【シナリオブログ】妖怪退治は放課後に 第3話⑧
- 2018.10.05
- シナリオ本編
○ シーン 10
ペタンと座り込んでいる珠萌と、それを見ている和馬と千愛。
和馬「じゃあ、最初から、珠萌さんは自殺するために……」
千愛「私を許せない以上に、自分が許せなかったのね」
和馬「……どういうことですか?」
珠萌「……」
千愛「色々、あなたのことを調べさせてもらったわ。あなたの母親が死んだのは、召喚術の失敗による事故ね」
珠萌「……違う。私が殺したようなものよ」
千愛「あなたは、何とか本家に戻ろうと、離縁された後でも、修行を続けた。そして、あなたは、人より優れた才能を開花させる。それが、召喚術よ」
和馬「召喚術……」
千愛「言ってしまえば、あの百鬼夜行も、意図的に行えるのなら、召喚術と言ってもいいのかしらね。とにかく、あなたは、桁外れな召喚能力で、さっきのズーのような強力な妖怪を呼んでしまった」
珠萌「お母さんは、私を助けるために、私を庇って……」
千愛「だから、自分自身も、自分が呼び出した妖怪の手にかかって死にたかったのね」
珠萌「……」
千愛「ただ、その方法を取ると、自分が死んだ後、その召喚した妖怪は、暴れ続けてしまう。……そこで、私を利用しようと考えたのね」
珠萌「……どうして、分かったの?」
千愛「あなたは、私の霊力が極端に低いことは、なんとなく分かってた。もし、私を殺したいというなら、最初のように、弱い妖怪を大量にけしかければ終わりよ。それなのに、あなたは、そうはしなかった」
珠萌「……」
千愛「あなたは、とにかく、私の手持ちの霊符を使い果たせたかったのよ」
和馬「どうして、そんなことを?」
千愛「陰陽師は、いざという時のために、最高の霊符を隠しておくものよ。それを使わせたかったのね。でも、もし、その霊符が自分の呼び出す妖怪を調伏するほどの力がないものだったら……」
珠萌「そこが悩みどころだったのよね。その霊符をどこに隠してるか、分からなかったし、どんな札かも分からなかったからさ」
千愛「それで、和馬君に近づいたのね」
珠萌「うーん。どっちかというと、逆かな。和馬君と話す内に、千愛先輩との接点があることが分かった感じ」
和馬「じゃあ、破った霊符の代わりに、新しい霊符を入れたのは、珠萌さんだったの?」
珠萌「うん。あれも結構良い札だったけど、私が持ってた霊符の方が強いやつだったから……」
千愛「ま、どっちにしても、敵をいとも簡単に、本拠地まで招くなんて、本当に、和馬君は無能で、使えないわね」
和馬「うう……。返す言葉もありません」
千愛「とにかく、自殺するなら、勝手によそでやってくれないかしら。私は、色々とやることがあって、忙しいのよ」
和馬「ちょっと、先輩、そんな言い方って……」
珠萌「……どうせ、あんたみたいな天才には、分かんないわよね。凡才な人間が、どれほど苦労してるかなんて……」
千愛が大きくため息をついて、いきなり服を脱ぎだす。
和馬「ちょっちょっと、せ、先輩、いきなり、何、服を脱ぎだしてるんですか……って、その痣……」
珠萌「全身、痣だらけ……」
千愛「私も必死だったのよ。生き残るため、家に残るためにね」
珠萌「……」
千愛「安倍家に、私より一歳下の娘がいて、晴明ほどの霊力を持っているって、ずっと噂だったわ。それに比べて、私の霊力の弱さは、蘆屋家始まって以来の最低のものだった」
珠萌「……」
千愛「私が、家督を継ぐためには、とにかく技術を磨くことしかなかった。私には、それしかなかったのよ」
和馬「先輩……」
千愛「珠萌と言ったわね。霊力が強いというのは、それだけで、才能なのよ。それに、あなたには、召喚術という天才的な才能もある。……絶対、私よりも良い陰陽師になれるはずよ」
珠萌「千愛先輩……」
千愛「あなたの母親も、そう望んでいるはずよ。あなたが、自分の母親を殺した責任をとらなければならないと思うなら、安倍本家を見返すほどの陰陽師になることだと思うわ」
和馬「(小声で)先輩、今回は、ずいぶんと優しいことを言うんですね」
千愛「(小声で)こういう人間には、こう言った方が一番効果的なのよ」
珠萌「……千愛、お姉さま」
和馬と千愛の背筋に冷たいものが走る。
和馬「先輩、ものすごく嫌な予感が」
千愛「あら、奇遇ね。私もよ」
珠萌「私、千愛お姉さまに、ずっとついていきます!」
○ シーン 11
放課後。
廊下を歩く、和馬。
占星クラブの前で立ち止まり、ドアを開ける。
和馬「遅くなってすいません。生研の方で、長引いちゃって」
珠萌「もう、おそいぞ! 私、一人で掃除終わっちゃったんだから」
和馬「あれ? 珠萌さん、今日、お休みじゃ……って、それよりも、どうしてここにいるの?」
珠萌「何言ってるのさ。私、占星クラブに入ったんだから、いるの当たり前じゃん」
和馬「え? 入部? どうして?」
珠萌「なによぉ。入ってくれって、言ったの、和馬君じゃん。これで、部員は三人。正式な部に昇格だね」
和馬「い、いや……、それは、そうだけど……。(小声で)先輩、どうするんですか?」
千愛「和馬君が面倒をみなさい」
和馬「そ、そんなぁーーー」
和馬(N)「こうして、占星クラブは正式な部となったんだけど……僕の苦労は、どうやら増えることが決定されたのだった」
おわり
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