【シナリオ長編】病人パパヒーロー!足立一真⑥

○  警察署・取調室
机に地図が広げられていて、数か所に赤い丸が書かれている。
詩歩「次に駅と住宅街の公共広場。そして、商店街と今回のショッピングセンター」
次々と赤ペンで丸を付けていく詩歩。
丸の配置は、いびつなドーナツ型になる。
詩歩「これを見て、何か気付かない?」
一真が中心を指差す。
一真「この辺を中心に円状になってる」
詩歩「正解。で? この中心には何がある?」
一真「……そういえば、お前、商店街の爆弾、未然に防げたみたいだけど、どうしてだ? こうやって見ると場所は特定できるかもしれないけど、いつ仕掛けられるかはわからないよな?」
詩歩「……今はそんなこと気にしてる場合じゃない。で、中心に何がある?」
一真「ええっと……」
顔を近づけて見る。建物が多数ある。
一真「……わからない」
詩歩が一つの建物を指差す。
詩歩「多条大学病院。ここには緊急医療センターがある」
一真「仮に患者を増やすために爆弾テロをしているとしてもだ。緊急医療は赤字って聞くぞ。返って経営を圧迫するんじゃ……」
詩歩「病院側で怪我の重度を調整できるなら、話は別。全治二週間程度の怪我、つまり入院となれば、病院は儲けることができる」
一真「そんな犯罪してまで儲けなんて」
詩歩「いつの時代でも、金は犯罪の理由になってきた。それは歴史を見て事実」
一真「……」
詩歩「それに、この病院の院長、軍司晃は議員に立候補するという噂がある」
一真「……あ。院長なのに診察に出てるのは」
詩歩「人間、弱っているときに親切にされると情が湧くというもの。なかなかうまい手だと思う」
一真「人気集めも兼ねてるってわけか。けど、警察でも気付く奴がいてもよさそうだけどな」
詩歩「もちろん、気付いてる人もいる。だけど物証がない。だから二の足を踏んでる」
一真「じゃあ、捕まえた実行犯に吐かせよう」
詩歩「実行犯は末端。軍司の名前すら聞かされてないはず」
一真「けど、繋がりを辿っていけば……」
詩歩「可能性は低いと思う。警察もその方向で今動いてるし。それに、一日じゃ無理」
一真「それじゃ、どうすれば……」
詩歩「私に考えがある」

○  多条大学病院内・非常階段
一真「どうして、爆弾が病院内だと?」
詩歩「万が一、見つかっても誰かに罪を擦り付けやすい。これは賭け。やるしかない」
一真「無かったら、終わりか……」
詩歩がポケットから、花粉の入った瓶を取り出して、吸い込み、くしゃみをする。
一真「まさか……お前も能力者なのか?」
詩歩「私は物に籠った意思を色で見ることができる。爆弾には、欲望の黒い霧のようなものがかかっていた。この前、私が爆弾を見つけられたのも、この能力のおかげ」
詩歩が涙目になりながら、階段を降りる。

○  同・地下倉庫の扉前
詩歩「ここから、色が漏れてる。間違いなくここに爆弾があるはず」
一真「よし! じゃあ、家宅捜索を強行しよう……って、いや、ダメだ」
詩歩が、不思議そうに表情をしかめる。
一真「あっちに壁をすり抜ける能力を持った奴がいるかもしれない。ここで、見張ってても爆弾を移動される可能性がある」
詩歩「なぜ、そんなことを知ってる?」
一真「息子を誘拐した実行犯がいるはずだからだ」
詩歩「……私は大きな考え違いをしてたかもしれない」
一真「え?」
詩歩「雄一君を誘拐したのは軍司じゃない」
一真「そんな馬鹿な!」
詩歩「動機がない」
一真「俺への恨みだよ! 実行犯を捕まえた」
詩歩「末端の人間。替わりはいくらでもいる」
一真「……」
詩歩「一番の違和感はお金の受け渡し場所で爆発があったこと」
一真「陽動だろ? 雄一の方に警察の目を向けさせるための」
詩歩「だとしたら、別の場所を爆破する。わざわざ、警察が多くいるあの場所を狙う必要はない。逆にリスクが高まる」
一真「じゃあ、一体、誰が!」
詩歩「落ち着いて考えて。あなたを恨んでる人を。誘拐はあなたへの怨恨で間違いない」
一真「どうしてわかる!」
詩歩「身代金三百万は安すぎる。それに受け渡し方法が雑だ。これは元々金を受け取る気がなく、あなたが失敗したことで子供が殺されるという演出をさせたかっただけ。だから、受け渡しを邪魔しようとしたはず」
一真「でも! 俺を恨んでる奴なんて……。絞り切れない」
詩歩「ヒントはあるはず。例えば、雄一君が誘拐された状況」
一真「何かの能力を使った事しか分からない」
詩歩「なぜ、能力者だと?」
一真「だって、雄一は人見知りで、知らない人間相手なら絶対にドアは開けない」
詩歩「なら、知り合いならドアを開ける」
一真「……え?」

○  ショッピングセンター(回想)
佐知子「あら、一真さんじゃない」

○  多条大学病院内・地下倉庫の扉前
一真「……芹澤さん」

○  芹澤家
さるぐつわを噛まされ、ロープで縛られている雄一。
佐知子が包丁を持って、迫る。
佐知子「全部、お父さんが悪いのよ。怨むならお父さんを恨みなさい」
雄一「んーーー!」
佐知子が包丁を振り上げる。
その時、ドアが破壊され、一真と詩歩が入ってくる。
一真「雄一!」
佐知子が雄一に向かって走る。
一真は一瞬で、雄一と佐知子の間に回り込む。
包丁を掴んで、曲げる一真。
佐知子「あ……ああ……」
曲がった包丁を見て、諦めてへたり込む。
一真「動機は息子さんのことですね?」
佐知子「気付いていたの?」
一真「さっき、思い出しました。俺が最初に逮捕した犯人の名は芹澤隆文」
佐知子「あの子はずっと無実を主張してきた。だけど、あんたたち警察は無理やりあの子を犯人に仕立て上げたのよ! 優しいあの子があんなことするはずないのに。世の中に絶望したあの子は、出所後自殺したわ」
一真「……」
佐知子「憎かった! 私の息子を奪ったあなたが、家族と幸せそうにしているのが! だから、あなたに私と同じ思いをさせたかったのよ!」
詩歩「近所に引っ越してきたのも、計画の内」
佐知子「あなたたち家族の顔を見続けるのは、拷問だったわ。でも、あの子のことを思えば耐えられた。あの子はもっと辛かったはずよ」
一真「……」
佐知子「返してよ! 息子を! それが無理なら、息子を私に殺させなさいよ!」
佐知子が泣き崩れる。
一真「……」

○  交番
警察官姿の一真が新聞を読んでいる。
新聞に『多条大学病院院長の裏の顔は爆弾魔』という見出しが大きく載っている。
そこに雄一が駆け込んでくる。
雄一「パパ! あっちの公園で、おばあちゃんが転んで怪我してる!」
一真「(新聞を折りたたんで)すぐ行く!」
雄一と一緒に走る一真。
雄一「ねえ、パパ。どうして刑事辞めたの?」
一真「ヒーローになるためだ」
雄一「でも、悪者捕まえるなら、刑事の方がいいんじゃないの?」
一真「雄一。ヒーローの仕事はな、悪者を倒すことじゃない」
空を見上げる一真。
一真「みんなを守ることだ」

終わり

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