誰のために

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■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
舞台、ドラマ、現代、シリアス

■キャスト
桑原 健太郎(くわばら けんたろう)
涼介(りょうすけ)
部長
社員1~2
美咲

■台本

〇会社

机に向かってパソコンで入力作業を行っている健太郎。

健太郎「さてと、次は……」

手を止めて、今度は机から書類を出し、その整理を始める。

そこに涼介が書類を手にやってくる。

涼介「桑原さん、ここなんですけど……」

健太郎「ん?」

涼介「ここの金額が合わないんですけど……」

健太郎「あー、後で調べておく」

涼介「お願いします」

涼介が書類を健太郎の机に置いて、去っていく。

健太郎が書類の整理を再開する。

〇同(夜)

周りの同僚たちが帰っていく。

その中に涼介もいる。

涼介「お先に失礼します」

健太郎「お疲れさまー」

健太郎はまだ仕事をしている。

健太郎の周りには1、2人くらいしか人がいない。

集中して作業をしている健太郎。

他の社員がやってくる。

社員「桑原さん、さっき、送った共有フォルダを見てくれますか?」

健太郎「え? あ、はい」

手を止めて、マウスを操作する健太郎。

〇同(深夜)

パソコンのキーボードを打っている健太郎。

手を止め、座ったまま伸びをする健太郎。

周りを見て見るが、誰もいない。

健太郎の近く以外の電気も消えている。

健太郎が時計を見る。

時刻は24時6分。

健太郎「おっと、ヤバいヤバい。終電逃しちまう」

慌ててた立ち上がり、帰り支度をする。

〇会社(朝)

欠伸をしながらも、仕事をしている健太郎。

周りにはまだ数人しかいない。

徐々に、社員が出社してくる。

〇同(昼)

仕事をしている健太郎。

そこに部長がやってくる。

部長「桑原。この前の案件、どうなってる?」

健太郎「あ、今、書類、まとめてます」

部長「もう、4日経つぞ。早くしろよ」

健太郎「はい、すみません」

部長「頼んだぞ」

部長が行ってしまう。

健太郎が再び仕事をする。

〇廊下

トイレから出てくる健太郎。

通りがかりの給湯室から声が聞こえる。

社員1「この前の案件どうだった?」

社員2「オッケー貰ったよ。桑原さんに手伝ってもらったからさ」

社員1「あー、さすが桑原さんだよな。あの人、すげー仕事できるよな」

社員2「人の3倍くらい、できるんじゃね?」

社員1「あの人いないと、この部署、回らないもんな」

それを聞いて、嬉しそうにほほ笑む健太郎。

〇会社(夜)

仕事をしている健太郎。

周りにはほとんど人がいない。

そこに美咲がやってくる。

美咲「桑原さん、ちょっといいですか?」

健太郎「え? あ、はい、なんでしょうか」

美咲「人事部の宮崎です」

健太郎「はい……」

美咲「桑原さんの月の残業時間が150時間越えてるんですけど……」

健太郎「あー、すみません。気を付けます」

美咲「あの……。もう5ヶ月以上前からメールで注意させていただいていると思うんですけど」

健太郎「……すみません。たぶん、今月すぎっれば落ち着くと思いますから」

美咲「……」

美咲が近くの椅子に座る。

美咲「桑原さんのことは周りの社員にもヒアリングさせていただきました」

健太郎「……」

美咲「かなり頼られているみたいですね」

健太郎「いや、まあ……」

美咲「桑原さんがいないと、部が回らないとまで言ってる人もいました」

健太郎「大げさですよ」

美咲が真剣な顔になる。

美咲「勘違いされているようですけど、桑原さんの仕事のやり方は、会社からして見ると迷惑です」

健太郎「……え?」

美咲「桑原さんが仕事ができることはわかります。それは素晴らしいことだと思います。ですが、そのせいで、他の人が桑原さんに頼っている状態になっています」

健太郎「それのどこが悪いんですか?」

美咲「業務バランスが崩れています。見てください。今、残業しているのは桑原さんだけですよ」

健太郎「え?」

周りを見渡すが、誰もいない。

美咲「業務が一人に集中しています。そして、それは桑原さんがいないと業務に影響が出る状態になっています」

健太郎「……」

美咲「それは桑原さんがブラックボックスを靴っているということなんです」

健太郎「そんな、大げさな……」

美咲「もし、桑原さんがいなくなれば、業務に多大な影響が出ます。わかりますね」

健太郎「ま、まあ……」

美咲「それは会社にとって、リスク以外のなにものでもないんです。だから、迷惑だって言ってるんです」

その言葉に思わず、カッとなってしまう健太郎。

健太郎「そんな言い方ないんじゃないんですか!? 僕は必死に仕事してるだけですよ」

美咲「……もしかして、桑原さん。自分が頼られて嬉しいとか、悦に入ってませんか? 他の人よりも仕事ができるという優越感の方ですかね」

健太郎「そ、そんなことないですよ」

美咲「こうも、思ってませんか? 今、自分がやめればこの部署は終わりだって」

健太郎「……」

美咲「言っときますけど、自惚れも良いところです」

健太郎「なっ!?」

美咲「まあ、最初の2、3日は混乱するでしょうね。でも、あんたの仕事なんて、誰かがやるようになるんです。手分けして」

健太郎「……いや、でも」

美咲「信じられないって顔してますね。では、私と賭けをしませんか?」

健太郎「賭け?」

美咲「これから2週間、有休をとってください」

健太郎「2週間!? そんなの無理ですよ!」

美咲「……ホントにそうですか?」

健太郎「え?」

美咲「それが自惚れだって言っているんですよ。とれますよ、2週間くらい」

健太郎「いや、無理ですよ。色々な案件を抱えてるんですから」

美咲「もちろん、仕事内容は共有しておいてください。関連するファイルの場所を一覧にして貼っておくだけでいいです」

健太郎「……」

美咲「2週間後。この部署がまだ混乱していたら、桑原さんの勝ち。落ち着いていたら私の勝ちです」

健太郎「そ、そんなの何の意味もない」

美咲「怖いんじゃないんですか? 自分が不要な人間だと思われるんじゃないかって」

健太郎「……」

美咲「部長には話を通しておきます。これから2週間、有休をとってください。いいですね?」

健太郎「……」

〇会社(朝)

出社してくる健太郎。

社員3「あ、桑原さん、久しぶりですね。体休めました?」

健太郎「ああ、うん。大分ね。それより、仕事どうだった?」

社員3「いやあ、大変でしたよぉ」

健太郎「大変……でした?」

そこの部長がやってくる。

部長「すまんかったな、桑原。まさか、倒れる一歩手前だったなんて」

健太郎「いや、その……ご迷惑おかけしました」

部長「いやいや、いいんだ。俺たちがお前に頼り過ぎてただけだったんだよ」

〇同(昼)

仕事をしている健太郎。

手を止めて伸びをする。

辺りを見渡すとみんな仕事をしている。

健太郎「……」

〇同(夜)

仕事をしている健太郎。

手を止める。

健太郎「……」

健太郎が立ち上がり、部長のところへ行く。

健太郎「タスク終わったんですけど、他に作業ありますか?」

部長「ん? あー、いや、もう定時過ぎてるからな。上がっていいぞ」

健太郎「え?」

〇会社(夜)

仕事をしている健太郎。

そこに涼介がやってくる。

涼介「桑原さん、今日、飲みに行きません?」

健太郎「ああ、うん。ちょうど今日のタスク終わったしいいよ」

涼介「じゃあ、行きましょ!」

〇会社(夜)

21時。

会社内にはもう誰もいない。

終わり。

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