黒葛探偵事務所の不気味な依頼 6話 真夜中の番組

黒葛探偵事務所の不気味な依頼 6話 真夜中の番組

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■概要
人数:1~3人
時間:15分

■ジャンル
ボイスドラマ(朗読)、現代、ホラー・ミステリー

■キャスト
依頼者 女性
黒葛 女性 探偵
助手 男性

■台本

あるアパートの『105号室』にある黒葛《つづら》探偵事務所。
あたしはある悩みを解決してほしくて、ここにやってきた。

「どうも。黒葛《つづら》です」

格好いい男の子に案内されて、部屋の中に入ると、そこには思わず見とれてしまうほどの美人な女の人がいた。

「では、依頼の内容を話してくれますか?」

あたしは頷いて、悩みを打ち明ける。
 
********************************
あたし:真夜中に映った不気味な番組の正体を知りたいんです。
    でも、それを見たのはあたしだけで……。

黒葛 :それはテレビの番組ですか?

あたし:はい。そうです。

黒葛 :詳しい日時はわかりますか?

あたし:はい。
    初めて見たのは大体、1ヶ月前くらいです。
    あれは水曜日で、流れたのは深夜の2時半過ぎくらいだったと思います。

黒葛 :どんな内容のものでしたか?

あたし:えっと、なんか薄暗い画面で、バックは廃墟みたいな感じでした。
    そこに、たくさんの名前が文字で出てきて、
    ナレーターが淡々と読み上げるんです。
    そして、「最後に、お前だ!」と言ってくるという内容でした。

黒葛 :なるほど。
    それで、調べても、そんな番組はなかったということですね?

あたし:そうなんです。
    そんな不気味な番組なんて放送されてませんでした。
    次の日に、友達に聞いてみても、誰もそんなの見てないって言うんです。

黒葛 :あなたのいつもの就寝時間をお聞きしても?

あたし:え?
    えーっと、大体、3時から5時くらい……ですかね。

黒葛 :随分、遅いのですね。
    普段の生活に支障はないのですか?

あたし:あー、それは、えっと、キャバクラで働いてまして……。
    帰って来るのが2時か3時なんですよね。
    だから、どうしてもそのくらい時間になってしまって。
    あ、でも、ちゃんと大学には行ってますよ。
    起きれないから、午前中に講義を入れないようにしてるんです。

黒葛 :そうですか。

あたし:あの、このことはお母さんには内緒にしてください。
    なんか、そういう系の仕事の印象が悪いようで、
    ブチ切れられて、辞めろっていうか、
    学費は自分で払えって言われちゃうので。

黒葛 :守秘義務がなかったとしても、いいませんよ。

あたし:そ、そうですよね。
    っていうか、言う機会ないですもんね。

黒葛 :ええ。
    それより、話を戻します。

あたし:はい、なんでしょうか。

黒葛 :確かに、不気味な番組で、あなただけが見たというのは、
    怖いと感じるかもしれません。

あたし:はい。

黒葛 :ですが、気のせい……というより、
    夢だったということは考えられませんか?

あたし:1回だけなら、無理やりそう納得するんですけど……。
    でも、合計で3回も見てるんです。

黒葛 :3回……ですか?

あたし:はい。
    最初は1ヶ月前で、それから2週間くらい前に1回、
    で、2日前にも見たんです。

黒葛 :3回とも夢だった、ということもなさそうですか?
    悪夢というのは印象に残っているものです。
    覚えているからこそ、何度もその夢を見るということは
    珍しくありません。
    悪夢で目覚めて、もう一度寝ると、その続きを見るのと同じです。

あたし:ないと思います。
    全然眠くないときに見てますし。
    大体、眠いときは素直に自分の部屋に行きますよ。

黒葛 :……自分の部屋のテレビで見たのではないのですか?

あたし:あ、言うの忘れてた。
    リビングのテレビです。
    大体、あたしの部屋にテレビないんですよね。
    ネット見るときはタブレットあるし。

黒葛 :ということは、普段はテレビを見ないということですか?
    それなら、その番組が流れたときに
    なぜ、リビングでテレビを付けていたのですか?

あたし:ご飯食べるときはリビングでテレビつけながらなんです。
    なんていうか、寂しい感じがして。
    って言っても、携帯見ながらですけど。

黒葛 :つまり、夜食を食べながら、テレビを流し、
    携帯を見ている、ということですか?

あたし:そうです。
    携帯を見てて、突然、テレビの方から
    不気味な音楽が流れてきて……。
    それでテレビを見たら、その番組が映ってたんです。

黒葛 :なるほど……。
    ただ、そもそもの話なのですが、解決する必要はありますか?

