【シナリオブログ】妖怪退治は放課後に 第3話⑦

○  シーン 8
占星クラブの部室内。
周りからは、まったく生徒たちの声がしない、静かな状態。
和馬は椅子に座らされ、その隣に珠萌が立っている。

珠萌「和馬君、そろそろ起きてくれないかな?」
和馬「……う……ん。(気が付く)え? ここは……? あれ? どうして? 体が動かない……」
珠萌「えへへ。不思議かな? あのね、和馬君の胸に霊符が貼ってあるでしょ。それで、和馬君の霊力を封印して、霊体を麻痺させてるの」
和馬「霊体を麻痺?」
珠萌「金縛りって言った方が、お馴染みかな?」
和馬「どうして、珠萌さんがここに?」
珠萌「ごめんね。気絶すると、ちょっと記憶が飛んじゃうからね。混乱してるのかな」
和馬「(ボーっとして)……気絶?」
珠萌「ここは、占星クラブの部室で、今は夜の十二時ってところ。それで、今は千愛先輩の登場待ちって感じ」
和馬「……(ハッとして思い出す)珠萌さん、どうして、こんなこと」
珠萌「……ごめんね。和馬君、巻き込んじゃって。でも、こうでもしないと、千愛先輩、来てくれないでしょ?」
和馬「何をしようとしてるのかは、分からないけど、すぐにこんなことは止めるんだ」
珠萌「あのさぁ、そんなセリフで止めるようなら、最初から、こんなことしないって」
和馬「……千愛先輩を恨んでるの?」
珠萌「そんなの、当たり前でしょ。あの人のせいで、私は家を追い出されて、そのせいでお母さんが死んだんだよ」
和馬「……お母さんが? ……でも、そんなの逆恨みだよ」
珠萌「分かってる! そんなこと、分かってるよ」
和馬「……珠萌さん」
珠萌「でもね、あの人がいなかったら、私は家を追い出されることもなかったし、お母さんも死ぬことはなかった。それは、本当のことでしょ?」
和馬「……」
珠萌「だから、責任をとってもらうの。これは、私と……そして、お母さんの復讐だよ」
和馬「そんなの、勝手だ!」

その時、ドアが開いて千愛が入ってくる。

千愛「和馬君、うるさいわ。こんな時間なんだから、もう少し静かにしてくれないかしら」
和馬「……千愛先輩」
珠萌「あれぇ? 随分と早かったですね。もしかして、和馬君のこと、心配でした?」
千愛「早く終わらせて、寝たいだけよ」
珠萌「ふーん。まあ、いいや。じゃあ、ちゃっちゃと始めちゃいましょうか」
和馬「先輩! 逃げてください。罠です」
千愛「(ため息)あのね、和馬君。こんな時間に、こんな場所に呼び出してるのよ。罠を張らない、バカがどこにいるの?」
和馬「え?」
千愛「全部分かってるわよ。その子が、元々は安倍本家の娘ってこともね。だから、黙って見てなさい」
珠萌「へぇ……。そこまで、バレてるのは、ちょっち、ビックリかな」
千愛「そう? そんなの戸籍を調べれば、簡単じゃない」
和馬「千愛先輩は、珠萌さんが、犯人だって知ってたんですか?」
千愛「当然よ。すぐに、目星はついたわ」
珠萌「あれれ? 生研の人たちは、全然、私だって気づかなかったのにね」
千愛「それは、そうよ。あの人たちは、前回の百鬼夜行の事件と、私が襲われている事件のことしか、関連づけてなかったからね」
珠萌「……」
和馬「どういうことですか?」
千愛「和馬君、ピアノの事件のこと、覚えてるでしょ?」
和馬「え、ええ。木ノ下君が起こした事件のことですよね」
千愛「ピアノの音で、感受性を刺激させて、霊体を獲るなんて方法、素人じゃ、絶対思い浮かばないわ」
和馬「え?」
千愛「本格的な知識を持っていないと、あの方法を使うことはできない。つまり、あの事件も、陰陽師が関わっていたのよ」
和馬「……そんな」
千愛「手塚を使った時は、瑠璃を渡すだけで良かったから、偽名で近づけたけど、あのモヤシピアノの場合は、信用を得るために本名を名乗らないといけなかった。クラスメイトでもあるしね」
和馬「でも、なんでそんなことを……?」
千愛「そう。そこよ。そこが分からなかった」
珠萌「……」
千愛「私を殺したいというだけなら、もっと、簡単で、楽な方法もあった。なのに、あなたは、まどろっこしい方法ばかりをとった。……まるで、私の力を探るように」
珠萌「ふう、まいったね。そこまで、お見通しかぁ。やっぱりさ、長年の恨みを晴らすのに、サクッと終わらせたら、つまんないでしょ?」
和馬「……珠萌さん」
珠萌「でも、そのお蔭で、色々分かったよ。千愛先輩は、陰陽師としては、致命的なほど、霊力が弱い」
和馬「え?」
珠萌「おかしいと思ったんだよね。田代美由紀だっけ? いくら、妖怪になりかけっていっても、たかだか幽霊でしょ? それにわざわざ霊符を使うって……。見習いの陰陽師だって、自力で祓えるよ」
千愛「……」
珠萌「最初は、人違いかと思った。でも、霊符を使うとき、呪文の詠唱を省略していた。あんな技は、ホント、安倍晴明くらいしかできない」
千愛「……別に、唱えるのが面倒なだけよ」
珠萌「蘆屋千愛は、ずーっと、天才なんだって、思ってたけど欠点もあるんだね」
千愛「……どうして、こんな遠回りなことをしたか不思議だったけど、分かる気がするわ。……もしかして、あなた……」
珠萌「さ、そろそろ、お話も終わりーって、ことで始めよっか!」
千愛「その前に、和馬君と少し話をさせてくれないかしら」
珠萌「あらぁ? 最後のお別れを言いたいってことかな?」
千愛「まあ、そんなところかしらね」
珠萌「……うん。それくらいなら、いいよ」

