だ!」

場面転換。
小屋の中。
ビューっと外では強い風が吹いている。

充「……凄い吹雪だ」
真白「そうね」
充「二人きり……だな」
真白「うん」
充「すぐに助け、来ると思うか?」
真白「……」
充「なあ、真白」
真白「なに?」
充「俺、お前に伝えたいことがあるんだ」
真白「私も……充に伝えたいことがあるの」
充「……」
真白「……」
充「……もう少し、こっち来いよ」
真白「……なんでよ?」
充「少しでも暖を取らないと凍え死ぬぞ」
真白「……」

真白が充の横に座る。

充「……多分、助けは明日になると思う」
真白「そうだね」
充「なんとか、今日、乗り切らないとならない」
真白「うん」
充「……だから、その」
真白「なに?」
充「真白っ!」

充が真白に抱き着く。

真白「ちょ、ちょっと充! なに?」
充「ずっと、ずっとこうしたいって思ってたんだ」
真白「……さっき、伝えたいことがあるって、このこと?」
充「ああ……」
真白「私もね、伝えたいことがあるって言ったよね?」
充「なんだ?」
真白「……」
充「……」
真白「ふんっ!」
充「がはっ!」

真白が充の腹に強烈な一撃を入れる。

充「がふっ……」

倒れる充。

真白「ずっとこうしたかったのよね。あんたに強烈な一撃を入れたかったの。あー、清々したー」

ビューっと外では強い風が吹いている。

真白「ううー。寒い寒い。……さてと、充を転がしてっと」

真白が蹲って気絶している充を仰向けに寝かせる。

真白「よし」

真白が充に抱き着く。

真白「あー、暖かい。これなら朝まで持ちそうかな」

ビューっと外では強い風が吹いている。

終わり。

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