【声劇台本】時の向こう側
- 2019.05.08
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:4人
時間:10分程度
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
健吾
京介
美沙
麻衣
■台本
健吾(N)「夢を見る。それは決まって同じシチュエーション。どんなに望んでも続きを見れるわけでもないし、どうしてそうなったかも知ることはできない。断言できるのは、この場所には行ったことがないし、この人にも会ったことはない。テレビで見たワンシーンなのだろうか? それにしては、全く思い出せない……」
大学内で、周りは若干、騒がしい。
そんな中、中川京介(19)がやってくる。
京介「よお、健吾、相変わらず眠そうだな。昨日も夜更かしか?」
健吾「いや、昨日は割と早く寝たんだけどな。またあの夢見た」
京介「あー、いつもの夢か。しっかし、大変だよなぁ、寝たのに逆に疲れるなんて」
健吾「それは諦めたからいいんだけどさ……」
京介「ああ。そっちか。けど、いい加減、割り切った方がいいんじゃね?」
健吾「そうなんだけどさあ、ここまで来て投げ出すなんて、逆に気持ち悪いんだよな」
京介「そうかぁ? そこまでこだわる方が、キモイと思うけど」
健吾「うっ……。うるさいな。いいんだよ」
京介「まあ、俺が口出すことじゃないからな。お前の好きなようにやればいいさ」
健吾「優しいようで、冷たい言葉だな」
京介「おいおい、そんなこと言っちゃっていいわけ? そんなお前に朗報を持ってきたってのにさ」
健吾「……朗報?」
京介「この大学、映研のサークルあるんだってさ」
健吾「映研ねぇ……。別に撮る方には興味ねえよ」
京介「いやいや。違うって。見る方の研究らしいぜ。割とガチでやってるみたいでさ、映画公開日に見た映画を、最終的な興行収入とか週のランキングとかピタリと当てるみたいだぜ。その業界だと、結構有名っぽい」
健吾「別にそういうのじゃないんだよなぁ」
京介「いやいや。最後まで話を聞けって。何が言いたいかっていうと、そんな人たちだから、きっと、膨大の量の映画を見てきたと思うんだよ。きっとお前よりもさ」
健吾「あっ……なるほど」
京介「可能性ありだろ? さっそく、今日の講義終わったら、顔出してみようぜ」
健吾(N)「京介の提案通り、俺たちは講義を終えた後、すぐに映研のサークルに顔を出したのだった」
美沙「うーん。そのワンシーンだけじゃ、ちょっとわからないわね」
健吾「……そう、ですか」
美沙「でも、それって主人公目線の映像なのよね?」
健吾「そうですね。こっちに向かって話かけてるので」
美沙「結構、特殊なのよね。主人公視点の映画って」
京介「どういうことっすか?」
美沙「普通、映画って神視点……つまり、主人公自身の体を写すようにしてるでしょ。主人公の目線で撮る映画ってなかなかないのよ」
健吾「言われてみると、確かに……」
美沙「でも、そういう映画もなくもないし、ワンシーンだけなら、そういう風に撮ることもないと思うけど」
健吾「……収穫なしか」
京介「俺は十分にあったぞ。ここのサークル、可愛い子多い。俺、入ろうかな……」
美沙「ふふっ、入会大歓迎よ。基本、映画を見るのが活動内容だからね。一人で見たり、二人で見たり」
京介「俺! 入会します!」
美沙「ありがとう。そっちの君はどうする?」
健吾「俺は……どうしようかな」
美沙「確かに、君が探したい映画を当てることはできなかったけど、ここには映画好きの人たちが集まるのよ。もしかしたら、ここにいる誰かが知ってるかも」
健吾「……それじゃ、入会します」
美沙「はい、お二人様、入会追加。じゃあ、この用紙に名前と学生番号書いてね」
そのとき、ドアがガラガラと開く。
そして、オドオドと日比谷麻衣(19)が入ってくる。
麻衣「あ、あの……ここ、映画研究会のサークルって聞いたんですけど……」
美沙「あら、今日は来客が多いわね」
京介「おい、健吾、見ろよ。試写室があるぜ」
健吾「あっても不思議じゃないだろ」
京介「バカ! 見るべき点は、部屋の大きさだ」
健吾「……普通の部屋よりだいぶ小さいな」
京介「ありゃ、二人入るのでいっぱいいっぱいだ。てか、暗がりで密室で、男女が二人っきりで映画を見る……。これは恋の予感だぜ」
健吾「……男二人で見る可能性も考慮しておけよ」
美沙「あら、君も? 最近、流行ってるの? そいうの」
麻衣「えっと、わからないですけど、私が探してるのは……」
健吾「……」
健吾と京介が並んで歩いている。
京介「いやー、いいサークルだな。明日からさっそく、通い詰めだぜ。こりゃ、はかどるな」
健吾「なにがだよ」
京介「お前さあ、そろそろ、夢の中の女を追っかけるんじゃなくて、現実を見ろよ。三次元に興味持て!」
健吾「いや、夢のあの人も三次元の人だぞ」
京介「はあー。絶対に叶わない恋。俺なら、秒で諦める自信があるけどな」
