【シナリオブログ】決着はヒーローショーで①
- 2018.08.12
- シナリオ本編
人物表
加納 響子 (34)
加納 正治 (17)
山城 恵一 (32)
香田 哲也 (54)
飛田 明 (38)
その他
○ 加納家・居間(朝)
サイドボードの上には、写真立てがある。
写真に、加納響子と加納正治が写っている。正治の、小学校入学式に撮った写真。
何かを焼く音と、響子の鼻歌が聞こえてくる。
○ 同・キッチン
加納響子(34)が料理をしている。
卵焼きを、弁当箱に詰める。
テーブルの上のトースターから、こんがり焼けたパンが出てくる。
響子は、フライパンを持ったまま歩き、キッチンを出て行く。
○ 同・居間
響子が居間を通り抜け、ドアを開ける。
○ 同・廊下
響子が今のドアから顔を出して、階段の上へ向って言う。
響子「正治、そろそろ起きなさい。ご飯できるわよ」
○ 同・正治の部屋
整理整頓された部屋。
学生服に着替えている加納正治(17)。
正治「(響子に聞こえるように)もう起きてるよ」
○ 同・キッチン
テーブルに座って、朝食を食べている響子と正治。
正治「……お母さん、大丈夫なの?」
響子「なにが?」
正治「時間。いつも、慌てて出てく時間でしょ」
響子「(時計を見て)え? ああ、いいのよ。今日は十時から出勤なんだ」
正治「ふーん」
正治がチラリと、キッチンの方を見る。キッチンには、弁当箱は一つしかない。
正治「(不審がって)……」
響子「どうかした?」
正治「ううん。なんでもない。……あ、今日、図書館に寄るから、遅くなる」
響子「うん。わかった。今日の晩御飯は何、食べたい?」
正治「何でもいい。残り物でいいよ」
響子「もう! また、そんなおっさん臭いこと言って。……そうだ。今日、パーっと、どこか食べに行こうか?」
正治「(呆れて)……母さんこそ、何言ってるの。もうすぐ、僕、修学旅行なんだからさ、今月は切り詰めなきゃって言ってたのは、母さんでしょ」
響子「……あ、そうか」
正治「……あのさ、なんなら、行かなくてもいいよ。旅行」
響子「何言ってるの! ダメよ。大丈夫。そのくらい、ちゃんととってあるんだから、心配しないで」
正治「……わかった。(立ち上がる)」
そして、居間の方へと向う正治。
○ 同・居間
正治が歩いてきて、ソファーの上の鞄を掴む。
正治「じゃあ、行ってきます」
響子の声「正治、忘れ物」
正治が振り向くと、お弁当を持った響子が現れる。
響子「ほら、お弁当(正治に渡す)」
正治「……(受け取って)行ってきます」
響子「いってらっしゃい」
正治が居間から出て行く。
響子「……修学旅行かぁ(ため息)」
ハッとして、時計を見る響子。
響子「私も、そろそろ行かないと」
居間を出て行く響子。
○ 同・響子の部屋
スーツ姿の響子が、机から一枚の紙を取り出す。
響子「……今日こそは(気合を入れるように)」
響子が握っているのは、履歴書。
○ 面接室
響子の履歴書を見ている中年男性の面接官。
面接官「加納……響子さん、ね。前の会社は解雇って書いてあるけど、何か問題を起こしたんですか?」
響子「いえ、私が勤めていた部署の業績が悪くて、その部署自体がなくなってしまったんです」
面接官「……今は不景気ですからね。お子さんを一人で育ててるのに、大変でしょう?」
響子「そうなんです。ですから、早く新しい職を見つけないと……」
面接官「……でも、どうして離婚を? 何かあったんですか?」
響子「(ムッとして)それが、面接に関係あるんですか?」
面接官「(ムッとするが、すぐに笑顔で)そうでしたね。すいません。じゃあ、これで面接を終わります」
響子「え?」
面接官「結果は、合格の場合こちらから連絡を……」
響子「待ってください。私、そんなに質問されてないと思うんですけど」
面接官「(履歴書を見て)加納さん。履歴書の資格の欄に何も書いてませんが、書き忘れですか?」
響子「あ、……いえ」
面接官「いくら、パートとはいえ、最低簿記くらいの資格を持ってないと厳しいですよ。しかも、高卒ですか……」
響子「……(面接官を睨みつける)」
○ 街路
イライラしたように歩く響子。
響子「あー、むかつく。くそっ、あのタヌキジジイめ」
タヌキの絵が描かれた看板がある。
響子「(看板の前に立ち)高卒で、何が悪いのよ!」
看板を蹴る響子。
響子「痛っ! (看板に向って)あー、もう、何するのよ」
その時、響子の携帯の着信音が鳴る。
取り出し、画面を見る。
『川原恵美』と表示されている。
響子「(通話ボタンを押して)……もしもし、恵美? どうしたの?」
川原恵美(34)の声「あ、響子。どうだった? 面接」
響子「うるさいわね。ふん。あんな会社こっちから、願い下げよ」
恵美の声「何言ってるのよ。仕事、選んでる場合じゃないでしょ。早く決めないと。今回で、落とされたの、十社目なんだし」
響子「わかってる。で、要件はなに?」
恵美の声「あ、そうそう。パートになるんだけど、結構時給がいいところ見つけたから、知らせようと思って」
響子「え? どこ、どこ?」
恵美の声「神田原遊園地。舞台裏のスタッフ募集だって」
響子「……舞台裏?」
恵美の声「うん。あそこ、ショーをやってるじゃない。子供向けのヒーローショー。着ぐるみきてさ」
響子「あー、そんなのもしてたわね」
恵美の声「結構、仕事がきついみたいで、すぐ人が辞めるんだってさ。そこなら、きっとすぐ合格だと思うよ」
響子「……ヒーローショーかぁ」
恵美の声「あ! ごめん。やっぱり、思い出しちゃうよね」
響子「ううん。まあ、そんなことも言ってられないし。サンキュー、恵美。さっそく行ってみるよ」
電話を切る響子。
響子「……ヒーローかぁ」
○ 神田原遊園地・外観(夕方)
『神田原遊園地』の看板。
○ 神田原遊園地・事務所
事務所の壁には、たくさんの写真が飾られている。
その写真は全部、特撮怪獣物の写真。
机に座って、履歴書を見ている山城恵一(32)。
向かいのソファーに、緊張気味に座っている響子。
山城「じゃあ、明日から来てください」
響子「え?」
山城「動きやすい格好でお願いします。あと、軍手とかは、こちらで用意しますので」
響子「あの、合格でいいんですか? 私、その、高卒ですし、資格もないですし」
山城「いやいや、そんなのは、関係ないですよ。必要なのは情熱です。見てください」
山城が立ち上がり、壁にかかっている写真を指差す。
山城「知ってますか? ゴメラ」
響子「……(写真を見る)」
写真は白黒で、怪獣の着ぐるみを着ている男性が微笑んでいる。
山城「(熱弁)このゴメラの製作者たちは、なんと全員が高卒の人ばかりだったんですよ。それなのに、あれほどの偉大な作品を作り上げた。それは、学歴などではなく、情熱こそが必要と証明したということですよ!」
響子「は、はぁ……」
山城「いやぁ、最初にゴメラを見たときは衝撃でしたよ。私も、ぜひ、自分で生み出してみたくなりましてね。それで、この遊園地でも、ショーを始めたってわけなんです」
響子「(熱弁についていけず)そ、そうなんですか……」
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