■概要
主要人数:5人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、シリアス
■キャスト
ター坊
ウッちゃん
シロ
マサル
キッチー
その他
■台本
ター坊(N)「気が付いたら、好きになっていた。みんなからは怖がられていて、話かけることはもちろん、避けられているあの子。確かに、少し乱暴で怖いけど、こんな僕にも普通に接してくれるし、実はとっても優しいってことを僕は知っているのだ」
薪拾いをしているター坊(8)。
ウッちゃん(8)が走ってくる。
ウッちゃん「ター坊、遊びに来たぜ」
ター坊「あ、ウッちゃん!」
ウッちゃん「なんだよ、お前、また落ちてる木なんか拾ってるのか?」
ター坊「薪だよ。町に持っていけば売れるんだ」
ウッちゃん「ふーん。まあ、いいや。それより、遊ぼうぜ」
ター坊「もう少し待ってくれる? あと、一篭分集めないと」
ウッちゃん「嫌だ! すぐに遊ぶぞ」
ター坊「でも……怒られちゃうし」
ウッちゃん「私、思うんだ。私と遊ぶためなら、ター坊が怒られてもいいんじゃないかって」
ター坊「酷いよ!」
ウッちゃん「よし、わかった。じゃあ、こうしよう。怒られるか、私にボコボコにされるか、好きな方を選べ」
ター坊「絶望的な二択だね……」
ウッちゃん「とにかく、難しいことは遊んでから考えようぜ」
ター坊「う、うーん……」
ウッちゃん「鬼ごっこしよう。私が鬼でいいぞ。鬼は捕まえた相手をボコボコにできるルールな」
ター坊「もう、『ごっこ』じゃなくなってるね。それにそのルールだと、僕、怒られる上にウッちゃんにボコボコにされるよね?」
ウッちゃん「いーち、にーい……」
ター坊「しかも、始まっちゃってる!」
ウッちゃん「さーん、よーん、……じゅう! うおおおお!」
ター坊「えええええー!」
ター坊(N)「確かに、ウッちゃんは少し……とても乱暴だけど、本当は優しいんだ。最後にはちゃんと薪拾いも手伝ってくれるし」
ウッちゃん「いやー、今日もいっぱい遊んだな。楽しかった」
ター坊「うん。……半分くらいは怖いって気持ちだったけどね」
ウッちゃん「なあ、また遊んでくれるか?」
ター坊「もちろん!」
ウッちゃん「あはは! ありがとな、ター坊。……けど、本当に大丈夫なのか? その、私と遊んだりして」
ター坊「大丈夫。秘密にしてるし、この山には誰も近づかないからバレないよ」
ウッちゃん「確か、この山って鬼が出るって噂になってるんだよな?」
ター坊「う、うん。何十年も昔の話なんだけどね」
ウッちゃん「まあ、私たちにとって、格好の遊び場ってことだな」
ター坊「そうだね」
カラスの鳴き声が聞こえる。
ター坊「あ、そろそろ帰らないと。薪拾い手伝ってくれてありがとう」
ウッちゃん「え? もうか……。私、もっとター坊と一緒にいたいな」
ター坊「僕も、一緒にいたいけど……」
ウッちゃん「あ、ごめんごめん。我がままだったな。気にするな」
ター坊「……」
ウッちゃん「それじゃ、気を付けて帰れよ」
ター坊(N)「ウッちゃんと一緒にいた日々は、本当に幸せだった。この関係がずっと続くと思ってた。でも、それは間違いで、突然、僕たちの関係は終わりを告げることになったんだ」
ター坊「……え? 今、なんて言ったの?」
ウッちゃん「……もう、ここには来れない」
ター坊「どうして?」
ウッちゃん「親父に見つかったんだ。ここで、お前と遊んでるところ」
ター坊「……」
ウッちゃん「たぶん、もう島から出られなくなると思う」
ター坊「……」
ウッちゃん「今までありがとな、私と遊んでくれて。(涙ぐんで)本当に楽しかった。絶対に忘れない」
ター坊「……あ、あのね、ウッちゃん」
ウッちゃん「ん?」
ター坊「僕、ウッちゃんのこと、好きだ!」
ウッちゃん「私も、ター坊のこと好きだよ」
ター坊「え!?」
ウッちゃん「おもちゃとして」
ター坊「そんな関係だったの、僕たち!」
ウッちゃん「あははは。冗談冗談。私も、ター坊のこと、好きだよ」
ター坊「僕、大きくなったら、ウッちゃんと祝言を挙げたい」
ウッちゃん「ごめん無理。弱い奴に興味ない」
ター坊「フラれたー!」
倒れ込むター坊。
ター坊「うう……。まさか、秒で断られるなんて……」
