言霊が招いた天下統一
- 2023.03.02
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:5人以上
時間:15分
■ジャンル
ボイスドラマ、時代劇、コメディ
■キャスト
藤吉郎・秀吉
寧々
男1~男2
信長
家臣
■台本
村の外れ。
藤吉郎と男1が話している。
男1「なあ、藤吉郎。言霊って知ってるか?」
藤吉郎「なんだよ、急に。あれだろ? 夜に丸い火の玉みたいなのがフラフラ飛ぶ奴だろ?」
男1「それは人魂」
藤吉郎「……わ、わざとだよ、わ、ざ、と!」
男1「言霊って言うのは、言葉に力が宿るってことなんだよ。つまり、言ったことが本当になるって話」
藤吉郎「なんか、嘘くさい話だな」
男1「お前もさ、くだらない嘘をつくよりも、もっとこう、大きなことを言ったらどうだ?」
藤吉郎「大きなことっつってもなー。戦で手柄を上げる! とかか?」
男1「ちっちぇなー。本当に、お前の器は小さすぎる。その程度で大きなことなんて、男として恥ずかしいぞ」
藤吉郎「……俺は天下統一をする!」
男1「ぎゃはははは。いいね。それくらいじゃなくっちゃ。けど、ま、雑兵の俺たちには無理だよなー」
藤吉郎「……いや、俺はやるぞ! 天下統一をしてみせる!」
男1「……なんだよ、さっきの器が小さいって言ったこと、根に持ってるのか?」
藤吉郎「ち、ちげーよ! 俺はそんなことを気にするほど、器は小さくねーって」
男1「……いや、気にしてるだろ。思いっきり」
そこに男2がやってくる。
男2「あ、いたいた。おーい、藤吉郎!」
藤吉郎「ん? どうした?」
男2「どうしたじゃねーよ。約束の日、今日だぞ。ちゃんと用意してるのか?」
藤吉郎「え? なんだっけ?」
男2「はあ……。お前なぁ。度胸試しの件だよ。誰が一番、度胸を示せるかって賭けをやってただろ」
藤吉郎「……あー。そうだった!」
男1「お前ら、またくだらないことを……」
男2「留吉(とめきち)は熊の穴から、子熊を取ってきたんだぞ」
藤吉郎「え? 本当に? お前は?」
男2「俺はうめちゃんのかんざし取っただけ」
藤吉郎「それはそれで、すげーけどな。見つかったら殺されるぞ」
男2「ば、バレなきゃいいんだよ、バレなきゃ。それで、お前はどうするんだよ?」
藤吉郎「……そうだなぁ。あ、そういえば、今、信長様、来てるんだよな?」
男1「ん? ああ、そういえばそんなこと言ってたな。それがどうした?」
藤吉郎「俺は、信長様の草履を取ってきてやるよ」
男1「ばっ! お前、殺されるぞ、本気で」
藤吉郎「大丈夫大丈夫。まあ、見とけって」
場面転換。
館に忍び込む藤吉郎。
藤吉郎「えーっと、確か、この部屋に信長様が泊ってるはず……。お、あったあった。信長様の草履。さてと、これを拝借してっと」
懐に草履を入れる藤吉郎。
藤吉郎「へっへっへ。これで賭けは俺の勝ちだな」
そのとき、扉が開く。
信長「お前……何をしてるんだ?」
藤吉郎「へ? あ、ああ……えっと、これはその……温めてました」
信長「温めるだと?」
藤吉郎「はい。このように懐に入れておけば、信長様が履くときに温かいかと思いまして」
信長「はっはっは。お前、面白い奴だな」
藤吉郎「あ、ありがとうございます」
場面転換。
街の外れ。
男1「いやあ、お前、本当にスゲーな。まさか、信長様の家来になるなんて」
藤吉郎「は、ははは。まあ、ざっと、こんなもんよ」
場面転換。
遠くで合戦の音が聞こえてくる。
信長「やはり、劣勢か」
家臣1「……信長様。もはや、これまでかと」
信長「……ふーむ。猿よ」
藤吉郎「は、はい! なんでしょう?」
信長「何か、よい策はないか?」
家臣1「信長様! このような者が策を持っているなど……」
信長「今は猿の知恵でも借りたいところだ。なあ、どうだ?」
藤吉郎「あー、その……そうですね。戦は大将の首を取れば勝ちなので、そこを突くのはどうですかね?」
家臣1「はあ……。それができれば苦労はしないわ! 今川義元がどこに陣を張っているのか、わかるのか!?」
藤吉郎「いや、それは……」
信長「よし、猿よ。調べてこい」
藤吉郎「は?」
信長「期待しておるぞ」
藤吉郎「あー、いや……」
場面転換。
雨の中を走る藤吉郎。
藤吉郎「くそ。厄介なことになったぞ。どうする? ……あれ? そうえば、前に今川家に仕えてたからな。その情報網を使ってみるか」
場面転換。
街の外れ。
男1「藤吉郎、ホントにスゲーな。桶狭間で大活躍だったんだって?」
藤吉郎「はっはっは。まあな」
男2「なあ、そういえばさ、寧々って女のこと知ってる?」
男1「ああ。浅野家の養女だろ?」
男2「すげー、美人って話だぞ」
藤吉郎「ふーん」
男2「なあなあ、見に行こうぜ」
藤吉郎「うーん。あんま、気が進まんな」
場面転換。
