【シナリオ長編】病人パパヒーロー!足立一真②

○  警察署・刑事課
一真が自分のデスクで、自分の名前が書かれた表彰状を眺めている。
大和田「お手柄だったな。最近はヒーローや探偵に出し抜かれてからな。久々に警察が手柄を挙げたってんで、署長も喜んでたぞ」
一真「表彰なんて、八年ぶりです」
大和田「あの時は、窃盗犯だったよな。たしか、犯人は二十歳の若造だったか」
一真「二十一です。最後まで、否認し続けてましたけど、検察の方で起訴してくれたんですよね。あれには助かりました」
大和田「そういや、お前、陸上か何かやってたのか? 物凄いスピード出てたけど」
一真「え? ……そうですか?」
くしゃみをして、目をこする一真。

○  通り
店から出てくる一真。
袋から瓶の牛乳を取り出して飲む。
近くに『多条大学病院』と書かれている建物が見える。
通りの向こう側では、聞き込みをしている詩歩の姿が見える。
一真が牛乳の瓶を握ると、瓶が割れる。
一真「……」

○  足立家・リビング
一真が表彰状を誇らしげに、見せている。
千佳はジャムのビンを持っている。
千佳「犯人捕まえるなんて、凄いね、雄一」
雄一「パパ、すごーい! ガオレインみたい!」
一真「パパは正義の味方だからな! 当然だ」
千佳「あ、この蓋開かないから、開けて」
ジャムのビンを一真に渡す。
一真「急に現実に戻すなよ」
一真がジャムの蓋を捻ると、蓋とビンの部分がねじり切れる。
一真「あれ?」
千佳「え? どうやったの? それ」

○  住宅街前・公園
休日。公園は子供たちで賑わっている。
木陰で爆弾が爆発する。

○  住宅街
大和田と一真が、聞き込みをしている。
爆発音が響き、辺りが騒然となる。
大和田「なんだ?」
住民たちが一気に駆け出していく。
その中で滝澤将(24)が一人だけ、違う方向へと走っていくのが見える。
大和田「おい、現場に向かう……」
一真が滝澤を追って走り出す。

○  林
滝澤を追う一真。
一真「待てっ!」
風が吹き、花粉が舞う。
くしゃみを連発する一真。
一真「くそ」
涙目になりながらも、必死に走る。
急に、一真のスピードが加速し、一気に滝澤に追いつく。
滝澤「!」
滝澤が、懐から警棒を出して振り回す。
一真が滝澤から離れて走っていると、突然、滝澤の背中に向かってレンガが飛んでくる。
滝澤「がっ!」
レンガが背中に直撃し、滝澤は転がるようにして倒れ、気絶する。
一真「……なんだ?」
そこに、マスクをした日野康平(25)が現れる。
日野「ふははは。私がいる限り、悪人はこの世にはびこら……うぇっくしょん!」
一真「お前……あの、ヒーローか?」
一真がポケットからティッシュを出して鼻をかむ。
日野「いかにも! 私がこの街のヒーローだ」
日野も、ポケットからティッシュを出して鼻をかむ。
日野「とにかく、そこをどいてもらおう。そこに転がっている悪人を警察に突き出す」
一真「その必要はない。こいつは責任をもって、俺が連れて行く」
一真が警察手帳を見せる。
日野「そいつは困る。『私が』警察に連れて行かないと、目立てないだろうが」
一真「お前……そんな目的でヒーローやってるのか?」
日野「それ以外に、ヒーローをやる意味があるのか?」
一真「お前はヒーロー失格だ! ヒーローって言うのは、見返りを求めないものだろ」
日野「じゃあ、そいつは私に譲れ」
一真「……俺は警察だから、それは承知できない」
日野「あんたも結構、クズ野郎だな。結局、手柄が欲しいだけだろ」
一真「ふん。犯罪者を捕まえるのが警察の仕事だ。そもそも一般人がでしゃばる必要はない」
風が吹き、花粉が舞う。
二人が同時にくしゃみをする。
日野「まあいいや。あんたをぶっ倒して、連れて行くだけだ」
近くにある、石や木片、ゴミなどが日野の周りを浮遊する。
一真「本当に、超能力者だったのか……」
日野「逃げるんなら、追わないけど?」
一真「ふざけるな」
日野「あっそう」
日野が一真を指差すと、一斉に日野の周りを浮遊していた物が一真に向かって飛んでいく。
一真「うわっ!」
次々と避けていくが、一際大きな木片が迫り、咄嗟に手で払いのける。
粉々になる木片。
日野「……まさか、あんたも能力者か?」
一真「え?」
日野「まさか、私たち以外にもいたとはな。……そういうことなら、遠慮はしない」
日野がポケットから、花粉の入った瓶を取り出し、蓋を取って思い切り鼻から吸い込む。
目を真っ赤にして、くしゃみを連発する。
一真「何をしてるんだ?」
日野「いくぞ!」
日野が両手を掲げると、木が折れて宙を浮く。
一真「嘘だろ?」
日野が腕を振り下ろすと、木が一真に襲い掛かる。
何とか避けるが、日野が操って、再び、一真を襲い続ける。
一真「これじゃ、埒があかないな」
逃げ回りながら、何とか日野の隙を見つけようとする一真。
日野がくしゃみをした瞬間、木が襲ってくるスピードが弱まる。
一真「今だ!」
一真が一気に、日野との間合いを詰める。
日野「くそっ!」
慌てて操作して、木を盾に使うが、一真が思い切り殴ると、木っ端微塵になる。
日野「うわっ!」
さらに間合いを詰めて、一真が日野の腹に一発入れる。
日野「うっ!」
気絶して倒れる日野。
一真「ふう。危なかった……」
一真がホッと一息つく。
そして、大きくくしゃみをする。

○  テレビ画面
ニュースが流れている。
アナウンサー「滝澤将容疑者二十四歳が、爆弾を所持、および設置した現行犯で逮捕されました。警察は事情を詳しく聞いています。また、同時にヒーローを名乗る男性を公務執行妨害で逮捕したとの発表があり、市民からは疑問の声が上がっています」

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