健吾「別に、そういうんじゃないって言ってるだろ」
京介「はいはい。恋してる奴はみんなそういうんだよ」
健吾「なんだよ、その酔っ払いはみんな酔ってないって言うような感じは」
京介「まずは彼氏がいないかのリサーチからだな。これは忙しくなるぞぉ」
健吾「目的が不純すぎる……。って、おっと。京介、俺、ここ寄ってくから」
京介「おいおい。今、現実の女に目を向けろって言ったばかりなのに。……なんだかんだ言って、お前も映画好きだよな」
健吾「だから、別に好きで見てるんじゃなくて……」
京介「はいはい。夢の、あのシーンが気になるんだろ。頑張って探してくれ。じゃあ、また明日な」
京介が歩き去っていく。
健吾(N)「結局、映研の部屋にあった映画は全部見たことがあるものだった。だから、正直に言って、俺があのサークルに通うメリットはあまりなさそうだ。確かに、サークルのメンバーに聞いて回るのもありかと思うけど、言葉で伝えても、あまり伝わらない。こういうのは実際に見て、探すしかないと思う」
レンタルショップを歩く健吾。
健吾「おっと……。ついにこの棚を制覇しちまったか。次はこっちの……」
健吾が麻衣とぶつかる。
麻衣「きゃっ!」
健吾「あ、すみません。大丈夫ですか……って、あれ? 君ってさっきの」
麻衣「あ、さっきのサークルの人ですよね?」
健吾「まあ、入ったのは今日なんだけどね」
麻衣「映画、好きなんですね。ここの限度枚数の30枚借りてる人を見たのは初めてです」
健吾「そういう君だって、同じじゃない?」
麻衣「えっと……私の場合、ある映画を探してるんです」
健吾「映画を……探してる?」
麻衣「はい。ワンシーンだけ覚えてるんです。妙に気になってしまって……」
健吾「俺と同じだ。それって、どんなシーン?」
麻衣「え、えっと……」
健吾(N)「話を聞いて、驚いた。なぜなら、それは俺が探しているシーンとほぼ同じだった。違うところと言えば、視点が違うというところだけだ」
麻衣「よかった……」
健吾「え? なにが?」
麻衣「他にも見てる人がいるなら、存在するってことですよね。正直、諦めかけてたんです。もしかしたら映画のワンシーンじゃないのかなって」
健吾「……それは確かに、俺も怖かった」
麻衣「あの、よかったら、一緒に探しませんか? 一人だと、不安で」
健吾「ああ、そうだな」
健吾(N)「それは普通の流れだったと思う。同じものを探す人が欲しかった。お互いの利害が一致したのだから。それからというもの、俺は麻衣と一緒に映画を見ることが日課になっていった」
大学。
京介「お前、ふざけんなよ! 興味ないみたいな顔して、俺より先に彼女作ってんじゃねえ」
健吾「いや、だから、そういうんじゃ……」
麻衣「健吾くん、お待たせ。さ、行こう」
健吾「ああ、わかった。じゃあな、京介」
京介「きー! その余裕の態度、ムカつくぜ」
健吾(N)「それは突然だった。何気なく見に行った新作の映画。別に俺たちが探していた映画というわけではなかった。ただ、なんだか、台詞が妙に胸に刺さったのだった」
映画館。映画が上映されている。
男「それは前世の記憶なんだ。だから、鮮明で妙に心に残る。まるで映画のワンシーンのようにね」
女「じゃあ、私の記憶に残っているあのシーンは前世の記憶ってこと?」
男「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。でも、それは重要じゃない」
女「え?」
男「せっかく、君はこの世界で生きているんだ。そのワンシーンを追うのではなく、今の自分の人生の続きのシーンを描いていくべきだ」
健吾(N)「気が付くと、涙が流れていた。今まで数百の映画を見てきたけど、映画で泣いたのはこれが初めてだった」
町の中。
健吾と麻衣が並んで歩いている。
麻衣「すごい映画だったね。なんだろ、心に沁みるっていうか」
健吾「そうだな」
麻衣「ねえ、やっぱり、映画を探すのは止めた方がいいのかな? ちゃんと今を見ないとダメなのかな?」
健吾「俺は諦めない」
麻衣「え?」
健吾「あの映画を探しつつ、今の人生の続きもちゃんと描いていく。まさにいいとこ取りだ」
麻衣「ふふ、なにそれ」
健吾「だから、その……続きは麻衣と一緒に進んでいきたい」
麻衣「……うん、私も!」
健吾(N)「俺は一つだけ、麻衣に嘘を付いている。実は俺は、もうあの映画を探すことをそれほど重要としていない。本当に不思議なことなのだが、麻衣と出会ったあの日、妙な達成感というか、もう探す必要がないという感覚になったのだった」
喫茶店。
健吾「と、まあ、結婚前に嘘を告白してみました」
麻衣「うふふ。よかった」
健吾「え?」
麻衣「同じ嘘ついてたなら、相殺されるよね」
健吾「……はは、麻衣もだったのか」
健吾(N)「過去を追うのはもう終わりだ。これからは未来を見て進もう。麻衣と一緒に」
終わり
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