【アニメシナリオ】微笑みは安寧の闇の中で

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〇 町の外観

  中世ヨーロッパ風の小さな町。

〇 町外れ・川べり

  木の桶が川の水を汲み上げる。

  汲み上げていたのはキース(8)。

  桶を地面に置いて、緩やかな川の水面を見る。

  水面には化け物のように崩れた顔をしたキースの顔が写っている。

キース「……」

  そのとき、後ろから多くの笑い声と足音が聞こえてくる。

  キースが慌てて、桶を拾い上げて走り去ろうとするが、男の子1(10)が前を塞ぐ。

  男の子の周りには4人の同年代の男の子が立って、ニヤニヤとキースを見ている。

男の1「よう、化け物。何やってんだ?」

キース「水を汲んでたんだ。……へへ」

男の子2「化け物が川に近づくんじゃねえ! 川が汚れるだろ!」

  男の子2がキースを突き飛ばし、キースが倒れ、桶の水がかかってしまう。

  それを見て、男の子たちが笑う。

男の子3「よう、化け物。これで少しは綺麗になったか?」

男の子4「無理無理! こいつの顔はクコの実でも綺麗にならないって!」

  ゲラゲラ笑う男の子たち。

  そこにギル(8)が走ってくる。

ギル「お前ら! なにやってるんだよ!」

男の子1「ちっ、ギルかよ。おい、お前ら、行くぞ!」

  男の子たちが立ち去っていく。

  キースに駆け寄るギル。

ギル「キース、大丈夫か?」

キース「ありがとう、ギル。平気だよ」

ギル「あーあ、びしょ濡れじゃねーか。家に来い。乾くまで服、貸してやる」

キース「い、いいよ。別に」

ギル「よくない」

キース「僕なんかといたら、ギルもイジメられるよ」

ギル「いいから来いって言ってんだ!」

  ギルがキースの耳を引っ張り、歩いていく。

キース「痛い、痛いってば!」

〇 ギルの家の中

  古いが立派な家。

  ベッドが置いてあり、その上には目に包帯をしているミア(5)が座っている。

  ドアが開き、ギルとキースが入ってくる。

ミア「お兄ちゃん、お帰りなさい」

ギル「ミア、いい子にしてたか?」

ミア「うん。……もしかして、キースくんもいるの?」

キース「こんにちは、ミアちゃん」

ミア「いらっしゃい! ゆっくりしていってね」

ギル「ミア、タオルってどこにあったっけ?」

ミア「上から二番目の戸棚。……どうかしたの?」

ギル「いや、キースがさ、川で転んで水浸しになったんだよ」

  タオルを取り出して、キースに渡すギル。

キース「ありがとう」

ミア「キースくん、大丈夫だったの? 怪我してない?」

キース「大丈夫だよ。ありがとう、ミアちゃん」

ギル「あ、そうだ。キース、どうせだから飯食っていけよ」

キース「え? 悪いよ、そんなの!」

ミア「いいじゃない! 食べていってよ、ね?」

ギル「よし、決まりな」

キース「……ありがとう」

〇 同(夜)

