【シナリオ】復讐代行

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〇 病室

  意識不明の高藤達也(28)がベッドで寝ている。

  その横では心電図から、一定の間隔で音が鳴っている。

  そこに高藤樹(26)が花束を持って入ってくる。

樹「よお、兄貴、調子はどうだ?」

達也「……」

  樹が花瓶の花を新しいものと入れ替えている。

樹「新しい情報が入ってさ、もう少しで手がかりがつかめそうなんだ」

  病室に看護師が入ってくる。

看護師「あの……高藤さん。ちょっといいですか?」

〇 病院・部屋

  医師と看護師が並んで座り、テーブルを挟んで、対面に樹が座っている。

樹「……そう、ですか」

医師「ええ。最近、衰弱が酷く、もってあと一か月というところです」

樹「わかりました。最後まで、兄貴のこと、よろしくお願いいたします」

  ペコリと頭を下げる樹。

〇 病院・廊下

  樹が歩いていると、ポケットの中の携帯が震える。

  ポケットから携帯を取り出し、画面を見る。

  アプリから連絡が来ていて、それを開くと『誅』の文字が書いてある。

〇 一室

  部屋の真ん中にはテーブルがあり、5人ほどの人数が座っているが、部屋の中は暗く、顔までは見えない。

  ドアが開き、樹が部屋に入ってくる。

樹「……」

  樹は椅子には座らず、壁に寄りかかる。

  逆の壁からプロジェクターのスクリーンが降りてくる。

  そして、スクリーンに映像が映し出される。

〇 スクリーンの画面

  笑顔の今野権蔵(68)が映し出される。

女性の声「今回のターゲットは今野権蔵、68歳。表向きは今野商事の社長になっています。今野商事は金融業者、いわゆる、町金と呼ばれる金貸しです」

  政治家と、料亭で食事をしている今野。

女性の声「政治家との強い繋がりもあり、建設業も営んでいます」

  次に、今野と暴力団員と握手している画像に切り替わる。

女性の声「また、暴力団とのパイプを持っている為、集金や地上げなども、この組を使っています。そのほか、政治家がもみ消したい事案等をこの暴力団に依頼する、いわば政治家と暴力団の橋渡しをしています」

  今野が高級なキャバクラで遊んでいる映像に切り替わる。

女性の声「また、今野は無類の女好きということで有名で、狙った女は必ずものにすると豪語するほどです。用意周到で、家族に借金をさせ、狙った女性を借金のかたに手に入れ、その後風俗などに売るなどいうことも常習的にやっています」

〇 部屋

  スクリーンに映し出された画像が消え、再び部屋が暗くなる。

女性の声「今回の依頼者は、妹を今野に奪われた男性です。元々、借金を背負わされていた為、報酬として出せる金額は百万となります。正直、ここまでの大物相手に少なすぎますが、それでもやってもいいという方?」

  樹がすっと手を挙げる。

女性の声「それでは、今回は獅子座さんにお願いいたします」

  僅かな明かりも消え、部屋が真っ暗になる。

〇 街中

  ポケットに手を入れて歩く樹。

樹「……」

  樹の後ろから、男の子が走ってきて、樹を追い越す。

  そして、振り向きながら、後ろにいる弟に声をかける。

男の子「おい、早く来いよ」

弟「兄ちゃん、待ってー」

  二人が、走っていく。

樹「(その二人の背中を見て)……」

〇 街中(回想)

  人混みを縫うようにして走る、達也(10)と樹(8)。

達也「(振り向いて)ほら、樹、早く来いって」

樹「兄ちゃん、待ってぇ!」

〇 公園

  樹が三人の男の子に囲まれ、殴られている。

男の子1「ちょっと、女の子にモテるからって調子に乗るなよ!」

  樹が殴られて、倒れる。

  その顔を男の子2が踏みつける。

達也の声「てめえら、何やってんだ!」

  達也が走ってきて、男の子2に殴りかかる。

  時間経過。

  倒れている樹に、手を伸ばす達也。

達也「大丈夫か、樹」

樹「うん、ありがとう兄ちゃん」

  達也の手を握って起き上がる樹。

樹「いつも、ごめんね」

達也「何言ってんだよ。たった二人だけの家族だろ? 助け合うのは当然だって」

〇 貸倉庫裏(雨)

  達也(25)が腹から血を流して倒れている。

  そこに樹(23)がやってくる。

  樹が達也を抱きかかえる。

樹「兄貴、しっかりしろ! 兄貴―!」

  回想終わり

〇 街中

  樹が歩いていると、前から今野が歩いてくる。

  そして、すれ違い様に樹は今野の後ろの首筋を人差し指で突く。

  数メートル歩くと、今野が突然倒れる。

  気にせず、歩き続ける樹。

〇 ビル・廊下

  携帯を見ながら歩く、樹。

  携帯には『今野氏、心臓発作で死去』という記事が出ている。

  樹が携帯をポケットに入れ、立ち止まり、ドアを開いて中に入る。

〇 同・部屋

  部屋の中は薄暗い。

  そして、イスには誰も座っていない。

  突如、壁に掛かっているスクリーンに、映像が映し出される。

  映像は今野と暴力団が握手している画像。

女性の声「今回、私たちの調査で、今野と繋がっていた、村田組が依頼人の兄の殺害を命じたことを突き止めました」

樹「……」

女性の声「実行犯はこの三人」

  スクリーンに三人の写真が映し出される。

女性の声「右から高下恭弥、三島隆、今川良太」

  そして、違う男二人が映し出される。

女性の声「指示したのはこの二人。下田耕介と新田将司です」

樹「……」

女性の声「後程、詳しい資料の方はデータでお送りします。以上で、調査報告は終わりになります」

樹「調査、ありがとうございました。……次は代行の依頼をさせてください」

女性の声「……報酬の提示とターゲット、そして、罪の内容をお願いします」

樹「報酬は一億。ターゲットは俺」

女性の声「……」

樹「罪の内容は、金の為だけに人を大勢殺してきたことと……兄を守れなかったこと」

女性の声「……かしこまりました」

〇 病院・病室

  意識不明の達也がベッドで寝ている。

  その横では心電図から、一定の間隔で音が鳴っている。

  その達也を見下ろしている樹。

樹「兄貴、やっとだ。やっと見つけたよ。いつも俺を助けてくれた兄貴……。俺さ、今度は俺が兄貴を助けたいって思って強くなったけどさ……。結局、それもできなかった……。だからさ、せめて仇は取ってみせる」

  振り向き、達也に背を向ける樹。

樹「それじゃ、行ってくるよ、兄貴。……そして、さよなら」

  樹がドアを開けて部屋を出る。

〇 同・廊下

  廊下を歩く樹。

  その目は真っ直ぐ前を見ている。

終わり

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