屋敷に忍び込む3人。
男2「あ、いたいた。あそこあそこ」
男1「ちょ、押すなって」
藤吉郎「うわあああ!」
倒れこむ3人。
寧々「……あなた達、何をしてるの?」
男2「あー、いや、ちょっと……」
寧々「まったく。雑兵の分際で、こんなところに入り込むだなんて、本当に最悪ね」
男2「なんだよ、生意気な女だな!」
寧々「ふん!」
男1「けど、まあ、そんな態度を取れるのはそこまでだぞ」
男2「そうだな。こっちには藤吉郎がいる」
藤吉郎「……は?」
男1「お前なんて、藤吉郎にかかれば、一瞬で落ちるに決まってる」
藤吉郎「ちょちょちょ、何言ってるんだよ!」
男2「大丈夫だって。お前なら、あんな女、すぐに落とせるって。なんせ、雑兵から信長様の家臣になった男だからな」
藤吉郎「んな無茶苦茶な……」
寧々「あり得ないわ。私がそんな男の虜になるだなんて」
男1「じゃあ、勝負だ! 藤吉郎がお前を落とせるかどうか」
寧々「いいわよ、受けて立つわ」
藤吉郎「……え? いや、勝手に決めるなよ」
場面転換。
屋敷の入り口。
ガラガラと扉が開く。
寧々「あら、あなたは昨日の……」
藤吉郎「昨日の無礼を謝りに来たんだ。あと、その、賭けについては忘れてくれ」
寧々「いいの? そんなこと言っちゃって。お仲間に恨まれない?」
藤吉郎「いいんだよ。別に、あいつらが勝手にやった賭けだしな。それに……」
寧々「それに?」
藤吉郎「こんな猿顔に付きまとわれたら、お前だって嫌だろ?」
寧々「ぷっ! あははははは」
藤吉郎「なんだよ?」
寧々「自分からそんなことを言う人なんて珍しいわね。男なんて、自尊心の塊だと思っていたのに」
藤吉郎「はは。自尊心なんて持ちたくても持てないよ」
寧々「あら、そう? 信長様の家臣なんて、凄いと思うわよ」
藤吉郎「あれは運だよ、運」
寧々「あなた、面白い人ね。中に入らない? お茶くらい出すわよ」
藤吉郎「渋くないやつで頼む」
場面転換。
城の中。
展望台から外を見ている秀吉。
秀吉「……」
そこに寧々がやってくる。
寧々「秀吉様、これですべてが終わりましたね」
秀吉「おいおい寧々。様付けはやめてくれよ、気持ち悪い」
寧々「そうね。私も気持ち悪いと思ったわ。でも、今は、あなたは天下人。正室でも態度は改めないと」
秀吉「せめて2人の時は今まで通りにしてくれ」
寧々「……色々あったわね」
秀吉「ああ。信長様の無茶で、一夜城を建てさせられたり、金ヶ崎の戦いではしんがりを任された」
寧々「……そして、信長様が亡くなった」
秀吉「光成を倒して、あれよあれよという間に、なぜか天下人だ」
寧々「ふふふ」
秀吉「なんだよ?」
寧々「周りから勝手に期待されて、その期待に無茶をして応えただけなのにね」
秀吉「本当だよ! みんな、期待してるってテイで俺に押し付けただけだ」
寧々「断ればよかったのに」
秀吉「いや、断れる雰囲気じゃなかったんだよ」
寧々「ふーん」
秀吉「あーあ、すべては一つの見栄から始まったんだよなぁ」
寧々「見栄?」
秀吉「ああ。度胸試しで、信長様の草履を盗むっていうのをやったんだ。あれで、信長様の家来になって……」
寧々「で、こうなった、と?」
秀吉「ああ」
寧々「後悔してる?」
秀吉「んー。後悔したことはあったかな」
寧々「でも、もし、その見栄がなかったら、私とも出会ってなかったんじゃない?」
秀吉「そう考えれば、あの見栄は良かったのかもな」
寧々「もう、かも、ってなによ、かもって」
秀吉「ごめんごめん。確かに後悔することはあっても、今は、これでよかったと思ってる」
寧々「本当に?」
秀吉「ああ。本当だ」
寧々「なら、許してあげる」
秀吉「……あ」
寧々「どうしたの?」
秀吉「寧々、言霊って知ってるか?」
寧々「もちろん。夜に炎の玉がゆらゆら飛ぶやつでしょ?」
秀吉「……それは人魂だ」
寧々「……わ、わざとよ。わざと」
秀吉「言霊って言うのは、言葉に力が宿るってことなんだよ。つまり、言ったことが本当になるって話」
寧々「ふーん。嘘くさいお話ね」
秀吉「で、昔、その話を聞いたとき、俺は冗談で天下統一するって言ったんだ。今考えると冗談でも言えないことなんだけど」
寧々「じゃあ、その言霊の力で、あなたは天下統一できたってこと?」
秀吉「そうかもな、って話」
寧々「うーん。私はそう思わないけど」
秀吉「今になって思えば、信長様は死なせないって言っておけばよかったなぁ」
寧々「……」
秀吉「周りのやつらは俺を置いて、みんな死んでいった……」
寧々「……」
秀吉「……お前は俺を置いていかないでくれよ」
寧々「じゃあ、私の言霊。私は絶対に、あなたより先に死なない。83歳くらいまで生きるわ」
秀吉「ははは。それは心強い」
終わり。
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