  テーブルにはささやかな食事が並んでいる。

  それを食べているキース、ミア、ギル。

  全員が笑いあっている。温かい雰囲気。

  キースは本当に幸せそうにしている。

〇 ギルの家の外観

  家の周りと屋根には雪が積もっている。

  家に向かって歩く、鞄を抱えた人影。

  人影はキース(16)。青年になっている。

〇 ギルの家の中

  ベッドの上には目に包帯をしているミア(13)が座っている。

  ドアが開き、キースが入ってくる。

キース「こんにちは、ミアちゃん」

ミア「キースくん!」

  ミアが立ち上がり、見えないながらも手慣れた手つきで、暖炉にあるやかんを手に取る。

ミア「寒かったでしょ? 今、暖かいものをいれるね」

キース「あ、別にいいのに」

ミア「もう! いつもキースくん、そればっかり。遠慮しないでって言ってるのに」

キース「……ありがとう。じゃあ、いただくよ」

ミア「うふふ。待っててね。美味しいの淹れてあげる」

〇 同

  テーブルの前に座っているキース。

  目の前にミアがコップを置く。

ミア「どうぞ、バターミルクだよ」

キース「ありがとう。いただきます」

  キースがゆっくりと飲む。

キース「ふー。美味しい。温まるよ」

ミア「ふふ。よかった」

  ミアがキースの向いに座る。

キース「あ、そうだ。ちょっと早いけど、クリスマスプレゼント」

  キースが足元に置いてある鞄の中から、鉢に入った、花を取り出す。

  その花の花びらは、炎になっている。

キース「サラマンダーの花だよ」

  キースがミアに花を渡す。

ミア「ええ!? サラマンダーの花!? すごい! ……でも、こんな貴重なもの、貰えないよ」

キース「酷いよ、ミアちゃん。人には遠慮するなって言ったのに」

  その言葉を聞いて、ミアがきょとんとするが、不意に笑いだす。

  つられて、キースも笑う。

ミア「ありがとう。キースくん。うふふ。暖かいし、いい匂い」

  鉢を大事そうに手に抱えるミア。

キース「そういえば、ギルはどこに行ったの?」

ミア「もうすぐ、帰ってくると思うけど……」

  そのとき、勢いよくドアが開き、ギル(16)が入ってくる。

ミア「お兄ちゃん、お帰りなさ……」

ギル「くそっ!」

  ギルが家の壁を殴る。

キース「どうしたの? ギル?」

ギル「あの野郎! 俺に譲ってくれるって約束だったのに、貴族なんかに売りやがって!」

ミア「お兄ちゃん?」

  ギルがミアの前に来て、俯く。

ギル「ごめんな。ミア。目を治してやれなくて」

ミア「……どういうこと?」

ギル「もう少しで、クコの実が手に入ったのに」

キース「ええ! クコの実?」

ギル「十年間、ずっとお金を貯めてたのに……」

ミア「もう! クコの実があれば、どんな病気も治るなんて迷信だよ。そんなの信じてるなんて、お兄ちゃんも子供だなぁ」

ギル「でも、でもよぉ……」

ミア「よかった、売れちゃって。もし、そんなの買ってきてたら、私、お兄ちゃんを怒ってたところだよ?」

ギル「二十年に一度しか、成らない実なんだぞ? せっかく、今年、その実が成ったいうのに……」

ミア「はいはい。もう、この話はおしまい。さ、ご飯食べましょ! 用意するから」

〇 同(夜)

  ベッドの上にミアが座り、その横では椅子に座っているキースが本を読んでいる。

キース「そして、お姫様は幸せに暮らしたとさ。おしまい」

ミア「ありがとう、キースくん」

キース「……さてと、そろそろ帰ろうかな」

ミア「泊って行けば?」

キース「はは、それはさすがに。……ねえ、ミアちゃん。もし、もしさ、目が治ったら何してみたい?」

ミア「うーん。そうだなぁ……。キースくんの笑顔が見たい!」

キース「そっか」

  キースが悲しそうに微笑む。

〇 ギルの家の前

  家からキースが出てくる。

  外には荷造りしたギルが立っている。

ギル「キース、ニアを頼んだぞ」

キース「僕が行く」

ギル「ダメだ! 死ぬぞ!」

キース「だからだよ」

ギル「え?」

キース「ギルとミアちゃんには、一生分の幸せを貰った。だから、恩返ししたいんだ」

ギル「何言ってるだよ! あんなの、普通のことじゃねーか」

キース「その普通のことをくれたことが、僕にとってどんなにかけがえのないことだったかわかる?」

ギル「キース……」

キース「お願いだ。僕に行かせて。絶対に、クコの実を取ってきてみせる」

  キースがギルの荷物を手に取り、歩き出す。

  キースがゆっくりと雪の中を歩く。

キース(N)「本当はずっと、このままがよかった。もし、目が治ったら、ミアちゃんは僕の顔を見たら嫌いになる。……そんなのは耐えられない。だから、僕はクコの実を手に入れたら、ミアちゃんの前から姿を消す。もし、手に入れられなかったときには、死のう。これ以上、二人には迷惑をかけられないから」

〇 ギルの家

  ベッドの上に座っているミア。

  窓から見える景色は春になっている。

〇 町中

  陽炎が漂う中、ギルが汗を拭いながら荷物を運んでいる。

〇 ギルの家

  ベッドの上に座っているミア。

  窓から見える木々は紅葉が色づいている。

〇 ギルの家

  ベッドの上に座っているミア。

  白い息を吐くミア。

ギル「ほら、ミア。バターミルクだ。温まるぞ」

ミア「……」

  コップを受け取るが、飲もうとせず、ぼんやりとしている。

ギル「……」

  そのとき、ドアが開く。

  そこにはボロボロになったキース。

ギル「キース!」

  キースに駆け寄る、ギル。

キース「……ごめん。ごめんなさい。僕は」

  手のひらを開くと、潰れた実がある。

キース「身を手に入れることも、死ぬこともできなかった……。また、二人に会いたいって思っちゃったんだ……」

  ポロポロと涙を流す、キース。

  そんなキースに抱き着くミア。

ミア「ごめんなさい、キースくん。私、気づいたの。キースくんの笑顔が見れなくても、笑顔のキースくんの隣にいたいって。だから、もう、どこにも行かないで!」

キース「ミアちゃん……。ありがとう」

  キースがミアを抱きしめる。

ギル「馬鹿野郎!」

  ギルが二人を抱き着く。

ギル「俺を仲間外れにするんじゃねぇ!」

  その言葉を聞いて、ミアとキースが笑いだす。

  つられて、ギルも笑い出す。

  そして、三人が大声で笑うのだった。

終わり

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