あたし:え?

黒葛 :無視すればいいのではないですか?
    それに、深夜にテレビをつけなければいい。
    違いますか?

あたし:それができればそうしたいんですけど……。

黒葛 :それができない理由があるんですか?

あたし:あたしが見たのは呪いの番組なんです。

黒葛 :呪いの番組……ですか?

あたし:はい。
    その番組で読み上げられる名前の人は、次の日に亡くなるんです。
    それで、その番組は名前を呼ばれる人の人にしか見えないらしいんですよ。

黒葛 :……よくある話ですね。

あたし:そうなんですか?

黒葛 :私の場合ですが、ハッキリと言うと
    この世に呪いなんてものはないと思っています。
    全ては思い込みによる、精神負担。
    そして、その精神負担による身体の影響だと考えています。
    なにより、呪いなんてものがあることを
    誰も証明できた人間はいません。

あたし:で、ですよね。
    こんなの気のせいにきまってます。
    気のせい、気のせい。
    呪いなんて、あり得ない。

黒葛 :……ただ、呪いがないと証明できた人間もいません。

あたし:なんなんですか?
    下手に喜ばせないでくださいよ。

黒葛 :万が一の可能性も含めて考えましょう。
    それを解決するのが依頼でしたからね。

あたし:ありがとうございます。
    よろしくお願いします。

黒葛 :その呪いなのですが、解除方法は伝わっていないのですか?

あたし:解除というか、呪いを避ける方法はあります。
    それは、家を出るということです。

黒葛 :家を出る?
    もう少し、具体的にお願いできますか?

あたし:えっと、つまり、引っ越すってことです。

黒葛 :随分と変わった解除方法ですね。

あたし:そうですか?
    その番組が流れるということは、その場所が呪われているってことです。
    だから、引っ越すというのは自然なんじゃないんですか?

黒葛 :その噂はどのくらい有名なんですか?
    あなたの大学以外にも流行っているものなのですか?

あたし:いえ、全然ですよ。
    大学の友達はもちろん、お店のスタッフさんやお客さんでも
    知ってる人はいませんでした。

黒葛 :ということは、SNSでもないということですか?

あたし:はい。
    調べてみたんですけど、見た限りはトレンドにも
    入ったことないですし、そういう書き込み自体も
    見つかりませんでした。

黒葛 :……それなら、あなたはどうして
    その呪いのことを知っているのですか?

あたし:……え?
    あれ?
    言われてみれば、変だな。
    えーと、えーと。
    誰から聞いたんだっけな?
    ……思い出した!
    弟です。

黒葛 :弟さん、ですか?

あたし:はい。
    あたし、3つ年下の弟がいるんです。
    今、高校生の。
    で、その弟の高校で流行っている呪いだって聞いたんですよ。

黒葛 :解除方法も、そのときに一緒に聞いたということで合っていますか?

あたし:はい。
    一緒に聞きました。

黒葛 :姉弟の仲としてはどうですか?
    仲はいい方だと思いますか?

あたし:んー。
    昔は結構、よかったんですけどね。
    今は、それほどでもないっていうか、ギクシャクしてますね。

黒葛 :といいますと?

あたし:弟にバレちゃったんですよね。
    キャバクラで働いてるの。

黒葛 :思春期であるなら、そのあたりは気にするかもしれません。

あたし:わかるよ。
    わかるけどさ。
    別に風俗じゃないんだから。
    パパ活よりは健全だと思うんだけどな。
    お仕事なんだし。

黒葛 :個人の感覚の問題ですから、
    正論を言っても通じないと思います。

あたし:はい。
    それはもう諦めてます。
    何度も説明しましたし。

黒葛 :弟さんから両親への暴露される可能性が高いと思いますが、
    大丈夫なのですか?

あたし:あたしも、あっちの弱みを知ってますし。

黒葛 :お互い様、というわけですか。

あたし:はい。そうなんです。

黒葛 :あなたの家族構成は、両親、あなた、弟さんの4人で間違いありませんか?

あたし:はい。あってます。

黒葛 :親戚などが家に来るということは頻繁にありますか?

あたし:ないですね。
    お盆とかお正月はあたしたちが親戚の家に行く方ですし。

黒葛 :弟さんの友達は?

あたし:滅多に来ないですね。
    あたしの仕事が発覚してからは特に。
    会わせたくないって感じかな。

黒葛 :おそらくそうですね。

あたし:職業差別―!

