私は名探偵~外伝~ 月は見ていた
- 2023.10.10
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:5人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
ジョセフ 25歳
ライリー
ティーナ
テリー 37歳
テレーズ 49歳
■台本
ジョセフ(N)「私の名前はジョセフ。世紀の名探偵だ。……だが、世間ではそうは思われていない。なぜなら、私よりも先に、あいつが名前を上げたからだ。だが、あいつは引退したこれで、ようやく私の評価が上がる。……そう思っていた。……それなのに」
場面転換。
ジョセフ「ライリー! 貴様、なぜ、ここにいる!?」
ライリー「やあ、ジョセフくん。久しぶりだね」
ジョセフ「聞きたいのは、挨拶ではない! なぜ、貴様がここにいるか、だ! 引退したはずではなかったのか!?」
ライリー「誤解があるようだ。もちろん、私は引退した身だよ」
ジョセフ「なら、なぜ、ここにいる!? ここは事件現場、一般人が入れる場所ではない! 引退したというのなら、今すぐ、出て行け!」
ティーナ「私が先生にお願いしたんです。もちろん、警部に現場へ入る許可はいただいています」
ジョセフ「ああっ! ティーナさん! お久しぶりです」
ティーナ「文句があるのなら、先生ではなく、私に言ってください」
ライリー「ティーナくん。先生はやめてくれと言っているだろう。私はもう引退した身だよ」
ティーナ「いくら引退しようとも、先生は先生です」
ライリー「……まったく」
ジョセフ「あ、あの、ティーナさん。ライリーが引退したというのなら、私の事務所に来ませんか? 助手の席が今、偶然空いてるんです」
ティーナ「結構です」
ジョセフ「……」
ティーナ「さあ、先生。事件の内容を現場でお話しますので……」
ライリー「ティーナくん。ジョセフくんが来ているんだ。私の出番なんてないさ」
ジョセフ「そうだ! 貴様がいる必要なんてない! 私がいるんだからな!」
ティーナ「……ジョセフさん」
ジョセフ「はひっ、な、なんでしょうか?」
ティーナ「そういうことは、一度でも先生に勝ってから言ってもらえるでしょうか?」
ジョセフ「うっ!」
ティーナ「では、先生、行きましょう」
ライリー「ティーナくん。なんで、君はジョセフくんには、キツイんだ?」
ティーナとライリーが歩き去ってしまう。
ジョセフ「く、くそ……。見てろよ! この事件は絶対に私が解いてみせる!」
場面転換。
廊下をカツカツと歩くジョセフ。
ジョセフ(N)「……被害者が殺された部屋は誰でも入れる。一見すると、誰でも殺すチャンスがある……ように思える。だが、それは違う」
ぺらりと紙をめくる音。
ジョセフ(N)「事件発生時、ここは停電になっていて、暗闇に包まれていた。そんな中、正確に人を刺し殺すなんて無理だ。まして、相手は自分が狙われていることに警戒している」
ジョセフ「ふう……」
ジョセフ(N)「まさか、自殺? いや、違う。……全員の持ち物検査はしていて、誰も携帯はおろか、光源となるものは持っていなかった。……なら、どうやって」
ツカツカと部屋を歩き回るジョセフ。
ジョセフ「ん? これは……血文字? 被害者が書いたものか?」
ジョセフ(N)「……月? 咄嗟のことで、それだけしか書き残せなかったというわけか。だが、なぜ、月なんだ? 容疑者たちの中に、月に関係する人物はいないはず……」
ジョセフ「いや、待てよ。まさか!」
シャーっとカーテンを開ける音。
ジョセフ「そうか! わかったぞ!」
場面転換。
部屋に大勢の人が集まっている。
ティーナ「ジョセフさん。言われた通り、人を集めましたけど……」
ジョセフ「ありがとうございます、ティーナさん。では、始めましょうか」
ティーナ「何をです?」
ジョセフ「もちろん、私の推理ですよ」
ティーナ「まさか、犯人がわかったんですか?」
ジョセフ「ええ。すべて、解けました」
ティーナ「あ、あの、先生は……?」
ライリー「残念ながら。今回はジョセフくんの勝ちのようだ」
ジョセフ「ふっふっふ。そのようだな」
ティーナ「まだ、その推理が当たっているか、わかりません」
ジョセフ「ですから、今から、推理を披露します」
