惚れ直して欲しい

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■概要
人数:5人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ

■キャスト
至(いたる) 17歳
美紗希(みさき) 17歳
辰巳(たつみ) 17歳
教師
不良
男の子

■台本

至(N)「僕には大好きな人がいる。そして、幸運なことに、その大好きな人は僕のことを好きと言ってくれている。そのことはすごく嬉しい。……でも、僕自身、どうして美紗希さんが僕のことを好きでいてくれるのかわからない。だから僕は……美紗希さんに嫌われるのが凄く怖いんだ」

教室内。
昼休みに至と美紗希がお弁当を食べている。

至「……はあ」
美紗希「至くん。そんなに落ち込まないで。ご飯食べて、忘れよ」
至「う、うん。ありがとう、美紗希さん」
美紗希「はい、あーん」
至「うう……。それはちょっと恥ずかしいよ」
美紗希「……え? 恥ずかしいの?」
至「あ、あーん」
美紗希「ふふ。はい、あーん」

美紗希が至の口におかずを入れる。
至がおかずを食べる。

至「うわあ、すっごく美味しい!」
美紗希「でしょ? 昨日の夜から仕込んでおいたんだ」
至「ええー。そんなに手間かけなくていいのに」
美紗希「何言ってるのよ。好きな人に美味しい物を食べてもらいたい。そのためなら、女の子は頑張れるんだよ」
至「ありがとう、美紗希さん」
美紗希「ふふ。至くんに喜んでもらえて、私、嬉しい」
至「……」

場面転換。
至と辰巳が歩いている。

辰巳「アホか」
至「うう……ごめん」
辰巳「いいじゃねーか。あっちが好きだって言ってくれてるんだから」
至「でもさ、このままだと嫌われそうで怖いんだ」
辰巳「うーん……。確かにお前は勉強も運動も、要領も、コミュ力も絶望的に終わってるからな」
至「うう……」
辰巳「そんなお前に、美紗希さんが惚れてるっていうのが、学校の……いや、世界の七不思議の一つだな」
至「うわああああ!」
辰巳「そんなに悩むなら、嫌われないように努力すればいいだろ」
至「……してるつもりなんだ。全力で」
辰巳「……マジか」
至「う、うん……」
辰巳「まあ、お前はセンスもないからなぁ」
至「お願い、辰巳くん! 協力してほしいんだ」
辰巳「うーん。面倒だなぁ」
至「お願い! 辰巳くんにしか頼めないんだ。っていうか、こうやって話せるのは美紗希さんと辰巳くんしかいないんだよ」
辰巳「……しゃーねーな。週に一回、ジュース奢れ」
至「ありがとう!」

場面転換。
至の部屋。

辰巳「いいか。一番、早く、確実に成果を出せるのは勉強だ。しかも、明日はテストだからな。ここで一発、100点をとれば、美紗希さんだって、見直すだろ」
至「ええー。100点なんて無理だよ!」
辰巳「まあ、そういうと思って、ヤマを張っておいた。十中八九、明日はここが出る。ここだけを覚えろ」
至「ありがとう! 辰巳くん!」

場面転換。
教室内。

教師「至、今回のテストは頑張ったな」
至「ありがとうございます!」
教師「31点。ギリギリ赤点を超えたな。偉いぞ」
至「……」
辰巳「……」

場面転換。
昼休みの教室内。
お弁当を食べている、至と美紗希。

至「うう……」
美紗希「落ち込まないで、至くん。すごいじゃない! 赤点じゃなかったんでしょ?」
至「そ、それはそうだけど……。それで、その、美紗希さんはどうだったの?」
美紗希「え? 私? 私は100点だったよ」
至「そ、そうだったんだ……」

場面転換。
公園。
至と辰巳が向かい合っている。

辰巳「まあ、テストのことは忘れて、切り替えろ。引きずっても意味がない」
至「う、うん……」
辰巳「次は運動を頑張るぞ。明日はサッカーで、女子は100メートル走だ」
至「それが?」
辰巳「はあ……。鈍いなぁ。つまり、男子も女子もグラウンドにいるってことだ。そして、女子は100メートル走だから、休んでる時間が多い」
至「……あっ!」
辰巳「そう。つまり、女子に見られている可能性が高いんだ。もちろん、美紗希さんにもな」
至「ぼ、僕、頑張るよ!」
辰巳「よし! まずは何が何でも、点を取れ! 明日は俺がアシストしてやるから、絶対に決めるんだぞ」
至「ぼ、僕、できるかな……?」
辰巳「だから、シュートの練習を徹底的にやるぞ」
至「うん! わかった」

場面転換。
サッカーをしている男子たち。
遠くから、女子の声援も聞こえてくる。
辰巳と至が走っている。

辰巳「よし! パスだ!」

辰巳がボールを至にパスする。

至「ありがとう、辰巳くん! やあ!」

空振って転ぶ至。

至「うわああ!」

周りからドッと笑いが起こる。

辰巳「……」

場面転換。
昼休みの教室。
至と美紗希がお弁当を食べている。

至「うう……」
美紗希「カッコよかったよ、至くん」
至「そんなことないよ。派手に転んだんだよ?」
美紗希「いいのよ、それで。至くんは至くんなんだから」
至「で、でも……」

場面転換。
公園。
至と辰巳が向かい合っている。

辰巳「まあ、サッカーのことはしゃーない。切り替えていくぞ」
至「……うう」
辰巳「安心しろ。次は最終奥義を使う」
至「最終奥義?」
辰巳「ああ。これは絶対に、美紗希さんがお前に惚れ直すはずだ」
至「ホント!?」
辰巳「ああ。任せろ」

場面転換。
至と美紗希が歩いている。

美紗希「うふふ。今日は至くんと一緒に帰れてうれしい」
至「あ、ありがとう。僕も嬉しいよ」

そのとき、遠くから怒号が聞こえてくる。

不良「おら! 出すもんだせや!」
男の子「ひ、ひい!」
至「っ!?」

至が走り出す。

美紗希「え? 至くん?」
至「おい! 弱い物イジメするな!」
不良「ああ? なんだ、てめえは?」
至「い、イジメなんて、ぼ、僕が許さないぞ」
不良「へー。おもしれえ、やってやるよ。うおおおお!」
至「やあああああああ!」

至が躓く。

至「あっ!」
不良「え?」

ボコっと、不良の拳が至に当たる。

至「うああああああ!」

至が倒れる。

不良「あ、しまった。当たっちまった」
至「う、うう……」
不良「……けっ。これに懲りたら、調子に乗るのは止めるんだな」

スタスタと逃げるように走っていく不良。

至「う、うう……」
美紗希「至くん、大丈夫?」
至「ぼ、僕……情けないよ」
美紗希「そんなことない、かっこよかったよ……ううん。可愛かった」
至「ううー……」
美紗希「ああ……。その顔、ゾクゾクしちゃう。惚れ直しちゃった」

それを遠くで見ている辰巳。

辰巳「……なんだよ。ただのSじゃねーか」

場面転換。
至と辰巳が歩いている。

至「うう……また失敗しちゃった。今度はどうしたらいいかな?」
辰巳「あー、いや、もう何もしなくていい」
至「それだと、美紗希さんに惚れ直してもらえないよ?」
辰巳「大丈夫だ。今のままでいろ。それでいい」
至「へ? どうして?」

終わり。

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