背中

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■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
ドラマ・漫画原作、現代、シリアス

■キャスト
学(まなぶ) プロボクサー ※それぞれのシーンの年齢は台本内()に記載
綾人(あやと) プロボクサー ※それぞれのシーンの年齢は台本内()に記載
アナウンサー
観客1~2
練習生1~2
対戦相手 ※台詞なし

■台本

〇山道
綾人(8)と学(6)が山登りをしている。
綾人が前を歩き、学が少し遅れている。
学はかなり苦しそう。

学「はあ、はあ、はあ……」

綾人が立ち止まって振り向く。

綾人「大丈夫か、学」
学「……はあ、はあ、はあ」

〇ボクシングジム
学(15)が18歳くらいの練習生とスパーリングをしている。

学「ふっ!」

学のボディが入り、練習生が怯んだところへ右フックで倒す。

学「ふう」

リングの外で見ていた綾斗(17)が手を叩く。

綾人「よーし、学、良い仕上がりだな」
学「……いや、良い仕上がりって言っても、別に試合もないし。てか、ライセンスも取れねーし」
綾人「まあ、な。けど、15でプロを倒すなんてなかなかの逸材だと思うけどな」
学「それ、嫌味? 俺、プロになってない綾兄ぃにボコボコにされるんだけど」
綾人「いやいや。俺2歳年上だからさ」
学「……今度のプロテスト、絶対受かれよ」
綾人「任せとけ。先に、プロになって待ってるからな」
学「……」

〇ボクシングの試合会場
綾人(17)が試合をしている。
その様子を観客席から見下ろしている学(15)。
綾人の右スレートが決まり、相手が倒れる。
同時にゴングが鳴り、試合が終了する。

アナウンサー「決まったー! 綾斗選手、なんと新人王決勝をKОで勝利を飾りました。これで4戦連続KО勝利です」

学が悔しそうに拳を握り締めている。

〇プロテスト会場
リングの上で学(17)がテストを受けている。
学の右フックが相手にヒットし、相手がダウンする。
学が右手を上げる。

〇ボクシングジム(夜)
リングで学がシャドーボクシングをしている。
周りには練習生がいなく、学一人。
学は尋常じゃないほどの汗が流れている。

学「しっ、しっ、しっ!」
綾人「遅くまで熱心だな」

学が手を止め、振り向くとリングサイドに綾斗が立っている。

綾人「プロテスト、合格したんだってな。おめでとう」
学「……綾兄ぃも、5度目の防衛成功、おめでとう」
綾人「あはははは。ありがと。……学。ベルト持って待ってるからな」
学「ああ。すぐ追いつく」

再びシャドーボクシングを再開する学。
綾人が嬉しそうにその姿を見ている。

〇試合会場
リングの上で学が試合をしている。
学の右フックがさく裂して、相手がダウンする。
同時にゴングが鳴る。

学「はあ、はあ、はあ……よし!」
アナウンサー「学選手、全日本新人王決定戦を制しました!」

学が顔を上げると観客席で拍手している綾斗が見える。

学「すぐ、追いつくからな」

〇試合会場
綾人が試合をしている。
相手の右ストレートをカウンターで合わせる。
対戦相手がロープまで吹き飛び、綾斗が追う。
そして、ラッシュの嵐。
対戦相手は手を出せず丸まっているだけ。
レフェリーが割って入り、手を交差させる。
ゴングが鳴り、会場が湧く。

アナウンサー「強い強い、つよーい! 綾斗、これで8回目の防衛成功。そしてチャンピオンになってから、全ての試合がKОという圧倒的な強さです」

観客席でジッとリングを見ている学。

観客1「……けどさ、なんで綾斗は世界にいかないんだろうな?」
観客2「世界でも全然、通用すると思うんだよな」
観客1「せめて、東洋とかいけばいいのに」
学「……」

会場を後にする学。

〇ボクシングジム
必死にサンドバックを叩く学。

練習生1「おお、学、気合入ってるな」
練習生2「そりゃそうだろ。A級獲れば王者に挑戦できるんだからな」

一心不乱にサンドバックを叩く学。

〇山道
学が上り坂を走っている。

学「は、は、は……」

走っていると、子供の頃の綾斗の姿がフラッシュバックする。
子供の頃の綾斗が振り向く。

綾人「大丈夫か、学」

学はスピードを上げ、綾斗の姿を追い抜かす。

〇試合会場
学が試合をしている。
学はボロボロ。
得意の右フックを繰り出すが、躱されてカウンター気味にアッパーを食らう。
膝から崩れ落ち、四つん這いの状態になる学。
レフェリーが両手を振って、試合終了。
ゴングが鳴り響く。

アナウンサー「決まったー! A級は雅人が制したー! これで、雅人は日本王者の綾斗に挑戦することができます!」

学が悔しそうにリングをガンガンと殴る。
その様子を綾斗が寂しそうな顔で見つめている。

〇山道
試合の次の日。
学の顔はボロボロの状態。
山道を走る学。

学「はっ、はっ、はっ!」

そこに綾斗がやってきて、並んで走る。

綾人「……惜しかったな、学」
学「……」

二人で並走しているが、ダメージのせいで学が遅れ始める。
学が顔を上げると綾斗の背中が見える。
それを悔しそうに、悲しそうに見る。

学「……」

綾人が気づいて、立ち止まり振り向く。

綾人「……大丈夫か、学」
学「行けよ!」
綾人「え?」
学「どんなに離されても絶対に追いつくから。……追い抜くから。だから、先に行けよ!」

綾人が寂しそうに笑みを浮かべる。

綾人「わかった。もう、待つなんて言わないよ」

綾人が坂道をダッシュして登っていく。
みるみるその姿が小さくなっていく。

学「……」

それでも見失わないように走り出す学。

〇試合会場
綾人が試合をしている。
相手は外国人。
綾人の右ストーレートが入り、対戦相手がダウンする。
レフェリーが試合を止め、ゴングが鳴る。

アナウンサー「綾斗、世界前哨戦を制しました。ついに世界王者に挑戦です」

学がリングの上で喜ぶ綾斗をジッと見る。
そして、笑みを浮かべる。
振り返り、会場を後にする学。
その拳は強く握りしめられている。

終わり。

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