コホンと咳払いをするジョセフ。
ジョセフ「えー、被害者のセリーヌさんは、何者からか、脅迫されていました。なので、いつも警戒して暮らしていました。たとえ、今回のように、親戚相手でもです」
一同はシーンとしている。
ジョセフ「そして、セリーヌさんが殺害された、あのとき、停電が起きました。その隙に、犯人はセリーヌさんを刺し殺したのです」
テリー「ど、どうやって? 停電なんて、いつ起きるかわからないものを利用するなんて無理ですよ」
ジョセフ「ああ。その辺は問題ありません。あの停電は偶然ではなく、必然です。犯人が使ったと思われる装置は、既に発見しています。つまり、犯人はそれを使って、停電を引き起こしたのです」
テリー「停電ということは真っ暗ということですよ? そんな中、セリーヌさんの部屋まで行って、刺し殺すなんてことは無理だと思うのですが……」
ジョセフ「ええ。確かに。ここにいた皆さんは、光源となるものを持っていませんでした」
テリー「なら……」
ジョセフ「ですが、それは館の中なら、です」
テリー「へ?」
ジョセフ「外ならどうでしょうか?」
テリー「外?」
ジョセフ「そうです。犯人は月の光の中、外からセリーヌさんの部屋に行き、刺し殺し、そして、外に出て戻ったのです。現に、セリーヌさんの部屋の窓は空いていました」
テリー「いや、ですが、それは……」
ジョセフ「ふふふ。さらに、セリーヌさんはダイイングメッセージを残していました。……月、とね」
テリー「月?」
ジョセフ「そうです。カーテンを開いたときに、入って来た月の明かりを見て、咄嗟に月と書いたのです」
テリー「……」
ジョセフ「では、それが出来た人間は誰か……。外からでも完璧にセリーヌさんの部屋が分かる人物。それは建築にも携わったテリーさん、あなただ!」
テリー「え? ええ!? そんな! 違いますよ!」
ジョセフ「では、違うという証拠を出して貰いましょう」
ティーナ「……いいですか、ジョセフさん」
ジョセフ「な、なんですか、ティーナさん」
ティーナ「まず、証拠を出すのは推理をしたジョセフさんの方です。そして、なにより、あなたの推理は致命的なミスがあります」
ジョセフ「ミス? なんですか?」
ティーナ「あの日、外は大雨でした」
ジョセフ「大雨?」
ティーナ「つまり、厚い雲に覆われて、月は出ていなかったんです」
ジョセフ「……はっ! そ、そうだった……」
ライリー「……ふむ。そうか」
ティーナ「先生、なにかわかったんですか?」
ライリー「光源を持っていなければ、取りに行けばいい」
ジョセフ「……え?」
ライリー「この館には確か、停電時のための懐中電灯がありましたよね?」
ティーナ「え? そうなんですか?」
テリー「あるはずですけど、今はほとんど使わないので、どこにあるのか……」
ライリー「あなたなら、わかりますよね? テレーズさん。この館の家政婦であるあなたなら」
テレーズ「……」
ライリー「セリーヌさんはかなりの倹約家でした。なので、買ったものは、すべて領収書を出していたはずです」
ティーナ「……あ、単三電池」
ライリー「そう。この家に、単三電池で動くものはない。……懐中電灯を除いて」
テレーズ「……」
ティーナ「では、セリーヌさんが残した月という文字は……?」
ライリー「丸い光……満月のように、ね」
テレーズ「う、うう……。奥様が……奥様が悪いんですー! うわああああ!」
場面転換。
ティーナ「今回も、先生の勝ちですね」
ジョセフ「……」
ライリー「いや、今回はほぼ、ジョセフくんが解いたようなものだ。ジョセフくんがいなければ、この事件は解けなかったよ」
ジョセフ「だ、だろう!? そうだ、この勝負は私の勝ちだ!」
ティーナ「犯人を間違えたのに、ですか?」
ジョセフ「……」
ライリー「……ティーナくん、やめなさい」
ジョセフ「うう……。くそー! 次だ! 次は絶対に負けないからな!」
ティーナ「何度やっても同じです」
ライリー「いや、私は引退した身だ。もう、勘弁してほしいのだが……」
ジョセフ(N)「私はジョセフ。世紀の名探偵だ。。……だが、世間ではそうは思われていない。なぜなら、私よりも先に、あいつが名前を上げたからだ。ライリー。引退したくせに、私の邪魔ばかりする、最低の探偵だ」
終わり。