黒葛 :そんなものですよ。
    やっている方は何となくでやっているので
    差別している感覚さえありません。

あたし:理不尽だなー。

黒葛 :深夜の番組。
    次の日に死ぬ者の名前。
    呪いは流行ではない。
    引っ越せば呪いを回避できる。
    家は4人家族……。
    そうか。なるほど。

あたし:なにかわかったんですか?

黒葛 :最後の質問です。
    あなたのリビングのテレビにはビデオデッキが
    接続されているのではないですか?

あたし:え!?
    よくわかりましたね。
    今じゃ、全然、使ってないですけど……。
    前に、ブルーレイとかにしようって言ったことが
    あったんですが、そもそもうちって録画しないタイプなので。

黒葛 :やはり、そうでしたか。

あたし:謎が解けたってことですか?

黒葛 :ええ。解けました。

あたし:ホントですか?
    教えてください!

黒葛 :これはあくまで私の仮説です。
    ですので、正解とは限りません。

あたし:え?
    わかりました。
    それでもいいです。

黒葛 :ですが、この仮説は聞かない方があなたにとっていいと思います。

あたし:でも、呪いはどうするんですか?
    このままじゃ、あたし、死んでしまいますよ?

黒葛 :呪いに関しては大丈夫です。
    それは私が保証します。

あたし:そ、それでも聞きたいです。
    お願いします。

黒葛 :わかりました。
    それでは仮説を話します。
    まずは、その番組は呪いではありません。

あたし:なんでわかるんですか?

黒葛 :少々お待ちください……。

あたし:急にどうしたんですか?
    スマホなんて出して?

黒葛 :ありました。
    あなたが見たのはこの番組じゃないですか?

あたし:……これって?

黒葛 :ええ。
    某、動画アップロードサイトです。
    この動画を再生してみてください。

あたし:え?
    あ、はい。

黒葛 :……。

あたし:あ!
    これです。
    これに間違いありません。
    でも、これって……?

黒葛 :この動画は、元々はある都市伝説を再現したものです。
    10年ほど前に流行った動画になります。

あたし:えっと、どういうことですか?
    なんで、そんなものをテレビが放送するんですか?

黒葛 :いえ。
    放送してません。

あたし:え?

黒葛 :とにかく、あなたが言う呪いの番組というのは、
    10年前に作られた動画ということです。
    ですので、呪いではありません。

あたし:あ、なるほど……。

黒葛 :それに「次の日に死ぬ」のであれば、
    なぜ、1ヶ月前に見たあなたが生きているのですか?

あたし:……確かに。
    あれ?
    なんで気づかなかったんだろ?

黒葛 :それと、弟さんの学校で流行っていると言ってましたが、
    それであればトレンドになるほどではなくても、
    投稿はヒットするはずです。

あたし:そっか……。

黒葛 :つまり、作られた呪い話だったということです。

あたし:誰がそんな作り話を……。
    って、弟しかいないか。

黒葛 :ええ。
    間違いないでしょうね。
    そして、理由は……。

あたし:あたしを家から追い出したかったから。

黒葛 :……。

あたし:あいつ。
    ……あれ?
    でも、待って。
    これを流すにしても、どうやって?

黒葛 :ビデオです。
    2時間テープを再生しておくのです。
    あなたは食事中に、寂しいからとテレビを付ける。
    それはつまり、どのチャンネルでもよいというわけです。
    ですので最初からビデオを流しっぱなしにしておけば……。

あたし:リモコンでテレビを付ければ自動的に、
    ビデオの内容が流れる……。

黒葛 :はい。
    それがこの謎の真相です。

********************************

正直、探偵さんが言った内容はショックだった。
弟がそこまでしてあたしを追い出したかったということを知ったから。

でも、こればっかりは仕方ない。
あたしは今の仕事を辞めたくないし、家から引っ越したくもない。
弟と今まで以上にギクシャクすることになるが、あたしは弟を問い質すことにした。

その日の深夜。
証拠となるビデオテープも確認し、弟に突き付ける。

「あんた、随分と舐めた真似してくれたじゃない」
「姉ちゃんが悪いんだろ」
「なんでよ!」
「あんなところでバイトなんかするからだ!」
「だーかーら! 別にいかがわしいことなんて……」

そのときだった。
突然、パッとテレビが付いた。

少しの砂嵐の後、暗い画面に廃墟の映像。
ナレーターが名前を読み上げ始める。

「ちょ、ちょっと! あんた、もう1個作ってたの?」
「し、知らねーよ」

そして、読み上げる名前がピタリと止まる。
最後にナレーターがこう言った。

「最後に、お前たちだ!」

終わり。

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