ウッちゃん「いや、それにさ。現実的に無理だろ、私とお前じゃ」
立ち上がるター坊。
ター坊「そんなこと、ないよ……」
ウッちゃん「いや、無理だって」
ター坊「強くなる!」
ウッちゃん「え?」
ター坊「ウッちゃん、弱い人には興味ないんだよね? なら、僕、強くなる。そうすれば、僕と祝言挙げてくれる?」
ウッちゃん「私より強くないとダメだぞ?」
ター坊「……今、物凄くハードル高くなったけど、僕はやる! 絶対にウッちゃんより強くなるよ!」
ウッちゃん「ははは。期待しないで待ってるよ」
ター坊「うん」
ウッちゃん「……それじゃ、またな、ター坊」
ター坊「またね、ウッちゃん」
ター坊(N)「こうして、僕たちは突然の別れを告げることになる。そして、それから、8年の月日が流れた」
波の音が響いている。
浜辺に立つ、ター坊(16)。
対峙するのはウッちゃん(16)。
ター坊「ウッちゃん。約束を果たしてもらいにきたよ」
ウッちゃん「まさか、本当に来るとはな」
シロ「ター坊さん、頑張って!」
マサル「ター坊、負けるんじゃないぞ!」
キッチー「当たって砕けろだ!」
ター坊「うん。みんなは下がってて。必ず勝って見せるから」
ウッちゃん「本当に私に勝てるとでも思ってるのか?」
部下1「頭目、頑張ってくだせえ!」
部下2「一族の誇り、見せてください!」
ター坊「……尋常に」
ウッちゃん「勝負!」
ター坊「うおおおおお!」
ウッちゃん「ふんっ!」
ター坊「ぶえっ!」
ター坊が倒れる。
マサル「ワンパン……だと?」
ウッちゃん「帰れ。弱い奴には興味ない」
ター坊「く、くそ……」
ター坊(N)「あっさりとウッちゃんに負けてしまった。だけど、次の日、僕は同じ場所に立っている」
シロ「ター坊さん、頑張って!」
マサル「ター坊、負けるんじゃないぞ!」
キッチー「当たって砕けろだ!」
ター坊「ウッちゃん。約束を果たしてもらいにきたよ」
ウッちゃん「いやいや。昨日、決着ついただろ」
ター坊「確かに決着はついたよ。……昨日はね」
ウッちゃん「おいおい、約束は……」
ター坊「機会は一回なんて話はなかったよね?」
ウッちゃん「……まあ、何回やっても同じだと思うぞ」
ター坊「今度こそ勝って見せる! うおおお!」
ウッちゃん「ふん!」
ター坊「ぶえっ!」
ター坊が倒れる。
マサル「昨日と全く同じだな……」
ター坊(N)「そして、一か月が経った」
シロ「ター坊さん、頑張って!」
マサル「ター坊、負けるんじゃないぞ!」
ター坊「ウッちゃん。約束を果たしてもらいにきたよ」
ウッちゃん「……その台詞、30回目だぞ」
ター坊「うりゃああああ!」
ウッちゃん「ふん!」
ター坊「ぶえっ!」
ター坊(N)「時が経つのは早く、僕が最初にウッちゃんに挑んでから、1年が経った」
ター坊「ウッちゃん。約束を果たしてもらいにきたよ」
ウッちゃん「……その台詞、365回目だ」
ター坊「うりゃああああ!」
ウッちゃん「ふん!」
ター坊「ぶえっ!」
ター坊が倒れる。
ウッちゃん「……もういいだろ。お前、死ぬぞ」
ター坊「嫌だ! 絶対に諦めない」
ウッちゃん「いい加減に……」
温羅「ああ、いい加減に止した方がいいな」
ウッちゃん「親父……」
温羅「彼の気持ちは本物だ。お前も、わかってるんだろ?」
ウッちゃん「でも、私より強い男じゃないとダメだって言ったのは親父だろ?」
温羅「彼は強い。お前よりずっと強い心を持っている」
ウッちゃん「親父……」
温羅「そもそも、その考え方が古いのかもしれん。時代は動いている。我々もまた、変わらないといけないのかもしれん」
ウッちゃん「……」
温羅「お前自身の心に従え。お前は5代目温羅だが、一人の女でもある」
ウッちゃん「……親父。私、こいつを信じたい。ずっとこいつと一緒にいたい」
温羅「ははは! まさか、鬼と人が手を取り合える時代が来るとはな」
ター坊「ウッちゃん……」
ウッちゃん「約束通り、祝言、挙げてくれるか?」
ター坊「もちろん!」
ウッちゃん「幸せにしてくれよな、ター坊。………いや、桃太郎」
ター坊(N)「こうして、僕とウッちゃんは祝言を挙げることになった。僕は人間と鬼との橋渡しをしたことで、有名になる。話に尾ひれがついて、僕が鬼を退治したことになったという話になったみたいだけど……」
終わり