珠萌が、和馬の札をビリッとはがす。

和馬「(千愛に走り寄って)千愛先輩、そんな最後の別れだなんて、言わないでください」
千愛「……うるさいわ。静かにして」
和馬「先輩……」
千愛「(ため息)まったく、今、あなたが油断してたあの子を取り押さえれば、事件は解決だったのよ。それなのに、まっさきにこっちにくるなんて……」
和馬「あっ……」
千愛「まあ、和馬君の無能さは、今に始まったことじゃないから、別にいいわ。それより、和馬君には、やってもらいたいことがあるのよ」
和馬「……なんですか?」

ボソボソと話す、千愛と和馬。

珠萌「ねえ、もうそろそろ良いんじゃない? 長過ぎだよ」
千愛「いいわね。あの、とっておきの霊符の所に、私が行くまで時間を稼ぐのよ」
和馬「でも、先輩。それじゃ、先輩が危険に……」
千愛「いいから、言うとおりにしなさい」
和馬「……」
珠萌「はーい。時間切れでーす。始めちゃいますよぉ~」
千愛「和馬君は、下がってて」
和馬「は、はい」
珠萌「じゃあ、まずは中級妖怪から、いってみようか。天地の神と同根なるが故に万物の霊と同体なり(てんちのかみとどうこんなるがゆえに ばんぶつのれいとどうたいなり)……」

珠萌が、妖怪を召喚する。

和馬「うわっ、輪っかがいっぱい、出てきた」
千愛「火車よ」
珠萌「いけぇ~」

妖怪と、千愛が戦い始める。

○  シーン 9
肩で息をする千愛。
それを心配そうに見る和馬と、笑みを浮かべて見ている珠萌。

千愛「(肩で息をする。苦しそう)」
珠萌「一枚の霊符で、三体の妖怪を調伏するなんて、初めて見た。やっぱり、蘆屋千愛はすごいね。でも、そろそろ霊符もなくなってきたんじゃない?」
千愛「……」
和馬「珠萌さん、もう止めるんだ。そんなことしたって、無意味じゃないか」
珠萌「もう、和馬君、空気読んでよ。ここ、クライマックスだよ。そんなセリフは興ざめだってのっ! じゃあ、気をとりなおして、いっちょ、大物を呼び出してみようか」
千愛「……和馬君」
和馬「はい、分かってます」
珠萌「(呪文を唱える)五臓の神君安寧なるが故に、天地の神と同根なり(ごぞうのしんくんあんねいなるがゆえに てんちのかみとどうこんなり)……」

大きな地鳴り。地を揺らすほどの雄叫び。

和馬「せ、先輩、なんかヤバそうなのが出てきましたよ」
千愛「ライオンの頭をもった、鷲……。あれは、ズーよ」
和馬「倒せそうですか?」
千愛「正直、分が悪いわね。……それでもやるしかないわ。和馬君、分かってるわね?」
和馬「先輩こそ、気を付けてくださいね」

和馬と千愛が、別々の方向に走り出す。
響き渡る、ズーの雄叫び。

和馬「うわあああ」
珠萌「え? 和馬君、ダメ! こっちに来たら、危ないよ」

ズーが、珠萌の方を目がけて襲ってくる。

和馬「危ない、珠萌さん!」

和馬が珠萌を庇うようにして、覆いかぶさる。
ズーの鋭い爪が、和馬の肩をかすめる。

和馬「うわっ!」
珠萌「和馬君、肩から血が!」
和馬「うん。ちょっと、かすっちゃったみたい」
珠萌「とにかく、私から離れて! 和馬君まで、殺されちゃう」
和馬「大丈夫」

和馬が、自分と珠萌に霊符を張る。

珠萌「この霊符って……」
和馬「そう。さっき、珠萌さんが僕に貼った奴と同じ。霊体を麻痺させて、そして……霊力を封印する札だよ」
珠萌「で、でも、そんなことしたら!」
和馬「うん。この教室で、一番霊力が強い、千愛先輩が狙われる」

ズーが唸りを上げて、標的を千愛へと変える。

千愛「(走って)もう少し……」
和馬「先輩は、あの、とっておきの霊符を使って、ズーをやっつける気……。あっ!」
珠萌「……」
和馬「先輩! あの霊符は、珠萌さんが、破って……」

ズーが、千愛へと迫る。

珠萌「間に合わない!」
和馬「先輩、せんぱーい!」
千愛「……滅」

ズーが断末魔の叫びをあげる。

和馬「え? あれ? ズーが消えていく」
千愛「……ちょっと、冷や冷やしたわね」
和馬「どうして……? 霊符は、珠萌さんが破ったはずじゃ……」
千愛「さ、それは、直接本人に聞いてみようかしら」

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